あのひとが迎えに来るのを私は待っている
あのひとは、殺しても死ななそうなひとであったから。私は彼の死を聞かされて、大層驚いたものだった。
イギリス、スコットランドの町外れのボロ屋敷で一人悠々自適に暮らしていた私のもとに、ある日訪ねてきたのは、SPW財団を名乗る男達だった。一先ず屋敷に招き入れ、紅茶を淹れてやる。彼らは出された茶に手もつけず、話を切り出す。

「ここに――という者がいると聞いてやって来たのだが」
「ああ、それは私のことだ」

それを聞き、驚きの感情を示す彼らに苦笑する。どおりで、私が彼らを出迎えた時、怪訝な顔をしたはずだ。男が住んでいるものとばかり思っていたのだろう。――というのは、男性名であったから。

「ちょっとした役職名のようなものでね。通称や称号と言ってもいいかもしれないが」

さて、お茶請けになるようなお菓子はあっただろうか。スコーンは今朝食べ切ってしまった。戸棚を見れば、日本から取り寄せた煎餅が見える。流石に紅茶には合わないだろう。
戸棚をさぐる手を止めて、私は彼らに向き合った。

「その名を知るということは、君達はDIOの関係者か」

彼らの間に緊張が走る。沈黙は肯定だ。やけに懐かしくなって、私は頬を緩めた。

「それで彼は元気にしているかい?」

まあ。死んだ、と教えられたわけだが。




財団員達に連れてこられ、やって来たのはアメリカ、テキサス州。ここにSPW財団の本部があるという。DIOの関係者として、事情聴取されるらしい。あのひとが何かしたのか、と尋ねれば、財団員達はおそるおそるといった様子で、DIOのその悪逆非道を教えてくれた。
まっとうな人間でないとは思っていたが、ひとですらなかったとは思ってもみなかった。まさか吸血鬼とは。それを知っていれば、同じ人の枠を外れた者同士、もっと仲良くなれたかもしれないのに。実に残念だ。

財団は、どうやらDIOの関係者というより、敵対組織といった存在だったらしい。そういうことであれば、私がDIO側の人間だと考えるのも尤もで、警戒されるのも当然。あの時の私の問いには、振り回されたことだろう。なんとも悪いことをした。
部屋の入り口の扉脇には、財団員服に身を包んだ若い男が二人控えている。ガタイのいい初老の男性を前に、机を挟んで座った。

「それで、私は何を話せばいいのかな」

目の前の初老の男性は、人のいい笑みを浮かべ、「まずは自己紹介をしようじゃないか」と言った。




彼はジョセフ・ジョースターと名乗った。その名を心の中で何度か反芻する。ジョセフ・ジョースター。どこかで聞いた気がする。どこで聞いたのだったか。
彼は不動産経営で財を築いた、不動産王というやつらしい。
私も名前・苗字と名乗って、普段はひとの願い事や頼みを聞く、便利屋のようなことをしていると話した。

「君とDIOの関係を教えて貰いたい」
「関係、ね。……彼とはひとつ、約束をしていたんだ。彼は、彼の因縁を清算した後、私を迎えに来る。私はそれを待つ。そんな約束を」

こう言うと、なんだかロマンチックに聞こえるが、迎えに来た彼と私が結ばれるなんて展開はなく、そのあとはごく単純に、彼の部下となる約束だった。
私の語り口に、色恋沙汰かと興味に目を輝かせていた不動産王は、部下になる約束だったと聞いて、表情一転。「つまらんのー」と口を尖らせた。



力尽きてしまった(早い

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