それの始まりは、ただただ痛かったって事しか覚えていない。別にそれ以外の感情はあってもなくても変わらないんだと思う。
その時、自分がどんなことを考えて行動したかってことも、もう覚えていない。たぶんテレビのアニメかなんかに触発されて、厄介ごとに首を突っ込んだんだろう。
腫れた頬をするりと撫でながら、
「殴られるのっていてぇんだな」
そう、当たり前のような事を空に向かってぼやいていたら、心配そうな顔をした茶色と、変な物を見る様な目をした黒色がいた。
オレは一体何をしていたんだっけ?と自分に問う前に、目の前に砂で汚れた手が差し出された。一瞬それが何なのか全く分からなかったけど、とりあえずその先に見えた茶色を信用してみて、その手を取った。
大の字になって、手も足もうんと伸ばしていた時と違って、ボウリングのボールみたいに重たい頭を首で支えるのは些か面倒だな、なんて今更思う。首が据わってから一体何年この大して何も詰まっていない頭を支えてきたんだか。
「いやぁ、オレにはヒーローなんて無理だったわ」
改めて、自分が特別でもなんでもない人間だってことを理解した。改めて、なんて最初から理解しているはずなのに、どうして自分は特別だ。などと思ってしまうのか。オレは"自分が一番かわいいから"とそう言おう。
さっきの黒色はさっさと歩いて、恐らく、自分の家のある方向へ進んでいた。茶色い方はそっちを気にしながら、まだ地べたに座ったままのオレを見てやっぱり心配そうな顔をしていた。
よいしょ、ってどっかのオッサンみたいに声を上げ、重たい腰を持ち上げると、ぐっと空が近くなった気がした。それは本当に気がしただけで、実際の距離なんて一ミリだって近くない。
からりと音を立てて、自転車に跨ってるんだか、立ってるんだか、よく分からない乗り方で茶色が黒色に話しかける。
その内容にいまいち興味が持てなくて、自分はここでいったい何をしてるんだろうとか、汚れた制服がちょっと気になった。別に、怒る人間がいるわけではないのだけれど。
今日の晩飯は何にしようか、とか明日の授業だりぃな、とかだらだら二人と並んで歩いていると、ガシャンッ、と音を立てて何かが転がった。それに吃驚して肩を揺らしていると、晴れた頬が少し痛んだ。
地面に転がる茶色とタンマツ。黒色がタンマツを拾い上げると、茶色がそれを素早く奪い取って、何かを言う。その内容にもやっぱり興味が持てなくて、二人の会話を、ドラマを観ていたら急に始まったエロシーンでも観ている様な気分で眺めていた。
会話の内容は忘れた。けど――、
「世界が滅亡すればいいのに」
その言葉だけが頭の中を、太陽の周りを回る惑星の様に、ぐるぐる、ぐるぐると回っていた。
《それは、》何かの始まりだったかもしれない。
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