ノンフィクション・フィクション

コナン世界に転生したオリ主くんが、蘭ねーちゃんとかが電柱殴っても破壊してないのを見て、まあ普通そうだわ、あれは漫画的演出だったんだな〜〜と思っていたところに、降谷がステゴロでゴリラパワーを見せて、この人だけ世界観違うやんこわ……ってする話が読みたい
降谷さんは怯えられて解せないって顔してる


まあ普通拳銃の弾丸避けるとか人間にできたことじゃないよな〜蘭ねーちゃんのあれ、見切ってるんじゃなく幸運値高いだけだったみたいだ〜みたいなかんじで、
現実的にあり得ないところは、原作で漫画的演出がされていただけで、実際転生先では起きてないことに納得と安心してたところにやってくるゴリラ

密室殺人事件でよくある、扉とかに体当たりして開けるのとかも、元々老朽化してたとかでつじつま合わされてるところを、
降谷さんのときだけ金属部分メキョッてしてて(うわ……)ってなる

はじめはヨハネスブルグな米花町にびくびく怯えて暮らしていたけど、犯罪都市にもサザエさん時空にもなっていなくて、そこそこ平和だったりしてそう。それだけに安室は異質
「にじげんからぬけだしてきたの?」(元々二次元世界である)
きっと観覧車上での大立ち回りという現実離れした現実には泣き崩れる
そのショッキングな事実に誰も気付いてくれないだとか、誰も驚いてないだとかいうことにまた泣き崩れてほしい


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高校生探偵・工藤新一の幼馴染である、佐倉塔矢という男は、事件の起こる非日常よりも何もない日常を、非凡よりも平凡を愛する男である。
そんな彼には、昔からどこか変わった泣き癖があった。起こり得るはずのない出来事を不安がって、それが起こらなかったことに安堵して泣くのだ。
今も、もう一人の幼馴染、毛利蘭が電柱に向かって拳を突き出すような真似をしたのを見て、電柱が破壊されていないことに安堵して泣いている。そもそも、蘭の拳は寸止めであるし、電柱を素殴りしては電柱ではなく彼女が拳に怪我をする。
昔から変わらない彼に苦笑しつつ、三人でいつもの帰り道を歩いた。

別れ際、「約束、分かってるでしょうね!」と念を押す蘭に、新一は片手を挙げて応える。彼女が都大会で優勝したことを機に、二人はトロピカルランドに行く約束をしていたのだ。
幼馴染がまたマナーモードになっている。「新一が怪しげな取引を見に行って幼児化したらどうしよう」などと呟いているが、遊園地で怪しげな取引が行われるはずがなく、幼児化なんてファンタジーも起こるはずがない。それは杞憂というものだ。起こるはずがない心配ばかりするので、いつもの調子で「バーロー」とだけ返した。

――それが杞憂ではなかったと、知った時には遅かった。





二度目の人生。幼馴染のフルネームを聞いて、生まれ変わった先の世界が『名探偵コナン』に酷似したものだと気付いた俺は、その事実に恐怖した。
何せ自分の立ち位置は、主人公とそのヒロインの幼馴染という、イベント爆心地のすぐ側。自宅はもちろん、米花町にある。
この町は、ご長寿で大人気な推理モノ漫画の舞台なのだ。その事件の多さは、メタ的視点で揶揄され、スピンオフである犯沢さんでもネタにされている。

――きけんがあぶないいのちがやばい。
俺が家の外に行きたがらなくなるのも、当然の成り行きだった。
そんな引きこもりな俺を、外の世界に連れ出してくれたのは、他ならない新一と蘭だった。

『名探偵コナン』において「探偵」というのは、事件を運んでくる存在である。探偵がいるところに事件が起こり、謎が生まれ、謎解きが始まる。特にコナンとなった新一にそれは顕著で、コナン作中では彼の行くところ、その先々で多くの殺人事件が発生した。
事件発生の責任を、新一に求めることは間違いだとは理解している。因果関係にしても、探偵が来たから事件が起きたのではなく、事件が起きたから探偵の出番となったのだ。
けれども、俺にとって、この世界における工藤新一と毛利蘭はキーパーソンであり、事件の中心地であり、恐怖の対象だった。

その二人が我が家に襲撃をかけてきたのだ。彼らの背後には、苦笑する彼と彼女のご両親。俺の両親は満面の笑みだった。大人たちはきっと全員グルだ。
外に行きたくない俺は、二人を家の中で遊ぼうと誘ったけれど、新一は俺を連れ出して、自宅にある書斎のホームズ全集をお披露目しようとしていたし、蘭ちゃんも俺の引きこもりを心配していたようで、新一に協力的だった。
理解のない人達に、無理矢理連れ出されるだなんて。とんだ荒療治だ、と今なら笑って話せるが、当時は冗談じゃないくらいに精神的に追い詰められたし、よくぞトラウマを育てる切っ掛けにならなかったものだと思う。

子供とは時に残酷だ。「怖くない、怖くない」だって? お前らは怖くないかもしれないけど、俺にとっては怖いのよ! それを全然分かっちゃくれない。
俺が「や゛だーごわ゛い゛ぃ゛」とどれだけ泣き喚いても、俺の手を引く二人の力は緩まらなかった。俺は靴の足先をつっかけるのが精一杯で、そのまま外に連れ出される。
門を出てすぐそこの道路でしゃがみこんでぐずったら、新一の父・工藤優作に抱え上げられた。おのれ共犯者め。
手は振りほどけたが、側を離れない二人が、あいも変わらず「怖くない、怖くないよ」と、あまりにも無垢で無邪気で優しい声でいうから、感情が振り切って混乱しっぱなしの俺の頭は、もしかして、怖くないかも? なんてことを思い始めるし、大人たちは微笑ましいものを見るような笑顔を浮かべているから、もう、わけがわからない。

泣き喚くのに疲れて、それでも涙は止まらなくて、すんすん、ひっくと嗚咽が漏れる。途中から地面に降ろされて、新一と蘭ちゃんにまた手を取られた。
ぼやけた視界のまま歩いていると、いつの間にか工藤家に到着していた。子供の歩行速度で、十分もかからない距離だ。
道中、事件には遭わなかった。

……まだ、事件の可能性がなくなったわけではない。今日は新一と蘭ちゃんに加えて、工藤夫妻もいるのだ。毛利夫妻と俺の両親は、俺が工藤家に到着したのを見届けていなくなった。
書斎に駆け出した新一に、手を繋いでいた俺が付いて行けず、バランスを崩して転ぶ。新一も蘭ちゃんも道連れだ。ふかふかの絨毯の上で、三人とも怪我はなかった。物の見事に三人でころんと転んだので、それが無性におかしくって、なんだか笑えてきてしまう。
俺が笑えば、あとの二人もつられて笑う。三人できゃらきゃらと笑い合いながら、書斎までのかけっこが始まった。

ほとんど同時に転がり込むように書斎に到着して、その蔵書の多さに俺は驚いた。背の高い本棚、壁いっぱいの本が俺たちを取り囲む。
新一は慣れた様子でホームズ全集のあたりに駆け寄った。蘭ちゃんもここには何度か入ったことがあるようで、挙動不審になったのは俺だけだった。

「とーや、早く来いよ。ホームズだぞ!」

てしてしと、本を乗せた机の角を叩いて急かすわ急かす。他の蔵書も気になったけれど、新一がむすくれるし、蘭ちゃんもおいでおいでと手を振っているので、そっちに向かうことにした。
新一が机の上に置いたのは、未就学児には少し難しいであろうホームズ全集のうちの一冊。どうするのかな、とみていると、彼は挿絵のページを開いて、その絵がどういった場面なのか教えてくれる。そんな場面を辿り、繋ぎながら、ホームズの推理の手際がいかに鮮やかで格好いいかを熱く語った。そうして本の中のホームズに夢中な新一を、蘭ちゃんがぽーっと見ていて、俺の気持ちはほっこりぽかぽかだ。わあいなかよし。

ホームズの話も一区切りした頃、工藤有希子もとい、新一のお母さんから「おやつよ」の声がかかった。振る舞われたのは、彼女が手作りしたというレモンパイである。ざくざくの生地と、程よい甘さのクリーム。レモンの風味は爽やかで、一口食べれば思わず笑みが浮かぶ。おいしい!!
一切れ食べ終える頃には、お腹もほどよく満たされた。ご満悦というやつだ。

さて、書斎に戻ろうかというところで、毛利夫妻が蘭ちゃんを迎えに来た。俺の両親も来た。時計を見れば、午後四時過ぎ。名残惜しいが、お別れの時間らしい。
三人でまた遊ぶ約束をして、両親とともに自宅へ帰る。帰り道も、もちろん何事もなかった。
その頃には、俺が世界に抱いていた漠然とした恐怖は、すっかりなりを潜め、ただ満たされたような気持ちがそこにあった。
無事に自宅に帰ってきた俺は、安心して、また大泣きした。

今では外出も一人でできるし、殺人事件に遭遇してもパニックを起こして泣くようなことはなくなった。平然と、とまではいかないが、少なくとも事情聴取には応じられるだけの余裕がある。
……その度胸だとか慣れみたいなものは、習得してよかったのだろうか? 感性が麻痺して……いや、まあ、事件に遭遇する度に正気度ロールする羽目になるよりはよかったけど。
事件といっても、遭遇した回数は片手で足りる。想像していたより件数は少ないし、謎解きは新一が何とかしてくれる。だから大丈夫だと思えたし、目の前の死は、俺に降りかかるものではないと分かれば、ストレスも少なかった。

こうして暮らしているうちに、俺にも分かったことがある。漫画的誇張表現は、あくまで漫画の中のものだということだ。
現実に起こり得ないこと、例えば大声で叫んだからってその人の顔が膨張するようなことは起こらない。原作であれば器物破損に至っていたであろう、新一に向けた蘭ちゃんの拳や蹴りは、現実には寸止めだし、あくまでじゃれつくような動作だ。人の外見的特徴に関してもそうで、漫画だからこそ記号的に分かりやすい造形をしているが、現実に蘭ちゃんの尖ったツノはない。
これは事件においても適応されているようで、米花町に住んで十数年が経つが、俺が危惧していたような、毎日殺人事件が起こる物騒な町とはなっていない。
これに関しては、まだ新一がコナンになっていなくて、原作が始まっていないからかもしれないが。
もしかすると、幼児化の件も漫画的誇張表現で、現実には新一が小さくならない可能性も――。

なかった。





蘭ちゃんが紹介してくれたのは、幼少期の新一にそっくりな、江戸川コナンという少年だ。なんでも、阿笠博士の遠い親戚の子供らしい。今は毛利探偵事務所で面倒を見ているのだとか。
ちなみに新一については、蘭ちゃんとトロピカルランドに行ったきり、姿を見ていないとのことだ。
コナンくんをじっと見つめると、エヘヘと誤魔化すように笑った。うーん、あざとい。
蘭ちゃんが離れたのを確認してから、コナンくんの眼鏡をそっと抜き取った。

「新一だよね?」
「……お前のいつもの妄想じみた心配が、今回ばかりはまぐれ当たりしたぜ」

俺には誤魔化さない方向らしい。
頬を雫が伝って落ちる。生きててよかった! でも超常現象怖い! の涙だ。



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初対面の印象は、「犬のような子だな」だった。それも、小型で人懐っこい愛玩犬だ。
安室の姿を見つけると、ぱっと表情を明るくして駆け寄ってくる。その背後に、ふりふりと目一杯ふられる尻尾を幻視するほどだ。
初対面の時から、彼は安室に憧れのヒーローを見るかのようなキラキラした瞳を向け、少し歳上の親戚にでも接するかのような態度で安室によく懐いていた。

それが一変したのは、ミステリーツアーの後のことだ。
コナンと仲の良い彼だから、その繋がりで「安室透」の危険性を伝えられたのかもしれない。彼はすっかり安室に怯えるようになってしまった。
今日もまた、ポアロで安室の姿を確認した途端、ぴゃっと逃げ出した。今は幼馴染の少女の陰に隠れ、ふるふるふる、と小刻みに震えている。
安室を見つめるその瞳に、かつてのようなきらめきはない。不安に揺れるその瞳は、いつだって泣きそうな様子で、潤ませるばかりだ。

バーボンを演じる上で、ミステリーツアーのあの時の行動は、安室に必要なものだった。だからこれは順当な結果で、仕方のないことなのだ。
降谷零にとって、彼という人間は、守るべき日本国民であり、善良なる一般市民の典型のような存在だ。そんな彼に怯えられていることに、少し苦い気持ちになりながら、過去の立場への未練を振り払った。

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