ある島の片隅にて


少女の双眸は、深い疲弊に染まっていた。
悲しみや、絶望や、憎しみ。誰の目にも哀れな自分の身の上にまつわる、どんな感情もそこには見て取れない。
ただ、黒服の男たちに引きずられるままにヨロヨロと歩きながら、ぼんやりとした目を風景へと向けている。

そう、彼女にしてみれば、何ら変わりはないのだ。街の見世物から天竜人の愛玩動物となるだけ。成り上がりなのか、成り果てるのかすら定かではない、形の違う不遇。
じゃらりと鳴った首の枷が外れる時、きっと、少女は生きていない。

物心ついた時からヒューマンショップの一画に常設されたステージで、酷く、派手やかなショーの主演を務めさせられ。
天幕の隙間や、改装の時に閉じ込められる檻の中から見るのが唯一の『外』だった。

今、その外界を、裸足の両脚で歩いている。食い込む小石も擦れる足の裏も、産まれて初めて味わうことができた。

もういい。もうこれで終わるのだから、あるがままを享受して、最後の記憶としよう。
そう思うと、少女の濁った表情の中にほんのわずか、くたびれた笑みが滲んだ。


その光景を物陰で眺めていた男の唇が、ニヤリと歪に動いたのはその瞬間だった。


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