「―――対アクマ武器ですよ、僕はエクソシストです」
「何?」
白髪に色白の少年と、黒い長髪の少年とが物々しい雰囲気で門の前に対峙していた。
やがて、白髪の少年の言葉を聞いた長髪の少年が、視線だけで射殺さんばかりに鋭い視線を目の前の門―――顔がついた、喋る門(番)―――へと投げつけた。
「門番!!!」
「いあっ、でもよ」
中身が分からなければ間違えてもしょうがない。もし、アクマだったらどうするのか―――喋る門(番)の言い分はこうだ。
奇妙な門すらも怯えさせる長髪の少年を前に、白髪の少年はすぐに長髪の少年に背を向けて喋る門へと縋り付く。
「僕は人間です!確かにチョット呪われてますけど!!」
「立派な人間です!!」と慌てて白髪の少年は門に触れ訴えるも、門はぎゃあぎゃあと騒々しく悲鳴をあげ、少年へ「触るな」と騒ぎ散らす。
しかし、そんな白髪の少年と門のやり取りを見ていた長髪の少年は、早速穏便な解決をする気もなく己が武器の刀を構えた。
「まあいい・・・・中身を見ればわかることだ」
長髪の少年にはそもそも、端から白髪の少年と話し合いをする気などない。
彼を斬る為に城内から出てきた長髪の少年にとって、そのような選択肢はまず最初からありはしなかったのだ。
「この六幻で斬り裂いてやる」
刀を構え、長髪の少年はいよいよ白髪の少年に素早い動きで斬りかかっていく―――かと、思われたが。
「まあ、待て、そう慌てるな―――神田」
「―――ッ!?」
「ひえッ!?」
白髪の少年の目前まで迫った刀は、直前に彼らの間に突然現れた女性が持ったサーベルによって、見事に防がれる。
『神田』と呼ばれた長髪の少年の刀を防いだサーベルは、鮮やかな赤い色をした鞘から抜かれ、淡い薄ピンク色の剣先を晒していた。
風に揺れた赤い毛髪に、彼女の背後に立つ白髪の少年は「あ―――」と思わず声を上げていた。
「師、匠・・・・?」
「―――ふっ」
少年には、どことなく己の師の面影と重なって見えたらしい。
しかし、少年はまだ知らなかった。
目の前で背中を向ける彼女の前で、少年の師である男の話はしてはいけないという暗黙のルールが教団にはあることを。
思いがけない背後からの少年の言葉に、彼女は僅かに微笑みを浮かべ、そしてゆっくりと振り返る。
「誰があのクズに似てるって?」
「えっ?」
「ぶち殺されてえのか、クソガキ」
「・・・・えっ!?」
「オイ、アンジェ!!」
武器こそ向けられていないものの、白髪の少年からしたら『アンジェ』と呼ばれた彼女の方が、『神田』と呼ばれた少年より恐ろしいように思えた。
容姿が整っている分、その微笑みは素晴らしく美しいのだが、ここまで恐ろしく目の笑っていない綺麗な微笑みを、少年は見たことがなかった。
その為、酷く恐ろしいものを見るように『アンジェ』と呼ばれた彼女を見つめていれば、彼女は『神田』の言葉を無視するように近くを飛んでいたゴーレムの群れへと声をかける。
「何してる、コムイ。こいつはアイツが寄越したエクソシストだろう」
<<や、でも、アンジェ元帥―――>>
「リーバー、今すぐそのポンコツのデスクを調べさせろ」
<<え、デスク・・・・アレをっすか・・・・・・>>
「早くしろ。でなきゃこの役立たずのクソ門番をぶっ壊すぞ」
訳がわからないといった様子で彼女を見つめる少年らには目もくれず、アンジェはゴーレムを通して城内の人間たちと話を進めていく。
すると、その最中、矛先は思いもよらぬところへと向けられ、アンジェは悪い笑みを浮かべながらサーベルを掲げてみせた。
当然、そんなことを言われれば臆病な門番はすぐに狼狽え、またしても騒ぎ始めてしまう。
「えっ、オ、オオッ、オレェ!?」
「うるせぇ、騒ぐな。次喋ったらぶち壊す」
「なっ、なんでだよぉぉっ、オレなんもしてねェじゃんっっ!!」
「よし喋ったな、ぶち壊す」
<<わーわーわ!!待って待ってアンジェ元帥ーーっっ!!>>
先程の長髪の少年、神田の時同様。
彼女、アンジェもどうやら話し合いでの解決をする気はないのだろう。
最初から、門を破壊する為に出てきたと言わんばかりに笑顔でサーベルを構えるアンジェに、ゴーレム越しに多くの人間たちが彼女を止めようと騒ぎ始める。
しかし、その直後、ゴーレム越しに聞こえてきた―――「え!?あれ!?あの、コムイ室長!!」―――と、慌てるような人間の声。
<<コムイへ・・・近々、『アレン』とかいうガキをそっちに送るのでヨロシクなby.クロス・・・・・・室長>>
<<・・・・ハイ!そーいうことです!門番、門開けて〜!>>
「・・・・ということだ、神田。武器をしまえ」
アンジェは漸く神田へと目を向け、未だに構えたままの武器を下ろすように声をかける。
しかし、声をかけている張本人はといえば―――
「まあ、私はこのクソ無能な
「ぎゃあああッ、だすげでぇええええっ!!」
―――そもそも、武器を下ろす気もしまう気も皆無なのであった。
先程とはまた違う理由で、再度城内に門番の悲鳴が響き渡った。
そこは、黒の教団。
AKUMAと呼ばれる、死者の魂と機械を融合した生きる悪性兵器を破壊することのできる黒の聖職者たちエクソシストが所属する機関。
そして―――
「だから、何度も言ってるんだ。あんなポンコツはさっさと破棄して、新しいものを私に作らせろ」
「もうっ!ダメに決まってるでしょ、アンジェ元帥!」
「何故だ、リナリー。お前はあんなポンコツクソ門番の肩を持つのか?」
「そうじゃないけど・・・・でも、ダメなものはダメなんです!」
神田、アンジェ、そしてアンジェと神田の目の前に立っている黒い長髪をツインテールにした少女たちこそが、黒の教団に所属する―――エクソシストたちだった。
「チッ・・・・どうして、こうもどいつもこいつも話が通じないんだ」
「アンタが誰よりも人の話を聞かねえからだろ」
「あ?なんだ、神田、なんか言ったか」
「・・・・はぁ」
やってられるか、と呆れた様子でため息を吐いた神田は、刀を鞘に収めると興味を失ったように開いた門の中へと入っていこうとする。
その神田に白髪の少年―――アレンが、挨拶をしようと手を差し伸べ声をかけるも。
「呪われてる奴と、握手なんてするかよ」
散々間をおいてアレンを睨みつけた神田は、それだけ言い残し、さっさと一人で歩いて行ってしまう。
そんな神田の態度を、すぐさまツインテールの少女―――リナリーが彼に変わってアレンに「ごめんね」と謝った。
しかし、その横で漸くサーベルを鞘に収めたところだったアンジェは声を上げておかしそうに笑っていた。
「この世に呪われてない人間なんて一人もいないがな」
そう言って、アンジェもまた一人で奥へと歩いて行ってしまう。
アレンとリナリーは彼女のあとを追うことなく、去っていく背中を見つめていたが、やがて、その背中が見えなくなってからアレンは思い出したようにリナリーに聞いた。
「あの、そういえば、あの人は・・・・?」
「ああ、あの人は、アンジェ・マリアン元帥よ」
「・・・・マリアン・・・?」
「そう、アンジェ元帥は、クロス元帥と兄妹なの」
「どうりで・・・・」
どうりで似てるわけだとアレンはここに来る前、インドで別れた(正確には逃げられた)きりの己の師の姿を思い出しながら、先程、神田から助けてくれた際のアンジェの姿を思い出し納得する。
しかし、あのような反応をしたということは、兄妹なので似ている自覚はあるにはあるのだろうが、それを不服としているということだろうか、とアレンは考える。
まあ、自分だってあの人(クロス・マリアン)が自分の兄弟で、似てると言われたら確かに不服だな・・・・と考えて、アレンはもう二度と彼女にその手の話はしないよう決意したのだった。