「見つめるだけで胸が痛い」か、相手は頭が痛いだろうよ





恋愛音痴な友人の恋、応援してやろうではないか。
そう意気込んできたものの、友のあまりの空回り様にミロも匙を投げたくなった。

頭を抱えたくなるのを必死に堪え、ミロは引き攣った笑みを浮かべつつ正面に座るカミュに向き直る。
この親友、思っていた以上に鈍感で性質が悪い。
相談に乗ってまだ数日しか経っていないものの、ミロが出した結論がこれである。

先日、いつになく思いつめたカミュがミロのもとに訪れた。
何事かと思ってとりあえず自室まで招き入れた…のが、相談、それも恋愛相談になろうとは。
しかも、当の相談者は相談事が恋愛相談などとは、今に至っても毛頭思っていない。

腰を落ち着けてもすぐには話を切り出さず、幾許かの逡巡の末、漸く口を開いたかと思えば、「エナガを見ていると胸が痛む」というものだった。
時間が夜で、面倒で灯りをつけなくて本当に良かったとミロは思った。
きっと己は驚きで間抜けな顔していただろう。
それでも雰囲気でカミュには伝わってしまったのだが…。

あまりに意外だが典型的とも言える発言に、ミロは暫く答えに窮したものだ。

いや、お前…理由くらい普通気づくだろ。
驚きから呆れに変わった途端、そう言ってやりたい衝動に駆られつつも、ミロはカミュの主張を一通り聞き入れた。
とりあえず、見ていて痛むのなら見なければいいと適当に答えたのだが、これがいけなかった。

真面目に受け取った生真面目な男は、文字通りエナガを見るのを意図的に止めた。
意図的にというのは、無意識に視線が彼女へと向いてしまうらしく、意識をしなければならなかったためらしい。

助言した翌日の夕方、今度はエナガが泣きそうな顔でミロに聞きに来た。
自分はカミュに嫌われるようなことをしてしまったのか、と。

聞けば突然カミュに視線を逸らされ続けたと言う。
要するに、ガン無視、である。

思い当たる節が見当たらない彼女は、本人に直接聞きづらく、替わりにカミュと仲の良いミロに聞いたのだろう。
その日、ミロはカミュともエナガとも会っていなかったので、エナガの言葉に衝撃を受けるととともに、「馬鹿野郎。無視しろとは言ってないぞ!」と自宮にいるであろう親友に向けて小宇宙でツッコミを入れざるを得なかった。

エナガが去ると今度はカミュが天蠍宮まで降りて来た。
開口一番、「無視などするものか。目を合わせなかっただけだ」と言ってのけるカミュに、それが問題だとミロは声を大にして駄目出しした。
それでも友の恋路を応援するとミロ自身決めたものだから、三日も経たないで投げ出すわけにはいかず、胸の痛みの件について聞いてみた。
案の上、見ていなくても痛い、それどころか見ない方がもっと痛むと、真顔で答えてきた。

何故気づかないのか。
つくづくそう思うのだが、その日も指摘はせずに別の助言をした。
どちらでも痛むのなら、いっそ見つめていろ。

半分投槍で言ったことをミロが後悔したのは、やはり翌日、エナガに駆け込まれてから。
無視された次の日には、一日中鋭い視線を注がれ続け、昨日とは別の意味で不安になったらしい。

やはり自分はカミュに何かしてしまったのか。
カミュがよく解らなくなった。
不安と恐怖で目を潤ませ、今にも泣き出しそうなエナガをミロは見ていられなかった。

原因はカミュの行動だが、助言した己にも非はある。
だからこの件は任せてくれと言ってエナガを帰し、ミロは天瓶宮に乗り込んだ。
それが今日だ。

カミュもまた下でのやりとりを伺っていたらしく、突然来訪したミロに驚く気配も見せず、すんなり居住区へと通した。

見つめろとは言ったが、視線を逸らすなとは言っていないぞ。
ミロの指摘にカミュは怪訝そうに眉を顰めて、「そんなつもりではなかったのだが」と至極真面目に言い返してきた。
つまり、一度見つめていたら目が離せなかった、ということか………。

そんなこんなで、話は冒頭に戻る。


「カミュ」
「なんだ」
「オレの口から言ってしまっては意味がないと思っていたが、敢えて言うぞ。お前はエナガをどう思っているのだ?」
「何を言う?友に決まっているだろう」
「…………そこからなのか」


嫌な予感が的中し、ミロはがっくりと項垂れる。
ミロの反応に納得いかないのがカミュだ。
あからさまな親友の落胆ぶりに不可解どころか不満で眉をつり上げる。


「友でなければ何だと言うのだ?ミロ、お前はそう思っていないのか?」
「オレはそうだが、お前はそうではない…」
「なに」
「では聞くが、俺を見ていても胸が痛むのか?」
「馬鹿な。あるわけがない」
「だろうな。オレとしてもあってたまるかと言いたいぞ。気色悪い。どうせ思われるなら、オレは女がいい。男から熱い視線を注がれたくない」


というか、想像したくない。
自分で言って置きながら、思わず鳥肌が立った。
そんなミロの様子を見て、カミュははたと思う。

気色悪い、とは?
男ではなく女が良い、とは?

思えば先程自身もあるわけがないと否定したのは、もしかするとミロと同じ感覚からかもしれない。
そう考えると、やはりというか何というか、得心できた。


「わたしは彼女に惚れているのか?」
「オレに言うな。そして、聞くな。その様子だと聞かずとも答えが出ているようだぞ…」


ほとほと呆れたとばかりにミロは溜息まじりに呟いた。

ああ、全く、頭が痛い………。
恐らく痛いのはミロだけではないだろう。
エナガもまた今頃頭を痛めているはずだ。

ただ事情を知ればミロほど頭を抱えなくて済むには済む。
なんせエナガの想い人こそ、ミロの目の前でぶつぶつと自問自答を繰り広げているカミュその人だからだ。

恐らくエナガの気持ちに気づいているのは、ミロと、比較的彼女と親しくしていてそうした機微に聡いムウである。
ムウはどうだか分からないが、かく言うミロはエナガがうっかり口を滑らせなければ気づかなかっただろう。
ともあれエナガ本人からカミュには言うなと口止めされているため、ミロは言いたくても言えない。
理由はミロからすればこれまた理解し難いもので、「自分はこの世界の人間ではないし、今は異世界を行き来できても、いつできなくなるか分からないから」である。
エナガの口から改めて言われないと、忘れてしまうくらい彼女はここに馴染んでいる。

カミュもエナガを好いている。
エナガもカミュを好いている。

めでたいことに両想いではないか。
同時に事情を知る者からすれば非常にもどかしくもある。


(先の事を考えてばかりでは意味がないのだ。今が大切だろう!)


もどかしさと馬鹿らしさでミロの苛立ちが最高値に達そうとした時、宝瓶宮にもう一人の当事者が現れた。
居住区の入り口手前で立ち往生しているのは、きっと躊躇っているからだろう。
全くもってもどかしい。


「エナガ、いるならさっさと入って来い!」
「え、ミロ?なんでここにいるの?」


主以外の声にエナガは驚くも、戸を開ける気配はしない。
このままでは埒があかないと思ったミロの行動は速かった。
己が想いの自覚直後で絶賛混乱中であるカミュの意思などお構いなしに、ミロは立ち上がるとずんずん戸口まで進んで思いっきり開け放つ。


「ちょっ……何するの?」
「どうせカミュに用があったのだろう?丁度いい」
「は?え、何、丁度いいって……」
「これからは二人でじっくりと話し合え。あと、先に詫びておくが、これ以上黙っていることはできん」
「だから何が言いたいの?」
「傍から見ているとじれったいのだ。いい加減くっついてしまえ」
「―――!?」
「なっ、み、ミロ、なんで……!?」


エナガの抗議を黙殺し、交代だ、とミロはエナガを置いて部屋を出た。

ここまでお膳立てしてやったのだ。
後はしっかり決めるところは決めてしまえ。

呆然とするエナガの気配を背に感じつつ、ミロはカミュにだけ分かるよう小宇宙でエールを送った。
事が成就したことなど、翌日、嫌と言うほど思い知らされるし、その後も何だかんだで親友とその恋人に巻き込まれるのだろう。
そこまで想像した時点で、勘弁してくれとばかりにミロは再度頭を抱えながら帰路に就くのだった。






(完)

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【投げやりアドバイス5題】
・「見つめるだけで胸が痛い」か、相手は頭が痛いだろうよ
配布元:確かに恋だった

(そして、俺の方がもっと痛いbyミロ)が、タイトル横に付きそうな気がします。
割と投槍じゃ…ない?(まあ結局最後は投げちゃってますけどね♪)
BGMは「さくらんぼキッ●」でした。ふざけてるにもほどがありますね。

2015/1


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