携帯電話を壊して眠る



甘いイチゴのショートケーキ
苦さと甘さがほどいいチョコレートケーキ
フルーツがいっぱいのフルーツタルト

そんな彩り豊かなケーキケースに飾られているお菓子を見ながらどれを買って帰ろうかと悩む。
どれを買っても家に帰って家族の笑顔を思い出して口元がにけやるがキュッと元に戻す。

「じゃあ、このフルーツタルトとチョコレートケーキをください」
「はい、以上でよろしいでしょうか」
「はい、お願いします」

店員さんと顔を合わせて愛想笑いをして返す。
待っている間に自分の腕にはめている時計を見てみると20時を指すところだった。
このまま歩いて帰ると約20分
夕食にはギリギリみんなと一緒に食べられると考え自分のスマートフォンを取り出しメールを打ち出す。

「(”20時30分頃に帰ります”っと・・送信)」

店員さんがケーキを箱に入れている間に要件を打ち込んだメールを送る。
打ち終わりスマートフォンをホーム画面に戻すと家族との写真が目に入る。
それを見てさらに心が温かくなるのがわかる。

「お待たせしました!」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます!」

会計を済ましてケーキ屋を出ようとする。
12月になると一層寒さが厳しくなり、店内は温かいが外に出ると一気に寒くなる。
はぁっと息を吐くと白い吐息が自分の目で見えるのを見て冬なんだと改めて実感する。

マフラーを巻いている首元は温かいが手袋をしていない手はとても寒い。
おかげで早くも手がかじかんでしまった。

「うぅ、しかし本当に一気に寒くなったなぁ」

スーツとコートだけというのはこんなに寒いことを身に染みてわかる。
早く家に帰ろうと思い歩く速度を少しずつ早くする。
家まであと数分で着くところまで歩いているとふと誰かの声が聞こえた。

”殺して・・”


「えっ・・・・っ!?」

誰かの声が聞こえたと同時にある音が全身に伝わるくらいに響いた。
それは甲高い音、たぶんよくニュースで見たりドラマで見たりすることだ。
自分には一生縁がないことだと思っていた。
だって、常に気を付けていることだし、ありえないことだということもわかる。

ドンッ!!

何もかもが理解できたのは自分が轢かれた後だった。
息が苦しい。痛い。声が出ない。
怖い、嫌だ、死にたくない。
家族の顔を思い出して私は瞳から涙があふれえる。

運転手の声がかすかに聞こえるだけで私の意識が遠のいた。
片手にはぶつかった衝撃で画面が割れているスマートフォンを握っていた。
歪な画面には楽しそうに笑う家族と彼女が写っている写真だった。

12月の寒い夜
彼女ーー苗字名前の短い人生は幕を閉じた。


だけど、それは「この世界」での話である。



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