背中のぬくもり


(ごめん。少し匿って)


突然処女宮に現れた彼女は心の中で念じると、瞑想中のアスミタの背後にしゃがみ込んだ。
何をするかと思えば、ただ何もせず無言で気配を押し殺しているばかり。
傍から見れば奇妙な光景ではあるものの、当事者たちからすると最早恒例の出来事と化していた。

双方言葉を交わすことなく数十分、下手をすれば数時間単位でこのまま時を過ごしていることもある。
一方は瞑想、もう一方は…雑念であったり睡眠であったり、その時々により巡らす思考や行為は様々だった。

そして今回、珍しくも瞑想を行っていた側が先に口を開くこととなった。


「今日はもう諦めたようだな」


誰が…と、アスミタは言わない。
二人の間では既に承知済みの相手のことだからだ。
アスミタの言葉を聞き、彼女は押し殺していた気配を解放してからほっと息をつく。


「いつもありがとう。そして、瞑想の邪魔をしてごめん」
「もう慣れたことだ。それに友の頼みを断る理由もない」
「本当、頼もしい友だちができて、私も嬉しいよ。ただ、助けてもらってばかりなのが申し訳ないけど」


苦笑する彼女に、アスミタは首を傾げた。


「何故申し訳ないと思うのだね?友を助けるのは当たり前のことだろう」
「友達関係にギブアンドテイクはナンセンスかもしれないけど、割に合わなくない?」
「ぎぶ…?」
「貸し借りナシや損得勘定を考えるのは、在り得ない。馬鹿げてるかもってこと」
「確かに君の言う通り、ナンセンスな話だ」
「それでも気になるものは気になるの。私だって友だちの助けにはなりたいし。まあ、私がアスミタの助けにはなれるかと聞かれると…自信ないけど」


相変わらず苦笑を浮かべたままであろう彼女の様子が、アスミタには手に取るように分かった。
この友は妙なところで卑屈になる。
彼女とは知り合ってそう長くはないが、人となりは大凡把握している。
人の長所は見抜けるものの、肝心の自身の長所には鈍感で、短所ばかり論っては無駄に思い悩むのだ。
最終的には自己完結して再び前へと進む彼女だが、自己完結というだけあって相手の意思とは真逆の解釈に陥ることもある。
その度に彼女のズレた視点を正すのがアスミタの役目となっていた。
いつの間にか、本当に気づけばそれがアスミタにとって日常の一部に組み込まれている。
友が客観性を失い迷ったら、冷静に物事を見つめられるよう導くのも、また友として、友を思ってのこと。

とはいえ、友であるから無条件にそうしているわけでもない。
ある意味彼女故、というところだろうか。
日々の大半を瞑想に費やし、処女宮から出ることの少ないアスミタの交友関係は高がしれてはいるものの、それでも彼女は友の中で特異な存在であった。
彼女は、聖闘士ではなくただの一般市民と言うには少々、いや、かなり特殊な能力…異世界を移動できる力を持っている。
立場どころか世界、時空レベルで変わった存在なのだ。
中身は普通の人と相違ないとはいえ、そもそも一般人が聖域を自由に出入りしていること自体滅多にないことであるから、結局特異なことには変わりない。
加えて彼女の人柄が周囲をそうさせるのか、彼女を放って置くことができないのだ。
その周囲の中にアスミタも含まれているのが、アスミタ自身も不思議に思うほどである。

背後の、膝を抱えて溜息をつく彼女。
いつからだろうか。
後ろに人の、彼女の存在があるという事実を当たり前として受け入れていたのは……。


「仮に、君の言う理論で損得を計るとしよう」
「え?」
「私は損をした覚えなどない」


背中に温かさを感じるというのは悪いものではない。
むしろ、今となってはその温もりが心地良く、離れてしまうのが惜しいとさえ感じている。


「だから、割に合わなくなどないのだよ」


思っていることを包み隠さず伝えれば、彼女は暫し惚けた後、照れ臭そうに笑ってアスミタに礼を言うのだった。






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初★矢関連夢で、LCのアスミタです。
本編で人となりが気になり、外伝で彼の人柄に惹かれました。
なんかこう良い意味で人間らしくて好きです。
恋愛より友、もしくは、友達以上恋人未満としてほのぼのしたい相手です。
完全に恋愛関係ならプラトニックで推して参りたい。(とか言ってて後でイロイロ書いていたらどうしよう←)
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