気づけば変わる
たかが4年、されど4年。
微妙な差がもどかしくなったのは、多分これがきっかけだ。
容赦ない陽射しが照りつける夏の午後、避暑とばかりに宝瓶宮に(デジェル目当てで)いるエナガを見つけた時のこと―――。
「デジェルなら任務でいないぞ」
「知っているけど、何となく。ここの方が他の宮より涼しいかなと思って」
気分の問題だと言い張るエナガに、どこでも暑いものは暑い、と、シオンは内心真面目にツッコミを入れたくなった。
どうせどこにいても暑いのだ。
わざわざデジェルがいない宝瓶宮に行くよりも、与えられた客室で大人しく暑さをやり過ごしていた方が、無駄な陽射しを浴びず、汗をかかずにすんだものを……。
そのような皮肉が出てくるのは、ただ単に己も暑さで参っているからだとシオンは思った。
暑さ以外の原因にもよるということを、今の彼は気づけないでいる。
「シオンは涼しそうだね…」
「私でも暑いものは暑いぞ…」
「そう?シオンは落ち着いているからかな」
「少なくともエナガよりかは落ち着きがあると思うが」
「言えてる。私もシオンを見習わないとね。無駄に年を取ってるのが取り柄なんて、情けないし」
年……?
何となく引っ掛かりを覚えたシオンは、失礼だと知りつつも、ついエナガに問いかける。
「失礼なことを承知で聞くが、エナガは一体いくつなのだ?」
「それ、私以外の女の人に言ったら嫌われるよ?…まあ、隠しても誰かからバレるだろうから言うけど、カルディアとデジェルと同じ年」
「なっ、私はてっきり……」
「同じ年かと思った?流石にそれはないか」
「…………」
むしろ年下だと思っていた。
…など、今更言えない。
けれどもシオンの沈黙でエナガも察したらしく、無言の苦笑が返って来た。
「そう思われても仕方がないほど私が大人げなかったってことだよ。気にしないで」
「あ、いや、別に子どもっぽいとかそういうわけではないぞ!どちらかというと見ていて放って置けない部類の意味で…」
「いいからいいから。そんなに狼狽えると返って逆効果だって」
「う、…すまない。だが本当に子どもと思っては………」
「そう……それなら、ちゃんと異性として意識してくれていたって認識でいいわけね?」
「そんなつもりで言った訳でもない…の、だが……」
「そっか。まあ男だとか女だとか関係なしに仲良くしてくれると嬉しいかな」
「あ、ああ…そう、だな」
あっさりと受け流すエナガに、どこか拍子抜けしたのはシオンである。
てっきりもっと食い下がってくると思っていただけに、引き際の良さが逆に焦りを生む。
沸き起こる焦燥がどこからくるものなのか。
(男だろうが女だろうがエナガはエナガだ。だが意識など……それに子どもとしても見ていたかと言えば違うような…。そもそも本当に子どもならデジェルたちと話が合うはずもない。とはいえ放って置けないのは事実だが。いや待て、どうして放って置けないのだ……?)
自問自答を繰り返し、一人困惑するシオンに対して、エナガは至って平静にシオンの様子を観察し、その変化を大方察するや、困ったように笑っている。
そんなエナガと視線が合ったシオンは、全てを見透かされていたかのような錯覚に陥り、益々狼狽えた。
「あ、いや、先程の話に不満があるというわけではないぞ」
「分かっているから、いいよ。でも…シオンって意外と顔に出るんだね。私も大概だけど」
「そんなことは――」
ないとは断言できないことに、己が客観性を評価すべきか、弱さを呪うべきか。
いずれにしても、これ以上の不用意な発言は墓穴に直結することだけは事実である。
既に散々自らの墓穴を掘っていたのは…最早言うまい。
よく分からない敗北感に打ちひしがれるシオンに、エナガはクスリと一笑した後、仕切り直しとばかりに違う話題を振って来た。
「それより、何か用事があってここまで来たんでしょ?デジェルが任務だとすると、用事があるのはサーシャと教皇様に、かな?」
「あ、ああ。そうだ」
「あまりお待たせするのはマズイんじゃ…あ、遅くなった理由を聞かれるかもしれないから、私も一緒に行こうか?どうせ帰り道だから」
そう言ってエナガはシオンの横を通り過ぎると、そのままスタスタと教皇の宮へと足を進めて行った。
返答を待たずに行動を起こしてさっさと先を急ぐエナガを、シオンは一瞬呆気にとられて見送りかけたところで我に返った。
子ども扱いしないでくれ。
シオンの中でそんな思いがふと過ぎる。
(何を馬鹿な…気にし過ぎだ)
否定するように頭を左右に振ると、シオンはすぐさまエナガの後を追うべく歩き出した。
たかが4年、されど4年…と、シオンがぶつくさぼやいて一部の者たちから首を傾げられるようになるまでに、時間はそうかからなかった。
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年の差を気にするシオンって萌える。
ふっとそんなことを思ったので、書いちゃいました。(正確には気にするきっかけのシーンだけですが。なので気にする続きを書きたいです)
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