話「スタンド」



「相手に『命令』して、行動を操るスタンドか」

 その内容を聞いた時、形兆は実に「らしい」と思ったものだった。

「『お願い』と言ってはくれないか。『命令』では、まるで僕が相手を従属させているようだ」
「相手の意思を残したまま、身体だけ操るというのは、精神作用系でないと見ていいだろう。脳の伝令系統か、それに類するものの書き換え、あるいは操作――」
「おい、形兆」
「硬直は、行動の支配とも言い換えられるな」

 形兆が思い出したのは、彼の感情の扱い方。『感情の手綱を握っている』というのは、他ならぬ彼に否定されたが、そもそも、形兆がそう認識したのは、彼の感情から起こしているであろう行動が、あまりに理性的だったからだ。
 ――彼が握っているのが、行動の手綱だったとすれば。
 感情には自由にさせ、行動の切っ掛けもそこに任せながら、行動の行く末までは感情に預けない。それは、相手の意思は自由なままに、行動のみを支配する、彼のスタンド能力とよく似ている。
 望む形に落とし込む――願いを叶えるスタンド。結果的には同じだが、意味合いがまるで違う。

 随分と、歪んだ認識をしたものだと形兆は内心ひとりごちる。前世を思い出してから、発生するようになったという相手の硬直も、その彼の歪んだ認識から発生していると形兆は推測していた。

「なあ、聞いているか?」
「お前が俺の話を聞け」
「ええぇ……」

 そうして、スタンドに関する質疑応答を挟み、形兆による昊希のスタンド分析が始まった。
 スタンド能力の強さは、一種の思い込みの強さだ。彼が「相手に『お願い』を聞いてもらえる」スタンドだと認識しているからこそ、相手は『お願い』を聞かされる状況に持ち込まれることになるのだ。

「つまりこの硬直は、『僕の願いを聞く』ように、僕が相手に干渉しているからこそ起こっているものだと、君は考えるわけだ。……強制的に聞かされる願い事って、それって命令と同じじゃないか!」
「俺は最初からそう言っている」
「……もしや僕は今、君に幻想を壊されようとしていないか」

 いい勘をしている。尤も、彼が勝手にスタンドに夢をみていたのであって、形兆は彼に頼まれたままに、形兆視点からの分析を述べているに過ぎない。要は彼の自業自得だ。

「前の世での話になる。世界の動きを支配して、時を止める能力者がいたらしい。――動きを止める。似ているなァ」

 形兆の言葉に、ふるり、と彼の肩が震える。

「言うなれば、そう! お前のスタンドの支配対象は、世界ではなく人! お前のスタンドは、『相手に言うことを聞かせる』スタンドだ!」
「ああっ!? 決め台詞みたいに言われたっ」

 もちろん、言葉の響きが多少変わるだけで、その能力の効果が変わるわけではないのだが。彼の心境には、変化を齎したらしい。出されていた彼のスタンドが、若干しんなりしていた。
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