閑話 「続・再会」



「お前なら、死んでくれると思っていた」

何故昊希を殺した――昊希に矢を向けたのか。問うた昊希への、形兆の答えがそれだった。
昊希の目が大きく見開く。

「ふ、は」

唇から漏れ出た息は笑っていた。




「そういう方向に走ってしまうのかい? 頭おかしいよ、君」

なんて傲慢だろうか。昊希は形兆の正気を疑う言葉をかける。
――いや、だが確かに、君はそういう奴だったな。
つり上がる口端。これを笑わずして何が笑いか。変な信用をされたものだ、と昊希は思う。彼のそれは、紛うことなく、己らの間にある友情とやらに向けた念なのだろう。一方通行では、なかった。昊希は、滑稽劇でも見ているような気分だった。

「ああ、逃げたことをこんなに後悔するなんて、思ってもみなかった」

彼を「頭がおかしい」などと言った昊希だったが、形兆の発言を聞き、正面から殺されればよかったなんて思ってしまったあたり、自分も余程おかしいと自覚する。成る程、おかしいのは、お互い様だったらしい。類は友を呼ぶとも言うし、当然のことといえばそうなのかもしれない。あまりのおかしさに、昊希も今ならへそで茶を沸かせそうだった。
くつくつ笑いながら、昊希は形兆を見遣る。細めた瞳に浮かぶのは、少しの寂しさの色。

「きっと僕は、僕がその不可思議な力を持っていなくとも、気にせず君の事情に巻き込んで欲しかったんだ。……僕の中で、あの矢はいらなかったんだよ」

言葉に変えてようやく、昊希は彼に矢を向けられたことの、何がそんなに堪えていたのか分かった気がした。
あの矢が、昊希には形兆の拒絶のように感じられたのだ。恐怖を抱いたのは、迫る「死」に対してだけではなかった。彼が昊希を否定することが怖かった。
昊希では駄目だと言われたようで、スタンド使いではない昊希に、資格はないと告げられたようで。所詮昊希など、その程度だと切って捨てられたようで。それなりに、仲良くなれたと思っていたからこそ、昊希にはショックだった。

今思えば、昊希の見立てが甘かったのだろう。「虹村形兆の友人」に、「一般人」の肩書きでは不足だった。一般人を巻き込みたがらないスタンド使いの例を知っているにも関わらず、それを考慮しなかった昊希の落ち度だ。反省、反省。

ちなみにその後の昊希だが、矢に射抜かれ半ば死が確定したところで、己が死ぬということは形兆も近いうちに死ぬということであると気付いてしまい悲しみにに暮れることになる。
そうして、結局自分は彼に何もできないのだと昊希が思い知ったところで、視界に飛び込むのは形兆の憎悪顔。コンボ炸裂、精神ふるぼっこだどん! まさか殺したいほどに、自分は憎まれていたのかと、昊希の今までの認識を根本から揺るがした。打ちのめされるわけである。


「やはり、知っていたのか」

鋭い瞳で見据えられ、昊希は冷や水を掛けられた心地となる。

「……すまない。隠しているようだったから、気付いていないフリをしていた」

法廷で、己の罪をつまびらかに告白するかのように、昊希は告げた。法廷には、裁判長しかいないので、判決の全ては彼に委ねられているのだが。

「君や億泰君に不思議な力…スタンドがあることも、あの弓と矢がスタンドを目覚めさせる道具だということも、知っている。――形兆が通行人を射て、通行人がトマトソースみたいになったのも、実は見たことがあるんだよ」

形兆の驚きは少ない様子だった。億泰を介して、昊希が『不思議な力』の存在を知ることを聞いていたのかもしれない。流石に、弓と矢のことまで知るとは思っていなかったらしく、通行人のくだりで表情を変えたが。

「何も知らないフリして、ずるかったよね」

昊希は、形兆の反応が怖かった。幻滅される気がしていた。それでも、話さなければならないと思った。
言い訳を紡ぎそうになる唇を薄く噛む。昊希は粛々と、彼の判決を待った。


「――なんだァ、遠慮なんていらなかったんじゃねえか」

形兆から返ってきたのは、そんな言葉で。その物言いは、至極あっさりしていた。

「……どうしてそこで、笑ったりするかな」

威嚇にも似た、形兆の歯を見せる笑みに、退けなくなった気分になる。
昊希は苦笑して、それでも自身が許されたらしいことにほっと安堵して。――ついでのように、スタンド能力に目覚めたことを明かして、形兆に殴られることとなった。
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