レンは急ぎ足でうる覚えの森の中を走って行った。
流石母の遺したものだ。
体がとても身軽で、一足一足がとても速く感じる。
しばらく森の奥へと進んでくれば、そこには大蜘蛛のコロニーがあった。
レンの侵入に子供達は興奮した様に鋏を鳴らす。
「アラゴグ。具合が悪いのに、訪ねてきてごめんなさい。」
脚を曲げて小さくなる様にしているアラゴグにレンはそう声をかけると、彼の口のそばに近寄り自分の匂いを嗅がせる。
「あぁ…この匂いは…アクアの娘、か…」
「えぇ。アラゴグがとても具合が悪いって聞いて…癒せたらって思ったの。少しだけ触らせてもらってもいいかしら。」
「ああ…好きにすると良い…ワシは、年をとった…平等に訪れる死を受け入れる覚悟はできている…。」
レンはそう言うアラゴグに体全体で触れ「クレスメントの血よ…我に従え…かの者を癒したまえ…。」そうレンが呟く様に言い瞳を閉じると体全体が淡く光り、アラゴグをも淡く光らせる。
「あぁ…温かい…懐かしい、温もりだ…。」
「貴方はまだまだ元気に生きなきゃ。ハグリッドがとても悲しむわ」
「実に…お前達は優しい人間だ。」
「そんな事ないわ。友情のために本能を抑えてる貴方の方がよっぽど優しい。」
アラゴグはそれに返事はせず眠る様にして癒しを受け止めたが、暫くすると「もう良い。それ以上はするんじゃない。」とレンをやめさせる。
「あぁ…さっきよりは、楽になった…。だが、その力は、命の時間を永くはさせない…落ちた体力を、戻してくれる…それだけだ。」
「でも、やらないよりはマシよ。」
「お前の命を縮めてしまう…そうなれば、アクアの恩に、欺く事になる。わしはそれを望まない。」
「でも…。」
「わしの命が尽きた時、ハグリッドの事を頼んだぞ、友よ。」
アラゴグはそう言うと、自分の子供達に「追い出せ。そしてあの娘を2度と近寄らせるな。」と命じる。
「ちょ、ちょっと…!アラゴグ!待って…!」
アラゴグの子供達が次々にレンに襲いかかるが、レンは距離が意地でも此処から出ないと言いたげに頑張っていれば、子供達は蜘蛛の糸でレンをぐるぐる巻きにし、そのままレンを引き摺って行く。
1匹がハグリッドの小屋の所まで引き摺ってくれば、それを投げ捨てる様に捨て、森の中へと帰って行った。