仕掛け合い


「はい、どうぞ」


出会い頭に言われた言葉に、何のことかとシャカは首を傾げた。
目の前の彼女、エナガはニコニコとしたまま、こちらの動きを待っている。
ふわり、と風に乗ってきたのは甘い香り。


「菓子か」
「そう。細い棒状のクッキーにチョコレートがコーティングされてるの。甘いものが嫌いじゃなければ食べてみて」
「ふむ…」


シャカに拒絶する気が見られないのをいいことに、エナガは差し出した菓子の先端を更に前へ、シャカの口元に持っていく。
エナガの好意に応じるように、シャカは下唇に触れた菓子を口にした。


「一口一口折らなくていいよ。もっと一思いに食べて大丈夫だから」


その一言でシャカは僅かに思案した後、何かを閃いたらしく、エナガに分からないように口角をほんの少し吊り上げた。


「ではいただくとしよう」
「遠慮なくどうぞ」


了解を得るや、シャカは菓子を再び口に銜えると、先程の一口が可愛いと思えるほどの勢いで食べ進めた。
最初こそ余裕で眺めていたエナガだったものの、菓子の残りが2分の1になってもシャカの食べる速さが変わらないことに戸惑いの色を見せた。
3分の1までに至ったところで、流石にマズイと判断したようで、エナガは愈々慌て出す。


「ちょっ、あの、シャカ!?」


焦るエナガなどお構いなしのシャカは、結局菓子どころか菓子の端ギリギリを持つエナガの指までぱくりと銜えてしまった。


「〜〜〜〜〜〜!」


あまりのことにエナガは声なき声を上げた。
そんなエナガの様子に満足したのか、シャカはあっさり彼女から引き下がった。
もちろん最後ついでにぺろりと一舐めするのは忘れずに。


「悪くはない」
「そ、それはどうも……」
「何だねその態度は。折角私が食してやったというのに」
「人の指まで舐めて良いとは言ってない。もう、ポッキーゲームをしてる気分になったじゃない」
「それはどういうものだ?」
「シャカが知らなくていい遊びです」


ピシャリと言い放つと、エナガは踵を返してシャカから逃げるように駆け出した。


「わたしが知らなくていい…?」


シャカはエナガが言った言葉の一部を反芻する。
この時点でシャカの頭の中から“遊び”という単語は抜け落ちている。

エナガが知っていて自分が知らないことがあるはずもない。
いや、あってはならない。

エナガからすれば全く以て訳の分からない論法ではあるが、シャカの中では成り立ってしまうのだから恐ろしい話である。
とどのつまり、エナガはシャカを見事焚き付けてしまったらしい。

このエナガの余計な一言により、周囲にとって傍迷惑この上ない一騒動が暫くして起きることとなる。





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