こぼれ話



【スタンド】

「あのお前が構っている奴…仗助には教えないのか」
「言わない」

 そういうわけで、秘密でお願いしますと頼む昊希に、形兆が怪訝そうに眉根を寄せる。昊希は形兆の抱いているであろう疑問に答えるべく口を開いた。

「スタンドを使う機会も、そうそうないだろうし」

 何より、スタンド使いとしては彼の方が余程の先輩だし、と続けた昊希に、「それがどう関わるんだ」と形兆が呆れる。だが、昊希にとっては重要なことなのだ。

「僕は彼にとっての『頼れる歳上』でありたいのさ」

 昊希が告げる。その言葉を聞き、形兆は漠然と、頼られたがっているというわけではないのだと思った。頼りにされたいならば、むしろスタンド使いであることを明かして仗助に力を貸した方がいい。それをしないのは――。

「格好をつけているだけか」
「そうともいう、が、聞こえが悪いので、『彼の中の木村昊希像を守っている』と訂正するように」
「見栄を張っているな?」
「君な、あのなぁ…」

 はあ、と諦めたように昊希が息を吐いた。昊希に、プライドに固執するような一面があったのかと形兆は少し意外に思う。
 ――いや、違うか。
 彼が固執しているのは、己の矜持を守ることではない。彼は、他人に幻滅されることを恐れていて、それを避けることに固執している。『守りたい』というのも嘘ではないのだろうが、根本にあるのはそれだ。

「……そうか」

 確かに彼は、幻想を崩さなかった。『頼れる歳上』――仗助が頼りにしているのは、実質的なところではなく、見えないところ。こころとでも呼ぶべきもの。頼りにしたい相手として、こころの内で抱かれた像を守るのだから、なるほど、実質がそう伴うわけでもないのに、頼りになると思われるわけである。
 形兆は少しだけ、前世の自分が彼を拒絶しなかった理由が分かった気がした。








【仗助】

「コーキさん、仲直りできたんスね」
「……気付いて、いたのかい?」

 仗助の言葉に、昊希は笑みを引きつらせ、決まりが悪そうに頬をかいた。
 今世において、再会してから仗助が気付いたことだが、彼は結構分かりやすい。

「仗助君の前では、僕は頼れる歳上、君のヒーローでいたかったのだけれど。――でも、よくよく考えてみれば、もう『ヒーロー』なんて幻想を抱くような、そんな歳でもないのかなあ」

 寂しそうに、それでも仗助の成長を喜ぶように微笑む彼に、仗助は首を横に振る。
 ――理想のままにいることは難しい、理想のままに在ろうとする精神は尊い。
 仗助はそのことを、前世の経験で実感を伴って知っていた。
 仗助が承太郎に抱く尊敬の念とは種類も違うが、それでも彼は仗助の尊敬する人で、正しく仗助の頼れる人だった。
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