第79話:脱走
14時に大広間に入ると、裏返しにされた試験問題の前に座った。
「試験問題を開けて」大広間の奥からマーチバンクス教授が合図し、巨大な砂時計をひっくり返した。
「始めてよろしい。」
レンは問題を読めばペンを走らせる。
殆ど問題を解き終えた頃、事件は起こった。
レンの耳に冷たい声が響き始めた。
『さぁ、帰って来るのだ、我が娘よ…お前の"父"は此処に居る』
いつもと違った声だった。
『俺様は待ってやろう…その瞳を元に戻し、帰って来るのだ。手土産に最も憎い者を殺して連れてくる事を許可してやろう…さぁ、帰っておいで、愛しい我が娘。』
レンはいつもと違うその声に、自分の印を通してヴォルデモートが語りかけてきている事を察し、心を凍らせていく。
『いくらお前が心を閉じようと無駄な事だ、娘よ…俺様は心や記憶には宿っていない。…そうだ、判るだろう。聡い娘よ…お前の"父"は大事ではないのか?』
「クレスメント、キミも大丈夫かね?顔色が真っ白じゃないか…」
レンはその声にゆらりと揺れる様に顔を上げた。
「大丈夫、です。去年怪我した所が…疼いているだけなので。お気遣い有難うございます。」
「もう直ぐ終了のベルが鳴る。そうしたらゆっくりと休みなさい。」
「はい。」
レンはその言葉に力なく微笑むと、辺りを見渡した。
空席がひとつ…そう、ハリーがいないのだ。
『直ぐに俺様の言葉の意味を理解し、お前は俺様の元へ帰ってくるだろう…それを俺様は待ってやる。それまでこの男を生かし続け遊んでいよう…急ぎはしない、時間はたっぷりとある…』
レンは腕を強く握りしめ、淡い期待を込めて腕に血の力の結界を施してみせる。
外部からの侵入なら、これで遮断できはしないだろうか…?
ヴォルデモートが諦めたのか遮断出来たのかは判らないが、終業のベルと共に回答用紙を先生が集めるとレンはフラつきながら大広間を後にした。
「レン、レン…!貴女大丈夫なの?本当に顔色が真っ白じゃない!ハリーも叫んで何かあったみたいだし…急いで医務室に行きましょう?」
(P.1/全P.49)| 一覧へ | 次へ