▽2017/01/19(Thu)
避けられぬ別れのために
司書さんは時折難しげな表情をする。政府との規定が存在するから、僕はほとんど彼がしたためている書類の内容を知ることが許されない。
(何故、諦めた目をしているんだろう?)
温もりは確かに感じるけれど、指先で触れると氷のような冷たさを纏っている、そんな目で紙を見つめている。僕はきっと、心の何処かで、司書さんがそんな眼になる理由を知ってしまっているのだ。
──全ては最期のために!
遠くない未来の、ために。僕と彼が──穂吉が──他の文豪と呼ばれた皆がその役目を終える最期を見据えて、ああいった瞳の色を灯しているのだとしたら。
(そうなのだとしら、僕は)
煙草を摘む指先に力が入った。呆気なく二つに折られてしまったそれは、最早使いものにならない。灰皿に押し付けて、小さく溜め息を吐く他なかった。
(最期、か)
来なければいいのに、なんて、見当違いな意見を抱いてしまう。僕ら文豪は──書物を媒体に蘇った人間のなり損ないは──こんな感情を抱くべきではないのに。
(そうだよ、ただの仕事なのだから)
ビジネスだから、深入りしてはいけない。穂吉だってそう言っていたのに。
(だめだ)
言っていた、のだけれど。
(これ以上好きにならないでくれ)
好きにさせないでくれ。