「失言だった。まずい言い方だった。」
スクリムジョールは急いで言った。
「いえ。正直な言い方でした。貴方が僕に言った事で、それだけが正直な言葉だった。僕が死のうが生きようが、貴方は気にしない。ただ、貴方はヴォルデモートとの戦いに勝っている、という印象を皆に与える為に、僕が手伝うかどうかだけを気にしている。大臣、僕は忘れちゃいない。」
ハリーはレンを掴んでいない右手の拳を挙げた。
冷たい手の甲に白々と光る傷痕は、昨年アンブリッジがハリーの体に刻んだものだ。
『僕は嘘をついてはいけない』
「ヴォルデモートの復活を、僕がみんなに教えようとした時に、貴方達が僕を護りに駆け付けてくれたという記憶はありません。そればかりか僕を助けようといつもしてくれている彼女に対しても酷い仕打ちをした。僕の目の前でも…。魔法省は去年、こんなに熱心に僕にすり寄ってはこなかった。」
2人は黙って立ち尽くしていた。とても冷たい沈黙で、レンが口を挟もうとしてもハリーはそれを制した。
レンは居た堪れなくなり、足元に視線を移せば、庭小人がミミズを引っ張り出して、石楠花の茂みの一番下の枝に寄りかかり、嬉しそうにしゃぶりだしていた。
そんな姿が少し可愛らしくもみえ、レンは小さく口元を緩ませてしまう。
「ダンブルドアは何を企んでいる?」
「知りません。」
「知っていても私には言わないだろうな。違うかね?」
「ええ、言わないでしょうね。」
「さて、それなら、ほかの手立てで探ってみるしかないという事だ。」
「やって見たらいいでしょう。」
ハリーは冷淡に言った。
「ただ、貴方はファッジより賢そうだから、ファッジの過ちから学んだはずでしょう。ファッジはホグワーツに干渉しようとした。お気付きでしょうが、ファッジはもう大臣じゃない。でもダンブルドアはまだ校長のままです。ダンブルドアには手出しをしない方が良いですよ。」
長い沈黙が流れた。
「成程、ダンブルドアが君をうまく仕込んだということが、はっきりと判った。」
細縁の眼鏡の奥で、スクリムジョールの目が冷たく険悪だった。
「骨の髄までダンブルドアに忠実だな、ポッター、え?」
「えぇ、その通りです。」
「はっきりして良かった。」
スクリムジョールは困惑した様子で俯くレンに視線を向ける。
「ミス・クレスメント。貴女に対しては後程ゆっくりとお詫びをさせてください。」
優しくレンに微笑みかけ、レンがその顔を上げるとハリーが自分の背にレンを隠す様にする。
「ポッター。言ってはおくが、ダンブルドアは彼女のことを1つの手駒にしか考えていない。キミの時の様に彼女を守ろうと庇おうとはしなかった。ダンブルドアに忠実なキミがそれを破っても良いのかね?」
「レンはいつでもその命を削っても僕を守ろうとしてくれている。僕はその信頼に応えたい。大事なかけがえのない人だ。」
「どうやら、彼の居ないところで話すのが得策の様だ。…ミス・クレスメント。ご無礼を申し訳なかった。」
「…いえ…。」
レンがそう一言返事をすると、ハリーはスクリムジョールに背を向けて家に向かって大股に歩き出した。