T:一緒に寝よう。
一緒に寝よう。
唐突に主から告げられたのは、ほんのつい先程。
言われた当初、さてどうしたものかと内心考えあぐねたが、目の前の主は言ったきり視線は書類へと注がれている。
どういう意味かと聞き返しても良かったのだが、やはり野暮かと思い止まった。
夜、男女が褥を共にする。
その意味は一つ…………だろ?
自問自答しても、悲しいかな、答えは返ってこない。
一般的な回答は分かっているものの、如何せん今の今まで色事の色など一切見せて来なかった彼女である。
対する鶴丸と言えば、これでもかと言うくらいに彼女への想いをそれとなく伝え続けていた。
けれども、色事に無関心らしい彼女はと言えば、無意識なのか意図的なのか、見事にそれをかわしてくるではないか。
彼女の時代では知らぬ者はいないはず(既に調査済み。)の「月が綺麗だな。」という科白ですら、「三日月の方が綺麗だよ。」で終わった。
せめてそこは他の男の名前を出さないでくれないか……と、流石にその時は脱力せざるを得なかったのは、今でも出来ることなら抹消したい苦い思い出である。
押しても押してもビクともしない負け戦。
ここまでくれば、もういっそのこと直球勝負を仕掛けた方がてっとりばやいのではないか。
そう思い始めた矢先、何の前触れもなく彼女が言い放ったのは、件の文句。
まさかの先手を打たれ、その動揺を表に出さなかっただけ褒めてもらいたいものだった。
そんなこんなで、現在、主の部屋を前にして鶴丸は立ち往生をしていた。
日は既に落ち、十六夜の月が煌々と鶴丸の背を推すかのように照らしている。
それなのに、あと一歩が動けない。
彼女が何をどう思って自分を誘ったのか、結局分からず仕舞いだった。
あの場で即問えばすんなりと解決したのかもしれないが、今となっては時既に遅し。
言葉をそのまま受け取れば、双方想いは同じ、大団円…であるものの、素直に受け取れないのは、やはり彼女の普段の言動故だろう。
(率直に「付き合ってくれないか。」…と言ったところで、場所を問うのが主だからな。)
結局のところ、ここで無駄な時間を過ごしていても仕方がないのだ。
焦らすのもいいが、彼女のことだ、煮え切って襖を開けて己を呼び出しかねない。
(さて、どう転ぶか…。)
腹を括って彼女のいる寝屋の襖に手をかけ、極力音を立てないようそっと開ける。
「やっと来た。」
「そんなに恋い焦がれてくれたのなら、焦らした甲斐があっ……ん?」
「どうしたの?」
視線を審神者から周囲にふと向けて感じたのは、ある違和感。
夜目が利かない身ではあるものの、後ろから注がれる月明かりで、凡その部屋の様子は把握できた。
…出来たが故の残念な違和感ではあるが。
敷かれた布団は二組。
この時点で嫌な予感はした。
続いて枕元にある見覚えのある黒い箱と二組のリモコンのような何か。
「早く入って、カーテン閉めて。電気点けられないでしょ。」
「かーてん?」
「ほら、両端にある布よ。襖には不格好だけど、光を遮ってくれるから、外に灯りが漏れないってわけ。」
「ちょっと待て。君、これはどういうことだ?」
「どうもこうも、…分かるでしょ?」
「いや、分からないが。」
正確には、分かりたくない、だ。
渋々後ろ手で襖とカーテンとやらを閉めれば、待ってましたとばかりにパッと室内に灯りが点された。
薄明りの中見つけた黒い箱らの正体、それは――――。
「よーし、明日はお休みだから今夜は寝落ちするまでゲーム三昧!さあ、尋常に勝負!」
コントローラーを握りしめ、早く隣の布団に座れと鶴丸を急かす審神者に、鶴丸は愈々脱力した。
(ああ、そうだな!君はそういう子だったな―――!!!!!)
少しでも期待した俺が馬鹿だった。
先程までの葛藤や高揚はどこへやら、焙烙玉の爆風により煽られた刀装のように勢いよく吹っ飛んでいった。
翌日、昼を過ぎても顔を出さないことを不審に思った保護者たちにより発見されるまで、審神者と鶴丸は揃って死んだように眠ることになる。
そして、そんな二人を目にして保護者らが説教するのは、また別の話。
------
一緒に寝よう=一緒に(ゲームして)寝(オチし)よう
加州で救済されたツケが鶴丸に。
なんてこったい。
- 18 -
*前次#
ページ:
トップページへ