これはこれで困る
目の前で眉をハの字にして、何とも申し訳なさそうな顔で見上げてくる相手に、ムウは愈々頭痛を覚えた。
「ムウ…?」
「エナガ、あなたは自分が言ったことを解っていますか?」
「解っているけど……やっぱり駄目だよね」
「ええ、こればかりは」
あからさまにしょげるエナガに、ムウの決意が僅かに揺らぐ。
…が、理性による警鐘のおかげで決意が崩壊することはなかった。
時刻は草木も眠る丑三つ時。
遠慮がちに白羊宮の居住区へと続く戸を叩いたのは、自分の世界に戻っているはずのエナガだった。
こんな時間に何事かと血相を変えて戸を開けたムウに、夕方別れた服のままのエナガは、安堵するもすぐさま今度は申し訳なさそうに謝ってきた。
矛盾したエナガの言動にムウが怪訝な色を示したのは数分前。
話を聞けば、ホラー映画を見たから怖くて眠れないというもので、こればかりはムウでも呆れて物も言えなかった。
恐い物見たさの好奇心は分かるが、何も寝る前に見なくとも…。
浅はか過ぎはしないかと率直に意見を言えば、当のエナガ本人も自覚はあるらしく、二度目の謝罪の言葉を口にした。
そして、ここからが本題である。
恐くて一人では眠れなくなったエナガが、頼りにやって来たのがムウのところというわけで。
他に選択肢がなかったのか問い質したいとも思ったものの、ならば他を当たるとエナガが上の宮の誰かに会いに行かれるのは、流石にムウとて良しと出来なかった。
何が悲しくて恋い慕う彼女をみすみす他の恋敵の元に行かせなければならないのか。
と言っても、いくら愛しい相手の願いでも二つ返事で応えることはできなかった。
なんせ恐いから一緒に寝て欲しいときたものだから、いろんな意味で躊躇われるのは、何もムウだからではない。
勿論、寝るは寝るでもそのままの解釈の添い寝であり、決して裏があるものではない。
幼い子どもが大人に甘えるような感覚に近いのだろう。
この場合、頼られるというのは、つまり異性として意識されていないということになるのだが…。
それはそれで悲しい現実ではある。
「夜中に起こしてごめんなさい。私、帰るから」
知らず知らずムウの口から漏れ出た溜息に、エナガは心底申し訳ないとしょぼくれてムウに背を向けた。
その小さな頼りない背中を見て、ムウがつい絆されてしまったのは、惚れた弱みだろう。
帰ると言ったエナガだが、帰ったところで眠れず今度は他の者のもとへ行きやしないかという不安を拭えない。
そんなことになるくらいなら、最初から自分のもとにいさせればいいのだ。
後は…己がいろいろと耐えればいいだけのこと。
「仕方ありません。今回限りですよ」
「え?」
「さあ、早く寝ないと睡眠が十分にとれません」
「あ、あの…ありがとう」
ムウはエナガの腕をとると、そのまま自信の寝室へと案内した。
エナガが横になったのを確認してから、ムウも隣に横たわる。
「朝起きたら一旦帰って着替えて来た方がいいでしょう」
「皺だらけの服のままってのは流石にみっともないからね」
「それもありますが、要らぬ誤解を生みたくなければ着替えた方が無難ですよ」
「そっか。でも私はムウとなら誤解されても良いよ」
「そう、誤解されても……え?」
「大丈夫。ムウには迷惑だろうからちゃんと着替えてから皆の前には顔を出すから」
「あの、エナガ?」
おやすみ、と、ムウの声も気にかけずエナガはそのまま夢の中へと意識を旅立たせてしまった。
残されたムウはと言えば、エナガの最後の爆弾発言に一晩中悩まされる破目になる。
「わたしはどうすれば……?」
(完)
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夢主は確信犯です。
でも答えを聞くのが怖いから言い逃げというオチ。
2015/4
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