鎌かけは計画的に


※カミュ夢「無題」&「傍観者から支援者へ」設定。





暖冬とはいえ冬であることは変わりない。
寒がりにはたまったものではないこの季節、例に漏れず寒いのが苦手なエナガのもと、炬燵にて冬休みの宿題をすることとなった。
そもそも城戸邸には不釣り合いな和室に、それも炬燵などと一種異空間な部屋が造られたのも、典型的な日本の住宅環境に慣れたエナガのためである。

別に人様の室内について難癖をつける気など、瞬にはない。
ただ、気になることと言えば自分の右隣りに陣取る男…。


(どうしてここにいるんだろう…?)


エナガの自室に入るなり、先客としていたものだから何らかの用でもあったのかと思えば、どうやら違うらしい。
対面にいるエナガは気にせず瞬が既に終わらせた課題を確認している。
一対一の個人レッスンのはずが、何故かそこにいるこの男、シャカはというと、何も語ることなく本当にそこにいるだけ。
入室早々エナガに聞くと、「瞑想」とのこと。

何もここでする必要もないのに、というのが瞬の言い分である。
いや、瞬でなくとも思うはずだ。

気になり過ぎてつい問題を解く手が止まっていると、目敏く気づいたのは目の前のエナガではなくて当のシャカだった。


「雑念に囚われ過ぎて本題を見失っているぞ。」
「あ…。」


いつから見ていたのやら。
常日頃から視界を閉ざしている相手故、下手をしたら瞬がここに来た時点で意識は彼方から戻っていたのかもしれない。
全く性質が悪いと内心思いながらも、落ち度があるのはこちらなため、瞬は不満を呑み込む。


「そりゃ部外者がいればやりにくくもなると思うけど?」
「む、部外者とはもしやこのわたしのことかね?」
「他に誰がいるのやら…。」


瞬の擁護に付くエナガが気に食わないのか、シャカは僅かばかり眉を寄せた。


「まったく、瞬くんが勉強しに来るまでっていう約束だったよね?害がなければこのままでも良いかと思ったけど。」
「その程度で気が乱れていてはこの先センター試練など突破できぬだろうな。」
「試練じゃなくて試験。まあある意味試練で正しいけど、それにまだまだセンターは先。今は基礎をつけて土台を固めないと。」


放って置くと当事者を無視して教育論を語り出すのではないか…。
瞬は二人に視線を止めたまま、そんなことを思った。
手元にある問題集に意識が戻るのは、多分もう少し先になりそうだ。


「あの、そもそもどうしてシャカはここで瞑想を?」
「炬燵が良いんだって。」


答えたのはシャカではなくエナガだった。
それにしても、炬燵とは―――。

瞬はまじまじとシャカと炬燵を見比べる。

炬燵が気に入ったのなら、態々ここに来なくとも自室や自宮の居住区にでも置けばいいのに。
そもそも炬燵の魔力に魅入られていていいのだろうか。
それこそ瞑想するにしてはどうなのか。

瞬の疑念が混じった視線を受けるも、「何か問題でも?」とばかりにシャカは至ってけろりとして出されていた茶を啜っている。
この様子から察するに、恐らく大分入り浸っているらしい。


「はぁ、ごめんね。瞬くん。こんなことならさっさと追い出すべきだったね。」
「客人を邪魔物扱いするとは、礼儀がなっていないぞ。」
「親しき仲にも礼儀ありだし、第一分別を弁えない客は御引取願います。」
「む…。」
「ほら、分かったらさっさと退出する。嫌なら大人しく瞑想してること。」


エナガがそう言って選択を迫ると、シャカは再び黙り込んだ。
どうやら残留を選んだらしい。
腑に落ちないという色を含んだシャカの小宇宙を肌で感じた瞬は、思わず一笑した。


(本当に炬燵目当てなのかな…?)


実は違うのではないかと思うも、何分相手が相手なだけに判断が難しい。
単に自分や兄のように贔屓しているだけなのかもしれない。
瞬の中でひょっこり顔を出した好奇心が、むくむくと大きくなっていく。


「ねえエナガさん。この問題が分からないんだけど…。」
「ん、どれどれ?ああ、これはね―――。」


さりげなく手にした課題をエナガの手元へ差し出すと同時に、自身の上体もぐっと前のめりにしてエナガへと近づける。
エナガは意図など気付くわけもなく、瞬に合せて体を前方へと傾けた。
あと数センチで互いの頭が振れるほどに縮めた距離に、異を唱えたのは瞑想から即座に戻った自称客人。


「このままゴツンといく気かね?」
「え、何が?」


つい律儀に問い返すエナガの目を余所に、瞬はある確信を抱きほくそ笑む。
何だかんだで彼もやはり人の子だったというわけか。
瞬が一人納得していると不思議に思ったのか、エナガはシャカとの問答を取りやめた。


「瞬くん、どうかした?」
「え、ああ、何でもないです。さっきの質問なんですけど、自己解決しました。」
「そう?ならいいけど。」
「すみません。もう少し粘ってみるべきでした。」
「頑張るのは良いことだけど、煮詰めない程度でいいから。」
「はい。」


そう言ってエナガとの距離を元に戻すと、部外者、もとい、シャカが小言を口にした。


「確かに、粘る必要などない謀りではあるな。浅はかではあるがね。」
「…………。」


この男、敢えて計略に乗ったらしい。
楽しんでいるのか、何なのか、ちらりと横目で見れば、したり顔である。

『策士策に溺れぬようせいぜい精進するのだな。』

エナガには分からないよう小宇宙にて説教してくるシャカに、瞬はぐうの音もでない。
敗北感に項垂れるのを誤魔化すように、瞬はシャーペンを握る手に力を込め、再び課題と向き合うも、その前に……。


「エナガさん、少し休憩してもいいですか?」
「ん、いいよ。」


エナガの許可を得て瞬は机にあった携帯を手に取った。


《氷河、強敵(凶敵)出現だよ!!!》


転んでもただで転ばぬものかとばかりに、隣の男に悟られぬよう電子媒体にて同胞へと警告を発したのだった。




(完)

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2016/1

さっそくやらかしました。
ちなみに、別に当サイトの瞬くんは腹黒設定ではありません。
あくまで無邪気な好奇心からです。(ある胃意味腹黒よりも性質が悪いw)

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