幸福な不幸


悩める秋どころか、冬も、春も……永遠に悩んでいそうな男が一人。
今日もまた同じことで鬱々、いや、悶々としていた。

運が悪いことにそんな彼の姿を見つけるのは決まってカノンである。
執務室の机に頭を抱えて塞ぎ込む兄、サガを見て、カノンもまた頭を抱えたい衝動に襲われた。

仕事で悩んでいるのなら多少なりとも同情をしてやっても構わないのだが(でも協力する気は毛頭ない)、サガの悩みは仕事どころか、真逆の、それこそ勝手にやってろと言いたいくらいの不毛なものだった。
カノンとて最初こそ唸るサガを見かねて詳細を尋ねたが、その理由を聞くや、「アホらしい。爆ぜろ」と思ったものである。
それでも一切無視できないのは、己が片割れだからか、それともあまりに陰気くさくて放置しておく方が後々面倒だからか。
両方だと結論づけると、カノンは気乗りしない声で書類と睨めっこをしている(ように見えるだけの)サガに声をかけた。


「いい加減諦めたらどうだ?」
「それはこちらの言う科白だ。カノン、お前こそいい加減“私の”エナガに手を出そうとするのを諦めるのだな」


出だしからしてこれだ。
本当は悩んでいないのではないか、単に惚気たいだけではないのかと、疑いたくもなるが、残念ながらサガは至極真面目で至極深刻なのである。


「……いや、俺が言いたいのはだな。エナガを襲わないよう耐えることを諦めろと言うのだ」
「それが出来れば苦労はせん」
「なら永遠に無駄な足掻きをすることだな。そして、他の男に寝取られろ」
「言わせておけば―――」
「だからそうならぬようさっさと襲えというのだ」
「くっ、ならば貴様はできるというのか!?純粋に私を信頼して無防備にも私の寝所ですやすやと幸せそうな笑みを浮かべて眠るエナガを問答無用で襲えと!?私の唯一の安らぎをよりにもよって私自らの手によって、己が欲望のために汚せと!?」


もう駄目だこの男。
双子の、兄弟の縁が切れないのなら、いっそエナガに頼んで違う世界にでも捨て置いてほしい。
そしてエナガともども別の世界でよろしくやってくれ。

いろんな意味でそれができないのが残念ながら現実で、結局、関わった者負けというのもまた現実。
一人ヒートアップして想いの丈を当のエナガではない己にぶちかますサガに、カノンはただただ醒めた目で眺めるしかなかった。







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サガが壊れました。(壊したともいう)
サガが相手の場合、何かと被害者が増えそうな気がします。
その筆頭がカノンだとおいしいと勝手に思っています、はい。


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