Memo
2017/12/10 02:16
20171210
こんばんは。
仕事中にちょっと思い付いたネタを投下したいと思います。
長編(クリニックMO)設定で、上杉さんちの景勝さんと景虎さんがちょっと険悪な雰囲気になるはなしです。
主人公がでてきますが、名前はデフォルトの「伊智子」で表記しています。
それでもよければ追記からどうぞ。
「おい!なんとか言えってば!!」
ある日の昼下がり。
静かなエントランスに怒号が響き渡った。
「うわっ、びっくりした。エントランスにだれかいるのかな?」
「うるさいのう。誰じゃ、あんなところで騒いでおるのは。馬鹿め」
「なんか心配だし、様子を見てこよう、政宗にいちゃん」
揃って廊下を廊下を歩いていた伊智子と政宗の耳にも、その声はしっかり届いていた。あまりの大きさに肩をビクッと震わせるほど。
本日は二人とも休日のうえ暇をもて余していたので、一体なにごとかとエントランスに向かうことにした。
廊下からエントランスへ向かう途中にも、威勢の良い声は絶え間なく続いていた。
「よくもまぁ、飽きもせずきーきーと吠えるものじゃ」
「この声って…景虎さん?」
だんだん声の発生源に近づくうちに、誰の声だか判別できるようになってくる。
エントランスにたどり着くと、そこには予想していたとおり景虎と、その隣でむっつりと黙り混む景勝の姿があった。
「おいっ、景勝!聞いてんのかよ!」
「おぬしら、もうすこし静かにできんのか」
「おはようございます………なにかあったんですか?」
「……二人ともっ………」
「……………」
「…?」
興奮した様子の景虎。
そしてなぜか攻められている景勝は一言も言葉を発しない。いくら口数が少ないといえど、いつもだったらあいさつくらいは帰してくれるのに………。伊智子はなんだか違和感を覚えた。不機嫌なのだろうか?
「ちょうどいい、お前がなにも言わないならこの二人にすいか判断してもらうからな!」
「……」
「無視するのやめろっ!」
「ああっもうっ!大きな声を出さないでください!兼続さんを呼びますよ」
未だに止まらない景虎の大声につい保護者の名前がでる。
「…兼続はよせ」
「そうだよ兼続は絶対に呼ぶな、更に話がごちゃごちゃになるし、なによりうるさい」
「おぬしも十分やかましいわ、馬鹿め」
「…で、一体なにがあったんですか?私たちにできることなら協力しますよ」
「儂はせぬ」
「政宗にいちゃん!もう!」
「…お前らはいいよな。仲が良くて」
「…」
「は?なんじゃ、いきなり」
「そうですよ。それに、景虎さんと景勝さんだって十分仲が良いじゃないですか。」
現にこうして二人揃って出勤しているわけだし。
そういうと、二人は今気付いた、とばかりに気まずそうにそっぽを向いた。
ーーやがて、景虎がゆっくりと口を開いた。
「…俺たちには、絶対に避けて通れない大きな問題があるんだよ」
「大きな…問題?」
「…家業のことだ」
景勝の言葉に伊智子はぴんときた。
「あぁ!たしか東北のご実家は酒蔵でしたよね」
景勝は深く頷く。
「そうだ。上杉酒造は400年以上前から続く歴史ある酒蔵。わしらの代で潰すわけにはいかぬ」
「上杉は名実ともに有名じゃからのう。多少値は張るが値段以上の価値があると儂も思う」
政宗がそう言うと、今度は景虎が声をあげた。
「そうだ。だから…早く決めないといけないんだよ……跡取りを」
「あととり?……あ、ご実家を継ぐんですね」
「…先日たまたま実家から連絡がきてな。…なぜか跡継ぎの話になり……それからずっと景虎がこの有り様で困っておるのだ」
「…っ、俺はただ、どっちが跡取りにふさわしいかって話をしてるだけだろ!」
ふたたび興奮してきた景虎を見ながら政宗はめんどうくさそうに後頭部をかいた。
「そんなところじゃろうと思うたわ。伊智子、後継者問題に首を突っ込むと面倒くさいことになる。この話は儂らではなく、兼続の方が適任じゃろう」
そう言って伊智子の肩を抱きその場を離れようとした政宗をあわてて引き留めるのは景虎。
「ま、待て!兼続は呼ぶな!あいつ、なにかと景勝の肩を持つからな」
「…なに?」
景勝がじろりと景虎を見た。
景虎はふんっと鼻をならした。
「だってそうだろ?どうせみんな、養子の俺は跡取りにふさわしくないと思ってるんだ。でも俺こそ上杉の跡取りにふさわしい。そうじゃなきゃ俺が上杉にきた意味がないじゃないか。お前なんか、あぐらをかいているだけだ。口をあけていればなんでも欲しいものが手にはいると思うなよ」
「……」
「景虎、言い過ぎじゃ」
「だって」
「…景勝さんは、どう思っているんですか?」
しばらく黙っていた伊智子がぽつりと言った。
「…わしか?」
少しきょとんとした顔の景勝にほほえみかける。
「はい。だって、言われっぱなしは悔しいじゃないですか。それに、景虎さんも景勝さんの気持ちを知りたいと思いますよ」
「わしの…気持ち」
「そうだよ!お前、俺が聞いてもなにも答えてくれないくせにーーーもがっ」
「景虎、おぬしは少し黙れ」
政宗に口をふさがれた景虎がようやく大人しくなり、やがて景勝も静かに口を開いた。
「わしは…どちらが跡取りにふさわしいかなどと考えたことはない。わしも、景虎も…同じように上杉の子なのだから。………景虎」
「な、なんだよ」
「おぬしのことは、おぬしが…我が家に来た…その日から…本当の兄…家族だと思っている」
「…景勝………」
「…あの、お二人で家を支えるって選択肢はないんでしょうか?」
「は?」
「だって、お二人とも、ご実家がすごく大事みたいだし。それなら、二人で家を支えて、守っていけばいいじゃないですか」
伊智子の言葉を聞いた二人はしばし黙り、景虎は大きな目をぱちぱちを閉じたり開けたりしていた。
「…確かに…。なんで今まで思い付かなかったんだろう。兄弟経営してる会社なんて沢山あるのにな…。うちだって、良いよな、景勝」
「…うむ。わしも、それが良いと思う」
景勝は優しいまなざしで景虎を見つめて微笑んだ。
「ありがとうな、伊智子。…あ、でも、そしたら俺らの次の代がまた大変になるのかな…」
「…いまからそのようなこと考えることはなかろう」
呆れたように言う政宗の顔は、言葉とは裏腹に穏やかだ。
「それはそうだな、俺らがじじいになったら考えることにするか。なぁ、伊智子」
「え?ぁ、はい」
「お前もなんか困ったことがあったらいつでも言えよ。例えば…行き遅れたときとか!俺が景勝がもらってやっから、なるべく早めに言えよな」
「え」
「……なんじゃと?」
「…景虎…!」
「なんだよ、景勝……わあっ」
伊智子はピシッと固まり、政宗の表情も凍った。
それを見ていた景勝が急いで景虎を担いでホールの奥へ消えていった。
「……伊智子はやらんっ、やらんぞ!」
「ま、政宗にいちゃん…うるさい…」
「むっ、どうした?…政宗!また騒いでいるのか?」
そこへ、たまたま兼続が通りかかってしまった。
兼続と政宗は普段から犬猿の仲。伊智子は心の中で頭を抱えた。
案の定政宗は興奮したようすで通りすがりの兼続に噛みついた。
「黙れっ兼続!お前の恩師だか恩人だかなんだか知らないが、酒造りは上手くても子供の教育は下手くそなようじゃな!二人揃ってくだらんことで騒ぎおって、教育し直した方がよいのではないか!?」
ほぼ八つ当たりの政宗の言葉に、兼続も肩眉を吊り上げて激昂した。
「………なに?謙信公とそのご子息方を愚弄するか!?今日と言う日は許さん!お前こそその口の悪さ、叩き直してやろう!!!」
今度は政宗と兼続が大声で騒ぎだす。
二人とも遠慮なく叫び続けるので、なんだなんだと様子を見に来る人たちもでてきた。
もうこれはねねさんでしか止められない。そう思った伊智子は喧騒のなか、こっそりと自室に戻り、静かな休日を過ごしたのであった。
おわり。
玄関先でする話ではないよなぁ……。
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