閑話 「忠告」



 昊希にとって、その人のかたちをした人になれない何かは、自分の願いを叶えてくれる『おほしさま』だった。


 『前世』と『前々世』を思い出したことで、昊希はそれが「スタンド」であることを知った。今まで当たり前のように昊希の側に存在していたものが、自分が持ち得るとは思ってもみなかったいわば特別な力であったことに、その時の彼は酷く衝撃を受けたものだった。

 硬直現象は、『おほしさま』が「スタンド」だと認識されるようになってから起こるようになった。何故スタンドに触れた者の動きが止まるようになったのかは、昊希自身にも分かっていない。だが、昊希の認識の変化がスタンド能力の確立に一役買ったのであろうと推測している。スタンドを自分の意志で出し入れできるようになったのもこの頃だった。

「誰かと組むのに向いたスタンドだな」

 昊希の能力をそう評したのは、他でもない、『他人と組む』ことを己の信条としているスタンド使いのホル・ホースだった。ニヤリと口角を上げた彼の、無骨な手に収まるのは、常人の目には映らない拳銃だ。

「組める相手がいないのだが」
「オイオイオイ〜、ここにいるだろ?」
「遠慮しておこう」
「つれないねェ」

 そう言うホル・ホースだが、本気で昊希と組もうとしていたわけではないだろう。まして、昊希を仕事のパートナーにしようは考えてもいまい。何の仕事をしているかは知らないが。
 きっとその言葉は、旅先で会ったスタンド使いの子供への、リップサービスのようなものだ。子供の昊希を、組む相手として自分と対等にみているとでもいうような。子供の自尊心を大いにくすぐってくれる言葉。なんともオトナな対応だ。前々世の漫画内では、ギャグ枠で見ていたはずの彼が格好よく見える。ふしぎ。

「組むのは遠慮しておくが、友にはなりたいと思う。よければ、連絡先を教えては貰えないか」

 昊希の言葉は駄目元だったが、ホル・ホースはあっさりと昊希の願いを聞き入れ、メモはあるかと昊希に尋ねた。
 直接打ち込んでくれればいいと、昊希が小一の頃から使っているパステルカラーのきっずケータイを取り出すと、ホル・ホースは変な顔をしていた。『似合わない』とでも思っていそうだ。確かに、中学生にもなって、このまるいフォルムの携帯電話はないかもしれない。

「一応、防水加工はしてあるし、カメラ付きで防犯ブザー機能もあるから」

 ついでにいえば、親に居場所が伝わるGPS付きだ。ホル・ホースは『防犯ブザー』の下りで頬を引きつらせていた。「いいか、鳴らすなよ。絶対に鳴らすなよ」と言うホル・ホースに、これってもしかして振りかな? と思ってしまった昊希は悪くない。昊希と仲良くしてくれるなら、不審者扱いせずお友達扱いしよう、というのでその場の話はまとまった。……こちらに敢えて下手に出て、相手に話の主導権を渡すあたりに、彼が女性にモテる理由を垣間見た気がする。

 ホル・ホースから携帯電話を返された昊希は、両親しか登録されていなかったアドレス帳に、ホル・ホースの連絡先が増えていることを確認する。電話番号と、Eメールアドレス。なんとなく、彼の場合、携帯電話は複数台持っていそうだなと昊希は思った。

「いいか。お前のそのスタンドは確かに便利だが、敵を生かして逃してしまう能力だ」

 こくり、と昊希は一つ頷く。スタンドを使わずとどめをさせばいいということは、考えなかったことにする。

「そのスタンドの真価は、スタンドに接触した相手の硬直だと思え。一度、その『お願い』抜きに、自分のスタンドが、触れれば相手を止めることのできるスタンドだと思って、使い方を考えてみりゃ、できることは増えるだろうよ」
「ご親切にどうも」

 過去に組んだ相手にも、そうしたアドバイスをしたりしていたのだろうか。ホル・ホースの助言は、今まで我流でスタンドを修練していた昊希には目から鱗のことばかりだった。
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