最悪世代の乱入者


「Room…シャンブルス」

突如辺りを包んだ薄青いサークルに、周囲の人間かザワつく。天竜人の配下である黒服たちも警戒に身を固めるが、それすら見越した男の一閃は容赦なく襲いかかった。

「うわぁ!か、体が」
「おれの腕はどこだ!?」
「脚が腹から!!助けてくれぇ!」

文字通り混ぜこぜでくっついた体に恐慌状態となっている周囲には目もくれず、ゆったり歩み出てきた男は、放り出されたまま転がる少女へも切っ先を向けた。
刃毀れ一つないそこに自分の顔が映り込む程近付けても、虚ろな目はどこか遠くに向いているようで反応しない。

「……なぁ。お前は一体、何を見てる?」

乱入者ーートラファルガー・ローは、片端を吊り上げた歪な笑みのまま少女を覗き込んだ。
身形からしてロクな扱いではなかったと察しがついたので口がきけないことも想定できたが、知恵がないタイプの奴隷でないと確信していた。
物の分からない人間に、あんな諦観を通り越した、命に疲れ切った目はできないからだ。
声として返らなくとも、何か少しでも反応を示せば良いと思っていた。

「………そ、と…」
「外、ね…」

水気はまったくない小さなものだったが、確かに会話が成立したことに気を良くしたローが笑みを深める。
そして、スラリとした脚を折りたたみ、未だ目線の合わない少女の傍に膝をしゃがんだ。

「ーー連れてってやる」
「…ど、こ……」
「外だ。今眺めてる水平線の、ずっと先へ」
「……なん、で…?」

初めて少女の目が意思を持った視線として動いて、ニヤついたローの顔を見上げる。
相変わらず、睫毛をかすめそうな刃先へ動じないことに鼻を鳴らすと、ほとんど鷲掴むように細過ぎる胴を抱き起こした。
フラフラと危ういながらに自立したのを確かめ、抜き身のままだった鬼哭を少女の首目掛けて薙ぎ払う。

チャリ、と宙に浮いた形となった枷をローが蹴り飛ばしたのと、炸裂音を響かせて首輪が爆発したのは僅差だった。
もうもうと立ち込める爆煙が、掌に収まった頭部から良く見えるよう持ち直してやると、その米神に口付けるようにして囁いた。

「気まぐれだ。お前次第で、保険にもなり得るが。ほかに理由が欲しけりゃ、勝手に作っとけ」

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