いつ電話しても話し中ってそれ着拒だから
しんと静まり返った処女宮内。
石造りの神殿の奥にある蓮華座で、宮の主であるシャカがいつものように瞑想をしている。
『シャカ、いるのでしょう?』
静寂を破ったのは意外な人物だった。
呼ばれてシャカが意識を目の前の相手に向ける。
「ムウか。一体何があったのだ?」
その場から動かないまま、シャカはムウに問う。
問われたムウはと言うと、シャカに用があってきたはずが、口を僅かに開きかけては躊躇うように閉ざす。
数秒の逡巡の末、なおも躊躇いを残しつつ、ムウはゆっくりと口を開いた。
「君に聞きたいことがある」
「ほう、わたしに?珍しいこともあるものだ」
「茶化さないでください。こちらは真剣なのだ」
「それで聞きたいことと言うのは何だ?」
「それは…携帯の……ことだ」
「まさか使い方が分からないという訳でもあるまい」
「勿論、そういうことではありません。わたしが聞きたいのは……」
シャカの言葉をきっぱりと否定した癖に、代わりの言葉を途絶えるムウ。
彼がそこまで躊躇うほどの苦悩とは一体何なのか。
シャカには皆目見当がつかない。
アテナ、沙織が総帥として日本や各地に出向く際、表向きは総帥の護衛として聖闘士は付き従う。
その時に彼らは表向きの連絡手段として携帯を使用する。
殊に彼ら黄金聖闘士に関しては、各々専用の携帯を与えられている。
もちろん小宇宙という通信手段があるので、機械類の扱いに不得手な者らはほとんど携帯に頼ろうとはしないのだが。
どちらかと言えば、シャカよりムウの方がこの手の機具の扱いは長けているので、シャカとてムウが聞きたいのは別のことだと分かっている。
いや、待て…。
思い当たる件なら、一つだけある。
「通話相手の件か…」
「ああ、やはり君もですか。良かった」
シャカの答えにムウは何やら安堵の溜息をついた。
何が良かったのかは凡その検討がつく。
「エナガが電話に出ぬのだろう?」
「ええ。いつ電話をしても話し中で、繋がらないので。直に会うことは会えますし、何事もないようなのでいいのだが…」
「…そうだろうな」
よもやその件で先日エナガに助けを請われたのは、シャカの記憶に新しい。
連絡が付かない。
もしや何か危険な目に遭っているのではないか。
再度電話。
一分刻みに更新される着信履歴の名前に、エナガでなくとも恐怖を覚えるのは必至。
面と向かって顔を会わせれば至って普通に会話が出来るものの、電話に関しては……正直ムウが怖い。
エナガの気持ちは尤もだろうなと、話を聞かされたシャカは思った。
とはいえ、この件に関してはシャカが最良の助言をできたわけでもなく、とりあえず着信を拒絶してみればいいぐらいしか言えなかった。
要するに放っておけ、ということである。
ただ明確な拒絶の意思を示すと後が面倒になるので、エナガ曰く、話し中となるように設定したと言う。
如何せん、ムウはエナガが不気味を通り越して恐怖を覚えているなど、露知らない。
下手に刺激して質問攻め、果てには…………と、嫌な予感しかしないのは、通常の反応だろう。
エナガも小宇宙で会話が出来ればこのような問題も発生しない……とは言い切れないのが悲しいところだ。
一日に何回も交信を求めていれば、いずれ行き着く先は同じ。
そもそもこの手の相談を自分にするのか、という思いが当初シャカにはあった。
だがそれもエナガの次なる発言で全て納得がいった。
皆に話しても「まさかムウが」とか、「心配性なだけだ」とかで、まともに取り合ってもらえなかった、と。
頼れる相手がシャカで最後ということである。
それはそれで腑に落ちない気分にもなるが、追いつめられ必死なエナガを見るに不満を漏らせなかった。
(ストーカーという者は至極厄介な者なのだな…)
「何か?」
「いや、…だが、敢えて言おう」
短い嘆息の後、シャカは再びムウに意識を向ける。
シャカの真意が分からないムウは、不審に思いつつも、相談に来た手前とやかく追究せず、じっと彼の言葉を待った。
「暫く電話は慎みたまえ。時には引くことも肝心だと思わないかね?」
「どういう意味だ?」
「どうもこうも、そのままの意味だがね」
「わたしは色事の駆け引きを請いに来たわけではありません」
何を馬鹿なことを…と呆れるムウに、シャカは心底呆れかえった。
(馬鹿なのは君ではないか…)
(完)
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【投げやりアドバイス5題】
配布元;確かに恋だった
ギャグだと当サイトではいろいろとぶっ飛んだ感じになるおシャカ様ですが、今回はムウ様にぶっ飛んでもらいました。
それはさておき、無自覚なムウ様&割と常識人(と言っても常人基準ではやはりずれている)なシャカも好きです。
2015/1
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