大学生の木葉秋紀と遠距離恋愛4




付き合い始めて5年も経つ彼女とは、以前浮気騒動になったこともあるし、喧嘩も何度もした。
だから彼女の怒った顔や不機嫌さを隠そうとする無表情はよく知ってる。
それでも彼女を泣かせたのは初めてだった。



電話をしている時の彼女の棘のある一言が俺の癇に障り、そのまま喧嘩になった。
それまで頻繁にしていたメールや電話も一切途絶えて2週間が過ぎた頃、
彼女から着信があったが、気付いてからかけ直しても繋がらなくて、
タイミングが合わないままズルズルと時間だけが過ぎていった。

講義が終わって駄目元で彼女の携帯に電話をかけてみると、本当に久しぶりに電話がつながった。

「もしもし」
「ごめ、俺…」

彼女の声にザワザワと雑音が混ざり、落ち着いて電話が出来る環境では無さそうなことは分かった。
とりあえず謝って、いつ電話する時間が取れるかだけ確認して、
そう思った時に電話の向こうから彼女の名前を呼ぶ男の声がきこえた。

「ごめん、またかけ直す」

別に、仕事の人だろ。苗字でなく名前で呼んでたけど、誰にでもそうな人っているし。
あいつスタイル良いけど顔は普通だし、まあ大人びた格好を好む割に笑顔だけは幼くて笑窪もすげー可愛いけど。
でも浮気とかする奴じゃないし。ちゃんとかけ直してくる。そしたら謝って、仲直りして、また元通り。大丈夫。

バイトが休みだと時間が余って余計な事まで考えすぎてしまうから、
ゼミの連中に誘われるがままに飲み会に顔を出した。

「木葉くんどしたのー、今日テンション低いじゃーん」
「こいつ彼女と喧嘩中らしいよ」
「るっせえなー!」
「おーおー!飲んで忘れちまえ!!」

自棄になってジョッキを一気飲み。酔った勢いでぐだぐだと管を巻く俺に
次から次へと酒は渡されて、気が付いた時には自分のベッドの上で朝を迎えていた。
頭が痛い。家に帰り着くまでの記憶もない。潰れるまで飲んだのは久しぶりだ。

「水…」

ベッドから這いずり出ようとして、そこに居るはずのない彼女が居るのに気が付いた。

「えっ!おま、なんで?!え?!」 「今日休みだから、ちゃんと話しにきた。昨日の夜の新幹線で。
 電話しても出ないし、玄関の前で待ってたら女の子に連れられて酔い潰れた秋紀が帰ってきた」
「ちっ違うって、浮気とかそんなんじゃなくて、ゼミの奴らで、皆で飲んでただけだから」
「ねえ秋紀」
「………」
「私はもう、要らない?」
「ーー!」

彼女の一言で、肩を掴もうとしていた腕がぴたりと止まって動かなくなった。
俺は何てこと言わせてるんだよ、それにこんな苦しそうな表情させて。
触れることも、返事もしない俺を見て彼女の目からぽろぽろと涙が溢れ出した。
これが初めて彼女を泣かせた瞬間。

「もう、私達ダメなのかな?」

謝って、抱き締めて、涙拭いて、好きだって伝えないといけない。
頭では分かっていたのに、彼女の泣き顔の前では、何もかも薄っぺらく思えて、何も出来なかった。

「泣くなよ。ちゃんと謝るから、好きだから。頼むから、泣かないで」

ようやく絞り出した声は掠れていたし、彼女の手を握った俺の手は微かに震えていたけど

「ふふ、なに秋紀まで泣きそうになってんの」

確かに彼女は笑った。赤くなった目から最後の一雫が笑窪の溝を伝って、落ちた。
俺は多分、この笑顔をずっと忘れないと思う。
     2015.01.26

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