今は恋人より友達でいい!





日に日に強くなる陽射しが失せ、闇へと空が様変わりして大分時間が経った折。
宝瓶宮に二人の来訪者が訪れた。


「カミュよ、起きているか?」


仲良く揃ってカミュの居住区に乱入してきたのは、長年の親友と――――。


「エナガ?」
「こんばんは。良かった寝ていたわけじゃないんだよね?」
「ああ、何かあったのか?」


寝る時間ではないとはいえ、あと数時間もすれば日が変わる。
そんな自分に彼女がわざわざ連絡も入れずに来るなんてことは滅多にない。
だからこそ何か火急の問題でもあったのだろうとカミュは思ったのだが、カミュの問いかけにエナガは気まずそうに笑っている。
エナガの代わりに隣にいたミロが口を開く。


「何かがなければ来てはいけないのか?」
「そう言う訳ではないが…」
「なら問題ないな。邪魔するぞ」
「言っておくが、こんな時分にやって来たのだ。何ももてなしは「期待してないから、気にするな」


そう言ってミロはカミュの言葉を遮ると、どっかりと寝台へと腰を下ろした。

問題もなければもてなしも不要。
一体何用で彼らはここに来たのか。

ミロの言動は今に限ったことではないので、鍵となるのは珍しく夜に訪れて来たエナガ。
カミュの視線が自分に向けられたのが分かったエナガは、より一層困ったように笑う。
もちろんどうしてそのような顔をされるのかカミュは分からない。


「エナガ、どういうことだ?」
「え、あ、あー…つまり、ね。それは…………今夜は暑いよね?」
「そうだな。ここ数日にかけて大分気温は上がったようだ」
「日本だとあと少しで梅雨に入るわけなんだけど、あの蒸し暑さは寝苦しくて……」
「ここはギリシャで聖域だが?」
「あ、うん。そうだね……」


要領を得ないエナガの会話に痺れを切らしたのは、聞き手のカミュではなく既に休む態勢でいるミロだった。


「要するに安眠のため涼みにきたんだ。それくらい分かるだろう?」
「………なに?」
「だから暑くて眠れないから今晩はここで三人共に休もうと言うわけだ」
「…………………」


待て。
聞き間違いでなければ、今、三人と。
カミュの脳裏に過ぎった問いは、衝撃のあまり口にはされなかった。

表情こそ変化はないものの、カミュの空気が固まったのをエナガは見逃さなかった。


「ほ、ほら、三人なら別に問題ないよね?キャンプとか野外活動的な感じで」
「先程から言っているが、ここはギリシャで聖域だ。そのような状況下ではないだろう」
「そ、そうだけど………やっぱり駄目か」
「分かっているのなら何故……」


行動に移したのか、と、聞くつもりだったカミュも、背後で己の寝床を陣取っている親友の存在を思い出し口を噤む。
きっかけは何であれ、恐らく最終的な実行犯はその友だ。
暑さに負けたエナガはまんまと友の口車に乗ったという訳だろう。

カミュは己の中でそう結論付けると、ミロへと振り返った。


「おい待て、カミュ。少し冷気が強すぎる。これでは逆に風邪を引くぞ」
「ミロ、お前は人を何だと思っているのだ」


人工エアコン…なんて今の状況で言えば、「涼みたいのだろう、本望ではないか」と、確実に永眠させられる。
たちこめる冷気が増す中、ミロはそう確信した。
だが言わせてもらえばカミュだって人のことをとやかく言えた立場ではない。

避暑とばかりにここ最近頻繁に宝瓶宮に訪れているのは、何もミロだけではない。
ここにいるエナガもまたその一人である。
下手をすれば暑さに弱い彼女の方が、ミロよりも来訪頻度は高いかもしれない。
そんな彼女を友は咎めるどころか何も言わず、むしろ歓迎しているではないか。

歓迎の理由は言わずもがな。
ミロとて彼の立ち位置にいれば同じような行動に出ているだろう。
想いは二人とも変わらないのだから。
要するに二人してお互い様であり、文句など言われる筋合いなどないのだ。

それどころか、逆に他の連中を出し抜き、おいしい展開を持って来てやったのだから、感謝されてもいいはず。
ましてや恩を仇で返されて氷漬けなど、論外だ。

そのようなことをカミュで小宇宙を以て伝えてみると、案の上、流されることはなかった。


『だが、流石に問題ではないのか?』
『何が問題だ?先に言うが、他の奴らのことなど気にするな。あいつらはもっと狡猾だぞ』
『それはそうかもしれないが…そもそも我らはエナガに異性として扱われているのだろうか?』
『相変わらず頭が固いんだな。この際、今は構わんだろう?特権と思っておくんだ』
『特権か…』
『そうだ。エナガに想う男がいるかは分からんが、少なくともここに来るという時点でいないと思っていい。その男に誤解されては困るだろうからな。俺が彼女を誘ったのもそれを確かめるつもりもあったんだ』
『やはりお前が元凶か…』
『と言っても言い出したのはエナガだぞ。お前のところなら安眠できそうだと』
『本気で言っていたわけではあるまい。お前が唆したのには変わらん』
『だがこの状況、悪くはないだろう?』


半ば挑発気味なミロの物言いだが、この時ばかりはカミュも反論することはなく、押し黙る。
暫しの沈黙の末、カミュから出た言葉は――――。


「仕方ない。今晩だけだ」
「決まりだな」
「え、本当に良いの?」
「今から戻るのも明日に障る。快適に眠りたいのだろう?」
「もちろん。カミュ、ありがとう。ミロも」


良質な睡眠が確保できた喜びで、普段のカミュなら意地でも説得して自分を帰そうとすることに、エナガは気付けなかった。
上機嫌で破顔するエナガに、歓喜と後ろめたさに二人は彼女の謝意に素直に頷けなかった。


『今晩だけだ。いいな?』
『ああ、分かっている』


カミュは想定していなかった。
これが今晩だけではなくなることを…。






(完)

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・仲が良すぎる友達10のお題
 配布元:abandon

はい、俗に言う(?)添い寝シリーズです。
当初はシリーズ的に題も揃えようかと思ったんですが、「あれ、これでお題できるんじゃね?」となりまして…。
こういう形となったわけです。
まあ恋人というか異性としての対象云々なんでちょっとタイトル詐欺かもしれないですがw
(当人たちはその気満々ですからね。というか彼女の意思は何処にw)

三角関係、おいしいので好きですが、本格的に書くといろいろと救えない部分も出てくるので、ハッピーほのぼのED主義者としてはこういう形式の話ばかりになりそうです。


2015/5


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