こころまい
 あまりにも唐突すぎたので反応が遅れてしまった。なんで貴方が、と問いたくても、渾身の力で首を絞められて言葉すら発することが出来ない。カエルが潰れたような滑稽な呻き声だけが口の端から漏れている。
 ぎりぎり、と白手袋に覆われた両方の拳が僕の喉を力いっぱい絞めていた。きっと痕が残ってしまう。頭のてっぺんがカッと熱くなって、視界の隅っこが白色に染められていく。これは、まずい、しぬ、かも、しれない。
 意識がとぎれとぎれになったところで、男は手を緩めた。一斉に流れ込んでくる酸素に肺は耐えきれず、じりじりと焼ける痛みを訴える。僕はみっともなく咳き込んだ。ぱっと世界に色が灯る。死なずに済んだ。彼を人殺しにせずに済んだ。心の底から安堵したものだから、目尻に涙が浮かぶ。
「……江戸川、さん」
 未だに信じられなくて、乞うような態度で名を呼ぶと男はふっと目を細める。そこにいつもの彼は存在しなかった。
 心神喪失の状態とは、こうも人間を変えるのか。恐ろしい。あまりにも、あまりにも恐ろしい。人の心というものは。



病むと嬉嬉として司書の首を絞めに来るうちの江戸川さん。

病的



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