好きなら好きってはっきり言ってよ!
寒かったり、暖かだったり。
どっちつかずな天候は、まるで二人の関係を表しているようで…。
「じれったいものですね」
車内から外の景色を眺めていた沙織が、ぽつりと呟いた。
隣にいるサガにも沙織の独り言は耳に入ったらしく、何がじれったいのかと沙織に問いかけた。
「分かりませんか?ムウとエナガさんです」
「二人が何かしたのでしょうか?」
「いいえ。何もないことが困っています。傍から見ていれば嫌でも分かるというのに」
ここまで言えばサガも合点して、苦笑しか浮かばなかった。
流石に人の恋愛ばかりは当人たちの問題であり、サガがとやかく言えるものではない。
ない……のだが、隣に座る女神にはいてもたってもいられないと見える。
「もう限界です」
「どうされました?」
サガの問いに答えることなく、沙織は徐に鞄から携帯を取り出すと、慣れた手つきで文字を打ち込んでいく。
メールとなれば流石に覗き見るわけにもいかず、サガは仕方なく沙織から視線を外した。
きっとムウかエナガのどちらか、あるいは二人ともをけしかけるつもりなのだろう。
もちろん彼らからすればたまったものではないだろうが。
ここにはいない二人にサガは同情するも、どうとすることもできなかった。
*****
メールを知らせる振動に何かと思い開いて即、ムウは面食らった。
まず女神からのものであることに何事かと驚き、続く文面でいよいよ唖然とした。
『いい加減想いを伝えなさい。見ていてもどかしく思います』
内容は簡潔だが実行するとなれば話は別。
もしこれをエナガが見たらパワハラではないかと言いそうだ。
己が想いを隠しとおせるとも思っていなかったし、もともと隠す気もなかった。
そもそも隠す隠さないの問題ではない。
周囲がどうであれ、肝心のエナガには全く気付かれていないのが問題だった。
直球で好きだ愛していると伝えてこそいないものの、どうみても…な愛情表現ならこれまで散々してきたつもりだ。
…が、どうしてか彼女には伝わらない。
あの我が道を行くシャカにさえ「君には同情する」と憐れまれたのは、今でも覚えている。
要するに気付いていないのはエナガだけ。
この状況を鑑みるに、恐らく沙織の言うように直球で想いを伝えたところで、「私もムウのこと好きだよ(友として)」、など的外れな返事しか戻ってこない…のは、恐らくムウの気のせいではない。
ある意味見事なまでのスルースキルに感心できないのは、ムウが当事者だからだろう。
「ムウ、どうしたの?何かあった?」
「いいえ、何もありません」
「でもさっき驚いた顔をしていたよね?」
気付かないでほしいところだけ的確に衝いてくるエナガに、他のことにも鋭くなってください、と、ムウが内心つっこんだのはここだけの話だ。
ともあれ、女神に有無を言わせぬ激励をいただいたのだ。
期待に応えないわけにもいかない。
「エナガ、話があります。以前から伝えようと思っていたことです。聞いてくれますか?」
「もちろん」
「では…少し場所を変えましょう」
「え、ここじゃマズイの?」
ここ、というのは都内のカフェテリア。
昼も過ぎて然程人でごった返してはおらず、この程度の雑音なら別に話が聞き取れないほどのものでもない。
それでもとムウは言う。
何か大事な話なのだろうか。
穏やかな笑顔にもどことなくいつもと違うような何かをエナガは感じた。
ただ、悲しいかな、感じたところで告白という超展開が待っていようとは微塵にも思わなかった。
それどころか、持ち前の悲観的思考は悪い方向へと向かっていく。
(わ、私何かしでかしちゃった…?あ、待って。前からってことは、したんじゃんなくてずっとしていたってことじゃ……。ムウは優しいから今まで言えなかったとか?あ、あり得る……)
ぐるぐると過去の失態(エナガ基準)がエナガの頭の中で回っている。
逸れないようにとムウに手を引かれている間、エナガは何を言われるのか(怒られるのか)と気が気ではなかった。
「ここならいいでしょう。エナガ?」
「は、はい!」
「…そこまで身構えないでください。別に取って食おうとしているわけではありませんよ」
「ごめんなさい。あの、私――――」
エナガが言いかけたところをムウは制止した。
口に一指し指を添えられ、エナガは何も言えなくなる。
「まずわたしに言わせてください」
「…………」
「気付いていないようなので、率直に言います。わたしはあなたが好きです。もちろん、人としても、一人の女性としても」
「私も好きだよ(友として)」というエナガが言い返す前に、ムウは言い切った。
これならいくら鈍いエナガでも分からないはずがない。
しかし、つい先程まで怒られるという不安の真っ只中にいたエナガの思考は、ムウの予想をいともあっさり裏切ってくれた。
「え、好きに性別関係ないよね?」
「…………まあある意味そうなのかもしれませんが」
これにはムウも流石に愕然とした。
好きでは伝わらないのか。
やはり愛していると言うべきだったか。
いくらなんでも分かるだろうとふんだ己の詰めの甘さを、ムウは今痛感している。
ともすれば頭を抱えそうなムウに、エナガもエナガで漸く何かがおかしいのだと察しがついた。
(あ、あれ?好きって私の言動に呆れてないよ的な意味での好きだよね?ん?好き…好き………人と性別………)
「ああ!え!もしかしてそういう好きじゃなくて、恋愛的な好き!?」
「ええ………気付いてもらえたようで何よりです」
返事はどうなるのだろうか、色好いものでなくても振り向かせてみせるなど、諸々の意気込みも吹っ飛んでしまったムウが言えたのはそれだけだった。
「もう、だったらはっきり言ってくれればいいのに」
「……ですから今し方言いました。不満でしたらより直球路線でいきますが?」
「具体的には?」
聞いた瞬間、エナガは非常に後悔した。
にっこりと向けられた笑みの裏に潜む何か……。
エナガにでも分かるほどの嫌な予感。
「や、やっぱりいい!聞かないことにする」
「それは残念です。それにしても、こういう時は鋭いというのも如何なものかと思いますよ」
「だ、だって、さっきは怒られるかと思ったからで、ほ、ほら、ムウは優しいから本音とかあまり言ってくれないでしょ?だから―――」
「わたしはエナガが思うほど優しい人間でもありません。勘違いが原因で感が鈍るというのなら、これからはより直接的かつ具体的な言葉にします」
「そ、それは…助かる、よ……うん」
「ああそれと念には念をということで、有言実行させていただきます。覚悟するように」
「へ?」
それはもう清々しいまでの笑顔で宣告するムウに、エナガはそれ以上何も言えなくなった。
固まるエナガに追い打ちをかけるように、ムウはエナガの耳元で囁いた。
散々振り回してくれたのです。
今度は振り回すくらい大目に見てもらいますよ。
(完)
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5.好きなら好きってはっきり言ってよ!
●鈍感な彼女のセリフ5題
配布元:確かに恋だった
VD夢ばかり書いていたので、リハビリがてら。
微妙に鈍感じゃなくなったような…。
2015/2
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