ぺったんぱったん、ぺったんぱったん ぺったんぱッたん、ぱたん お餅をついてるんです。 Distantly but, Nearly 卸店から帰宅したあと、店前のひどい砂山はさて置いておきまして。 まずは甘味の下ごしらえをしてしまおうと作業場へ向かいました。 そして、つくりあげたたくさんの甘味。 お団子やら、柏餅やら、鹿の子やら。 午前の分だけをつくってしまえば、ショーケースに綺麗に陳列します。 それをヌフフと眺めて… よし完璧です。 ――と、いうことで さーて、あの砂山を処理してしまいますかね。 「うん」 着物の袂を払って、袖を肘まで捲り上げます。 砂が口と鼻に入ってしまわないように布巾で覆い隠せば、片手に箒を装備。 あとは出陣だ! がらりと開けた店の玄関。 目の前には高く聳える、黄土色の砂山―――… 「?」 の、はずだったんですけど… 一体どういうことでしょう 「??」 目の前には砂山…の代わりに現れた、いつもの店前風景。 右脇には慎まやかに置かれた、花菖蒲の鉢。 左脇にはサラリと風に揺られる小竹林。 もちろん、目の前には石畳の店前通りが広がっているわけでして。 「…?」 砂山はいずこへ行かれたのでしょう?? 「あら、ルカちゃんじゃない」 「あ、こんにちは」 茫然と扉の前に立ち尽くしたままいれば、不意に掛けられた声。 それは、近所にお店を構える手拭屋さんの奥さんでした。 「どうしたんだい、そんな惚けた顔をして」 「あ、いえその…」 かくかくしかじかでして、と今朝のことをなんとなく話してみる。 すると、幸いなことにそれはわたしの錯覚ではなかったようで。 奥さんは口に手を添えながら「あぁ、あれはね」と笑顔で話をしてくれました。 「なにかよくわからないんだけどねぇ、術か何かだったらしくて。忍びが一斉に清掃してたわよ」 「……じゅつ?」 「そうよ、困ったものよねぇ」 ほほほほ、と黒い笑みを浮かべる奥さん。 素敵な笑顔だったけれど、何かを言いたげなその顔に、わたしは笑顔を返すことしかできませんでした。 「あらやだ、少し話過ぎたかしらね。旦那がこっちに来たわ」 「あ、本当ですね。」 「まったく、あの人にもほとほと困ったものだわ」 「仲睦まじいご様子で、素敵です」 「いやだよ、もう」 片手を振って否定する奥さん。 けれど、その頬がほんのり色づいていたことは黙っておきますね。 「それじゃぁ、失礼するよ」 「はい」 からんころんと、軽やかな音を立ててこちらに向かってきていた旦那さんに駆け寄っていく奥さん。 その後ろ姿はなんだか本当に幸せそうで、こちらもほくほくと心が温まりました。 「すみません」 「…?」 そうして、奥さんの姿が見えなくなるまでその場で見送っていれば、ふと掛けられた声。 わたしは聞いたことのない低い声に首を傾げながら、後ろを振り返りました。 「こちらのお店の方でしょうか?」 「…え、はい」 視界に捉えた人物はやはり見知った方ではない。 それに、その身体に纏った着物は… 「そうですか」 ―――若草色。 「はい…」 「いえその、今朝、忍びたちが少々ご迷惑をおかけしたかと思いまして」 「その謝罪に」、と後ろ頭を掻きながら頭を下げる目の前の人物。 わたしはその姿を見て、思わずコクリと息を呑んでしまっていた。 なぜならその人物が、“知っている”とまではいかないものの、一見したことのある着物を身に纏っていたから。 そう、それはこの世界の特定の人物たちが纏うもの。 若草色と額のマーク。 「自分も忍びの一人として、お詫び申し上げます」 ―――忍び、だったから。 「いえ…大丈夫です」 「我々が里を守るべきだというのに、こうもご迷惑おかけしてしまっては、本当に申し訳ないです」 「そんな、ことありません」 「あの、これはほんの気持ちなのですが」 「…?」 そう言いながらスッと近づいた目の前の人。 わたしはその人の顔を見上げた。 「何かございましたら、こちらまでご連絡ください」 やんわりと、握らされた紙。 「…」 それは、初めてこの世界で触れた忍びという人に続いて、初めての忍びとの接点だった。 (…こ、『木の葉隠れ里総合案内所−依頼窓口−』って…) (それでは、私はこれで) (っ…………消えた)