邂逅の先、白の上での八左ヱ門視点
何故夢主のところまで来たか
穏やかな日だ。俺は用具で出庫表にサインをしながらそう思う。
明日は実技の試験があるから委員会は休みにした。試験の内容も得意な忍刀の試験で、ざっと復習をすればいい。
借りた試験用の忍刀を携えて倉庫を出ようとした時だった。
「た、竹谷せんぱーい!」
手足を大きく振ってかけてきたのは、同じ生物委員会の一年い組、上ノ島一平だった。いつも穏やかな顔を今日は随分と焦らせている。
とてもいやな予感がする……と俺はせっかく持ち出した忍刀を元の位置に戻した。
「一平、どうした?」
「はあ、はあ……生物小屋の前を通りかかったら、穴が開いていて……それで」
――うさぎの雪子がいないんです
いないんです。この言葉を学園一聞いているのは自分だという自信があった。忍術学園の生き物たちはよく脱走する。大半は三年生の伊賀崎孫兵が飼っているペットであることが多かったが、委員会で飼育している動物もいなくなることは少なくない。
今日はうさぎか、なんて今日のおかずは煮物か、といった風に考えてしまう。それほどまでに、生き物探しは俺の生活の中で当たり前になっていた。
「他の委員には言ったのか?」
「はい。三治郎と虎若、それから孫次郎は学園内を探しています。伊賀崎先輩を探したんですが、ジュンコと出掛けてしまったと三年生の先輩がおっしゃられていました」
まあ、孫兵はそうだろうな、と一番歳の近いマイペースな後輩を思い出す。
「竹谷先輩、明日試験なのにごめんなさい!」
申し訳なさそうに頭を下げる一平に、俺は気にするな、と告げた。
「なにも雪子が逃げ出したのは一平のせいじゃないだろう。俺は外を探してくる。一年は学園内を頼んだぞ。毒草園の草でも食べたら大変だ」
一平は返事をして戻って行った。こうなれば早く見つけてしまう他ない。さっさと外出届を出して雪子を探しに行く。
そう遠くは行っていない筈。しかし、元々穴倉で生活している動物を探し出すのはなかなか困難だ。
こんな陽気のいい日は……と俺は心当たりの場所へ向かおうとする。
――いやあああああっ!
思わず足を止めた。今聞こえてきたのは明らかに女の声だった。しかも遠くはない。何かあったに違いないとそちらに爪先が向く。
ちょうど微塵を忍ばしてきている。賊の何人かだったら助けることができるだろう。
俺はすぐに走り出していた。
出たのは広い原っぱだった。白詰草が一面に広がっていて、白い花を咲かせている。ひとつひとつは小さいが、その数は何万もある。広い敷地が白と緑で、埋め尽くされている。素朴な花であるにもかかわらず、それは幻想的に見えたのだ。
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