幸い中の不幸





悩むことも仕事といわんばかりに、またしても悩める男。
今日も今日とて不毛なことで気を煩わせている。

視線の先には彼の想い人であり恋人。
そして隣にいるのは……。


(ええい、近過ぎる!いくら仕事の話とはいえ、あの距離はどうなのだ!?カミュは比較的安全かと思っていたが……それにしてもエナガもエナガだ。カミュが時折向ける視線の意図をどうして気づかな……いや待て。気づかれた方が面倒だ。ああどうしたらいいのだ……)


表面上は至って冷静に淡々と執務をこなしているつもりのサガだが、書類に目を通しつつも、ちらちらと隙を見ては視線が明後日の方へと動いている。
加えて、脳内で渦巻く思考はかなり混沌。

そんなサガの挙動不審さは、鋭い者なら嫌でも目についた。
かく言うカノンも兄から漂う不穏な空気を身近で察し、至極うんざりとした表情を隠すことなく露わにしている。

カノンに言わせれば、「何を今更なことで苦悶しているのだ……」である。
というのも、そもそもサガが周囲の状況、つまり、エナガに恋慕する者が複数いるという事実に気付いたのは、何を隠そう当のエナガと恋仲になってから。
結果論としては、想いが成就したのだからそれで文句言うな…なのだが、やはりそれは無理というもので。

こうして一人でやきもきするサガを見て、最初こそざまあみろとばかりに思っていたものの、こうも毎日悶々とされては逆に厭きるというか、呆れてくるもの。
憐れみと呆れをふんだんに含んだ視線を送っていると、漸くカノンの視線に気づいたサガは恨めしげな視線を返してきた。
要するに八つ当たりである。

矛先を向けるなら己ではなく恋敵だろうに…。
八つ当たりが視線だけでなく物理的、言語的なものに完全に移行する前に、避難するが吉、と、決めるや、カノンの行動は速かった。


「おいエナガ。おまえの机にあるあの書類、これから教皇に渡しに行くんだろう?」
「え、ああ。そうだけど?」
「代わりに持って行ってやる」
「そう、ならお願い。助かるよ」


エナガが応えればこれで堂々と逃亡が図れる。
案の上サガは異を唱えたくてもできず、悔しげに顔を歪ませているだけだ。
カノンの好意は建前上でも仕事上の手助けであり、当のエナガが快く頼んでいるのだから、不満を言えるわけがない。


(他人を八つ当たりの的にするからこうなるのだ)


仕返しついでにカノンは、止せばいいのに去り際、余計な一言を小宇宙で兄に投げかける。


(遅れをとってせいぜい他のやつらに寝取られないようにするのだな)


背後で筆記具が砕ける鈍い音が聞こえたのは、きっとカノンの気のせいだろう。
そう、気のせい。
気のせい。







===
前に書いた「幸福な不幸」のシリーズ的な感じで書きました。
サガ気苦労御苦労シリーズですかね?

相手はサガですが、カノン視点のSSSです。
まあ捨て台詞のせいでこの後悲惨な状況になるんでしょうね。
とはいえ、主に悲惨なのはとばっちりをくらう周囲ですが。



2015/3
トップページへ

- 16 -

*前次#


ページ: