動機が不純
「そろそろ切ろうかな…髪」
エナガの呟きを拾ったのは、隣に座る幸村だった。
「髪を切るつもりですか?」
「どうしようかなって話。子どもの頃は長かったんだけど、煩わしくなって最近ずっと短いままだったから」
こっちじゃ気軽に散髪できないし、と苦笑するエナガを余所に、幸村は何か思うことがあるのか、じっとエナガの肩口まで伸びた髪を凝視している。
幸村の視線をさして気に留めるでもなく、エナガは独り言のように思っていることをつらつらと吐き出していく。
「また伸ばすのもいいかなとも思うんだ。子どもの時と今とだとまた違う気分だろうから。でも、手入れが大変なんだよね。私、不器用だから結ったりするのは苦手だし。それに……やっぱり似合わないのが痛いかな」
似合わない。
その一言に幸村は猛然と食ってかかった。
「そのようなことはありません!長い髪もエナガ殿ならきっと似合うはずです」
「え、そ、そうかな…」
「勿論今までのような短さでも十分エナガ殿らしくて素敵ではあります。ですが先程のように迷われるなら、気持ちを入れ替えるという意味でもこれを機に伸ばしてみては如何ですか?髪を切ることはいつでもできますが、伸ばすことはすぐにはできません。伸ばしてみてやはり気に入らないのであれば、その時短くしても良いと思いますよ」
「そ、そうだね……」
幸村が、たかが髪の、それも他人の髪のことでこうも熱く語れるとは…。
思いも寄らない熱弁に、エナガはただただ呑まれて頷くばかりだった。
「ゆ、幸村さんがそこまでおススメしてくれるのなら…伸ばしてみようかな」
「是非そうしてください。きっと似合ます」
云々と満足げに頷く幸村を見ていると、似合わない髪型も自分が似合わないと思い込んでいるだけで、実際そこまで似合わなくもないかもしれない。
そんなことを思いながら、ふと沸き起こる疑問。
「幸村さんって、もしかして長髪フェチ?」
「長髪ふぇち?」
「長い髪が大好きで大好きで仕方がない人のことですよ」
「え、い、いや。私は別にそういうわけでは…」
「でもさっきの語り具合からしたら、嫌いって訳じゃないですよね?」
「それは……」
言えるわけがない。
長い髪が好きなのではなく、エナガが好きだから、なんて。
好いている者の今まで見たことのない姿を見てみたいから。
要するにエナガへの助言というよりは、幸村自身の希望というわけである。
流石に自覚があるだけに、不純な動機を白状できなかった。
言ってしまえば「あなたが好きです」と、ある意味告白したにも等しい。
エナガの気持ちが分からないこの段階で、おいそれと口にできるものではないのだ。
戦場においては物怖じしない武士なれど、残念ながら今は違う。
殊に色事においては、下手な者より一歩も二歩も怯んでいる幸村である。
純粋に沸き起こった疑問の答えを待つエナガの視線が、幸村には今はただただ辛いばかりだった。
先程のような力説で誤魔化す余裕など最早なく、代わりに出てくる言葉は、「その…」、「はあ…」だの、頼りなく、まともな言葉の体をなしていない。
結局、三成と兼続が遊びに訪れるまで、事態は膠着したまま動くことはなかった。
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超が付くほど久しぶりの無双夢です。
初心な幸村、大好物なので、嬉々として書かせていただきました。
そしてどっちつかずなもどかしい状態も大好物なので、今後もじれったいお話を書いていきたいと思います。
2014/11
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