初めから受け入れてましたよ。 ここがどことなく見たことある世界だっていうこと。 映画館に行けばポスターが貼ってあったし、テレビCMで流れているのを目にしたこともあった。 本屋に行けばポスターはもちろんのこと、単行本がずらりと並んでることもありましたから。 たまにパネルなんてものが書店の入り口付近にあることもあったし。 邪魔だなんて、思ったことないですよ? 一度も。 Vaguely-Known World はてさて、どうしましょう。 わたしは今、とある場所で立ち尽くしています。 いえ、その、なんといいますか…別にこれが異世界へ飛ばされてしまったその瞬間、という訳でもないんだけど… でも、飛ばされてからはかれこれ半年くらいになるのかな。 こちらに来てから月日なんて数えてなかったから、はっきりとはわからないんですけどね。 まぁ、それはそれで取り敢えず置いておくことにして。 目下、わたしが置かれている状況を説明すると、甘味処で働いているんですが――というより切り盛りしているんだけど――、店前が大変な砂塵に襲われているんです。 …外に出られない そして、埃っぽい。 「……けほ」 カラカラと軽い音を立てて、硝子と木の格子でできた戸を閉める。 そうすれば、視界の悪さも埃っぽさも一気に収束して、店内の落ち着いた空気が鼻を掠めた。 「…ふう」 その場でいったん深呼吸をして、喉のイガイガを落ち着ければ、平常装備に元通り。 やっと、呆けた顔から立ち直った気がします。 「あ」 漏れた声と思い出したことは完全に同時。 いけない、いけない。 そういえば、ぽけーっとしてる場合ではなかった。 わたしは何故扉を開けたのかを思い出し、いそいそと店の奥へと戻って行った。 そして、作業場の隅の方にある裏口に近づけば、恐る恐るそこから顔を出した。 少しドキドキしたけど、お店の裏には砂塵がないみたい。 良かったと、胸に手を当ててホッとすれば、わたしはそのまま店の外に一歩踏み出しました。 「おはよう」 「おはようございます」 「おーおはようさん」 「おはようございます」 「おはよう」 着いた先は、もちろんここ。 「おはようございます」 「今朝も早いねぇ」 「いえ、仕入れは早くにやらないとお店が成り立たないですから」 「はは、それもそーだ」 そう、お店を切り盛りするにはまず、商品! その商品をつくる原材料がなければお店にはなりません。 ということで、わたしがいるのは、卸の材料店。 お米、上新粉、片栗粉、そば粉に小豆、栗にお抹茶。 それから、白インゲン豆にずんだ豆、白・黒ごま、などなど。 今日使用する分だけを注文していきます。 え?粉類ならストックがあるんじゃないかって? いえいえ、我が店は粉もその日の仕入れ。 全てにおいて、新鮮を売りにしているんです。 「はいよ、今日の分ね」 「ありがとうございます」 「いやいや、礼はこっちの台詞だから」 「?そうでしたか?」 「そーだよ!それを取られちゃあ、店側としては困っちまうねぇ」 「それなら、黙っておきますね」 「それもちょっとなぁー」 あはは、と聞こえる笑い声は卸店全体から聞こえて来た。 袋に詰めた商品を渡してくれたおじさんも、照れながらも笑っていた。 「それでは」 「ああ!また頼むよ」 うーん、やっぱりいいなぁ、朝のこの時間。 靄った感じも、朝特有のあいさつも。 わたしは緩む口元をそのままに、手提げた袋を揺らして。 「今日はなにをつくろうかなー」なんて考えながら、悠々と店路につきました。 (え…砂だらけ) (まずは店前の掃除から…かな)