仲が良くて悪いことでも?


いつも一緒。
いつもいつもいっつも、一緒。

目の前で仲良く談笑する男三人。
道端で偶然行き会った途端、会話が弾む弾む。
「お前らはおしゃべり女子か」とエナガは恨みがましげに視線を送っていると、いち早く気が付いたのは、三人の中でもどちらかと言えば口数が少なかった三成である。


「なんだ、言いたいことがあれば言えばいいだろう?」
「言って良いの?」
「先程のように恨みがましげな視線を延々と送られるよりマシだからな。鬱陶しいのだよ」
「議論が白熱している中、それはすみませんでした。邪魔者はさっさと立ち去りますよ」
「それが理由か。やはりというか、馬鹿というか…」
「どうせ馬鹿です。大バカです」


売り言葉に買い言葉でエナガはそう言い終えると、くるりと三人に背を向けてその場から立ち去ろうとする。
しかし、今度は兼続に肩を掴まれて逃げることも叶わなくなった。


「な、何?」
「分かっているぞ。エナガ、お前も我等と義と愛について語り明かしたいのだろう?」
「へ?」
「お前のことは幸村からよく聞いている」
「そ、そう…?」


幸村は一体何をどのように兼続に伝えたのだろうか。
気になるものの、幸村本人が目の前にいるため直球には聞けそうにない。
ちらりと幸村の方を見れば、幸村が慌てて首を横に振って来た。
悪いことは何も言っていない、とでもいうかのように。


(別に咎めたわけじゃないんだけど……)


幸村の反応にエナガは内心溜息をつきたくなった。
これでは自分が幸村に口止めをしているようにみえるではないか。
案の上、三成が諸々を察した上でエナガに突っかかってきた。


「成程、言われては困る何かがあるということか」
「ないってば!そもそも幸村さんに言われて困る隠し事なんてしてません」
「ほう、では言われても困らない隠し事はしている、というわけだな」
「揚げ足を取らないでってば。そういう三成さんはどうなの?幸村さんや兼続さんに対して」
「この二人に何を隠す必要があるというのだ?馬鹿馬鹿しい」
「馬鹿馬鹿しいのは私も同じです」


兼続に肩を掴まれたままなので三成の方を向くことはできないが、エナガはそれでも三成がどういう表情をしているのか、何となく分かっている。

眉間に皺が増え、気難しい顔を一層気難しくした。
そして、口の減らない女だと思っていることだろう。

次はどうくるのかとエナガは臨戦態勢で臨んでいたものの、兼続により出鼻を挫かれた。


「うむ、仲良きことは美しいことだな。なあ、幸村」
「は、はあ…そう、ですね」
「「は?」」


これにはエナガと三成の言葉が一致した。


(まあ、喧嘩するほど仲が良いとは言うし。私も別に三成さんと言い合うのは嫌いじゃないけど…)


三成がどう思っているのかまでは流石に分からない。
エナガは同意した幸村に再び視線を向けると、幸村には何故か視線を逸らされてしまった。
ますます訳が分からず、エナガは眉を顰めるしかない。


「まあ…仲が悪くて険悪より、仲が良いに越したことはないと思うけど。ねえ、三成さん」
「何故そこで俺に振るのだ…」
「むしろこの場合だからじゃない?」


どう見てもこのままいけば往来で延々と口論しかねない状況に突入しそうではなかったか。
別に怒鳴り合いとまではいかなくとも、幸村と兼続からしてみればとんだとばっちりである。
だから今日はこの辺で落としどころをつけようと提案したのだ。
エナガの意図を読めない三成ではない。
やれやれと言わんばかりに深く嘆息した後、それ以上エナガに突っかかってくることはなかった。


「以心伝心。やはり仲が良いではないか」
「そこは多分大人の対応というものだと思うけどね。それにこの程度で仲が良いって言われたら、いろいろと誤解されそう」
「お前と誤解など堪ったものではないな」
「そこまで言う……?あ、誤解されたら困る相手でもいるの?」
「…………」


エナガの思いつきに三成は軽く眩暈を覚えた。
いるにはいるが相手違いだ、と。
最悪誤解されたとことで三成自身面倒ではあっても困るような異性はいない。

そう、困る相手は友。
兼続が二人の言い合いをやんわりと制止したのも、三成が大人しく引き下がったのも全ては友である幸村のため。
エナガが遠い世界からこの地に迷い込んできて最初に出会ったのが幸村で、以来、二人はとともにいる。
これまでの経緯は三成には分からないが、大方面倒を看ているうちに情が湧いたのだろう。
議論を熱く交わしていて仲が良いと仲間外れにされたエナガはむくれるが、実際、どちらかと言えば恋愛相談会(但し相談者は常に固定で、最悪付き合ってもいないのに惚気に発展する)の場合が多い。
だからこそ、「確かに困るが、最終的に困るのは俺ではない。お前の同居人で、俺はむしろとばっちりの被害者だ」と、声を大にして言い返したいところだが、できないのが歯痒いところである。


「俺のことより、お前はどうなのだ?」
「私?うーん、困るかと言えば…困る、かな。三成さんの迷惑になるのは避けたいから」
「俺のせいにするな。この卑怯者」
「卑怯で結構。自覚はあるので」
「だが確かに三成は困るだろうな。それよりもエナガ、三成よりも誤解される相手がいるだろう?」


ポンポンと兼続がエナガの肩を叩く。
誰かなんて、言わずもがな。
そんな空気が流れている。


「えっと、幸村さん?」


恐る恐る答えを口にすると、正解とばかりにまた肩を軽く叩かれた。


「当然と言えば当然だな。お前たちは長いこと共にいる。それこそ飽きないのかと言いたいぐらいにな」
「み、三成殿!」
「なんだ、事実ではないか。今更照れるほどのこともあるまい」
「事実は事実だけどね。改めて言われると気恥ずかしいよね、幸村さん」
「え、ええ…そう、ですね」
「もう、さっきからそれしか言ってないよね?しゃべる回数も少ないし…私が口を挿みすぎたからなら、ごめんなさい」
「違います。それは決してありません」
「お前が虐めるからだ」
「三成さん、そこでそう言うこと言う?」
「事実は事実だ。いい加減痴話喧嘩なら余所でやれ」
「痴話喧嘩じゃありません。…って、もしかしてこういうことやるから誤解されるの?」
「さあな。俺に聞くな。幸村に聞け」
「私にですか?」
「そうだ。他に誰がいる?」
「それは……」
「俺、などと言ったらお前でも張り倒すぞ」
「幸村さん、もしかして誤解されたら困る人でもいるの?」
「え、あ、いや…それはですね」
「いるわけあるまい」


幸村が答える代わりに三成が即答した。
聞くなと言って置きながら、いざ本人の代わりに答えるとは……。
呆れ顔でエナガが三成を振り返ると、エナガ以上に呆れたといわんばかりの顔がそこにあった。


「幸村さん、いるならいるって正直に言って。三成さんの発言なんか気にしなくていいから」
「いません。その、エナガ殿こそ…困ったりは?」
「困るわけないでしょ。要するに、誤解されるほど仲が良いってことだから、悪いと思われるよりずっと嬉しいよ」
「エナガ殿…」
「うむ、そうだな。やはり誤解されるのは仲が良い証拠だ」
「…………」


それはどういう意味で、だろうか。
聞きようによっては、それも相手によっては、良いようにも悪いようにもとれる物言いに、三成が脱力した。
しかも当の言われた幸村といえば、困ると肯定されなかったことに安堵しているだけで、事の重大さに気づいていない。
兼続は兼続で明後日の方向に援護射撃をする始末で、三成の頭痛の種を増やすばかりである。

ズキズキと痛みだした頭を抑えつつ、エナガに一言文句を言ってやろうと三成が彼女へと近づいた時。


『誤解相手が好きなら困り様がないのにね』


エナガの口から洩れた独り言に、三成は固まるも、ああやはり…と、どこか納得して開きかけた口を閉ざした。


(俺に聞こえても意味がないのだよ…)


不運にも肝心の本人は既に兼続に捕まり何やら話しているため、エナガの本音には気づくはずもなかった。





(完)
===
私は兼続を誤解しているような…。
でも分かっていないようでいて、実は分かっている兼続というのも良いかなと思います。
あと、誤解されるなが困る困らないのくだりでも、夢主の本音がうっかり出ているという(笑)

2014/12


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