形勢逆転


一瞬、あらぬ展開を考えて、ムウの思考は停止した。
目の前に差し出された甘い棒状の菓子。
差出人は邪気のない笑顔でムウが菓子を受け取るのを待っている。


「あれ、甘いものは嫌いだった?」
「そういうわけでは…」
「それなら、どうぞ。遠慮はいらないから」


ずいっと口元まで運ばれた菓子に、ムウは視線を向ける。
受け取るは受け取るでも、どうやら手ではなく口で受け取れと言うことらしい。
もともと差し出された位置からしてそう思われたものの、つい最近、師であるシオンから余計な入れ知恵をされてしまったがために、要らぬ動揺をする破目になった。
もしや彼はこの展開を読んでいて、わざと己に知らせたのではないか。
そんな邪推がムウの脳裏を過ぎる。


「ムウ?どうしたの?」
「いえ、何も…」


どことなく歯切れの悪いムウに、エナガは怪訝そうな顔をして彼を見上げたが、何かを感づいたらしく、「あっ」と、声を漏らした。


「大丈夫。口に銜えた瞬間、ポッキーゲーム開始!…なんて嫌がらせはしないから。安心して食べて」
「――!」
「あ、やっぱり知っていたんだ。ポッキーゲーム」
「ええ、…まあ」
「ムウが好き好んで調べるようなものでもないから、誰かに……ああ、シオンあたりに聞かされたんでしょ?」
「よく御存じですね」


ムウはバツが悪そうに視線を余所に逸らすも、エナガはクスリと笑みを浮かべるだけだった。
エナガの反応にムウは先程とはまた違う動揺をする破目になる。

一体彼女はどこまで気づいたのだろう。
口元に差し出された菓子を見るや、件の遊戯を連想し、挙句二人でそれを行う展開まで想像してしまったなど…。
全てを見透かされていないことを切に願っていると、追い打ちをかけるようにエナガの口からとんでもない言葉が飛び出てきた。


「いっそやってみる?」
「は!?」


何を、なんて分かりきったこと。
それでも思わず素っ頓狂な声が出してしまったのは、ムウでなくとも致し方ない節がある。


「シオンがどういう説明をしたか知らないけど、百聞は一見に如かずって言うじゃない。もちろん、負けたら罰ゲームなんて言わないから」
(勝敗以前にあなたはそれでいいのですか…)


喉元まで出かけた言葉だが、「別に気にしない」とあっさり返される可能性を捨てきれないため、ムウは敢えて口を噤んだ。
気にしない=意識なんてしないと言われるようなもので、言われたらそれこそ立ち直れない。
動かない(正確には動けない)ムウを見たエナガは、ムウが気乗りしないと受け取ったのか、無理強いはしないと言ってきた。
気乗りしないどころかこれ幸いと賛同したいところではある。
しかしそれはあまりに己の感情に素直すぎやしないか。
理性が制止しないでもない。
葛藤すること数分、ムウの中で揺れ動いていた気持ちは結局落ちるところに落ちることになる。


「…いいでしょう。受けて立ちます」
「え、あの、本当に無理しなくていいから。そんなに真面目に受け取らないで」
「元々勝敗を決めるものなのでしょう?実践するのならば徹底的に。それこそ百聞は一見に如かずでは?」
「そこまで本格的でなくても…ねえ、シオンに変な説明をされていないよね?」
「その誤解を解くためにも実践あるのみですよ」


にっこり、と、それはもういろんな意味合いを込めた微笑で、ムウはエナガに詰め寄った。
築けばエナガが手に持つ菓子の先は、ムウではなく、ムウの手によってエナガ自身の口元へとあてがった。
エナガが恐る恐る銜えたのを確認すると、反対の菓子の先端、エナガが柄にして持っていた側を、ムウが己の口へと向ける。


「覚悟はよろしいですか?」


何の覚悟か。
エナガの抗議は、最終的に呑み込まれることとなる。






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私が書くともれなくどの子もアホの子になるような…orz
夢主が無自覚で主導権を握っているようでいて、最後に主導権を持つのはムウ様でしたというオチですw


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