里中が涙に暮れる日。 真っ青な青空が霞んで見えた気がします。 Grandpa's Love for a Child 日野さんに連れられてやってきた式典。 そこは、初めて目にするほどのたくさんの花に埋もれた場所だった。 「参列者は皆この花をあの祭壇に供えるのよ、わかった?」 「はい」 「それじゃ私たちも……「鹿子!!お前はこんなとこにおったのか!!」」 「「……っ」」 式典参加者の列に並んで、日野さんから式典の内容を教えてもらっていたとき、不意に届いてきた大きな声。 日野さんと私は驚いたように肩を震わせると、互いに一時だけ見つめ合った。 そして、日野さんの表情に深い皺と歪みが刻まれた次の瞬間、私たちの前に大柄な体格をした白髪の男性が姿を現わした。 「げっ…ジジイ……」 「なんじゃその顔は!鹿子!!お前また勝手にフラフラと出歩きおって、どれだけ探したと思ってるんじゃ!!」 「うっさいわね!ワタシがどこにいようと勝手でしょッストーカーしてんじゃないわよこんのクソジジイ!!」 突如私たちの前に現れた年齢の寄った男性。 その男性となぜか口論を始める日野さん。 私は二人の行動と様子に、驚きを隠せないまま茫然と二人を見つめた。 すると、白熱していく口論を他所に、突としてその男性と目が合う。 私は、とくりと跳ねた鼓動を隠すように小さく笑うと、頭だけでお辞儀をした。 「…アンタは……」 「って、クソジジイッ逃げんなっ、て……ちょっ!この子に近づくんじゃないわよ!!」 「おお!アンタッ……もしかしてあれか!あんた鹿子のアレか?!」 「……っえ」 日野さんとの口論からするりと抜け出てきたその男性。 ヌッと私の眼前に近づいたと思ったら、いつの間にか両手を掴まれていて。 私は驚きに瞬くのも束の間、その男性にひしと両手を包まれていた。 日野さんがものすごい形相で、男性の手を私の手から引きはがそうとしている。 ……どうしたらいいんだろう。 「ちょっ…ジジイ、いい加減にしないと変態罪で訴えるわよ?!」 「そうか、アンタは鹿子のアレなんじゃな!!よかったよかったわい」 「……」 わいわいと私の手を巡って悶着を起こす二人。 私は、そんな二人の姿に茫然としながら、その男性の漏らす言葉に首を傾げた。 「……日野さん…、えっとこの方は……」 「んあっ?!コイツ?!」 「コイツとはなんじゃ鹿子!!お前の爺様に向かって!」 「なにが爺様よッ」 日野さんの…爺様…。 爺様、爺さま、じい様……あ、祖父か。 二人の口論の内容になんとなく見当がついたころ、ポロリと剥がれ落ちた私の両手。 日野さんは、そのタイミングを見計らって私とおじいさまの間に身体を滑りこませた。 「この子はただの道連れよ!変な考え起こすんじゃないわよクソジジイ!!」 「ほーほーそうかいな。いや、お嬢さん」 日野さんを間に挟んだまま、そのおじいさまが私の方へと優し気に目を細める。 日野さんはそんなおじいさまに「キモいわ見んな腐るクソジジイッ!!」と言葉を漏らしていたけれど、私はそれに小さく「はい」と返事を返した。 すると、一瞬だけおじいさまが驚いたように目を瞠ったけれど、次には柔らかな笑みを浮かべていた。 「鹿子のこと、よろしく頼むぞ」 「はっ?!何言ってんのよジジイ!!」 「黙っておれ鹿子!のう、お嬢さん、こいつはこんなんじゃからなかなか人付き合いが上手く行かんでのう」 「…だー!!おいジジイ!!」 「こんな孫じゃが、仲良くしてやっとくれ」 ニコリと向けられた温かな笑み。 慌ただしい嵐のように口早く紡がれた言葉は、するりと私の中に溶けていった。 私は閉じていた口をゆっくり開けると、発しようとした言葉の代わりに、日野さんの背後で静かにおじいさんに笑みを返した。 「ふわっはっは!それじゃぁーの鹿子ぉ!今日のところは見逃してやるわ!!」 「なにがよっ!もう来んなっ」 「ふをっほっほ!!初めてのお友達は大切にせぇーよぉー」 「っ!!クソジジイッ!!」 ぜーはーと肩で息をする日野さん。 私に背中を向けながら、こぶしを震わせる日野さんは、満面の笑みを浮かべて去っていくおじいさんに睨みを利かせていた。 そんな日野さんに小さく声を掛ける。 すると、ビクリと大袈裟に肩を跳ねさせた日野さんは、ゆっくりとこちらを振り向きながら口を尖らせた。 そして、上目で頬を赤くさせながらこう言った。 「……別に、アンタのことじゃないんだから」 「……」 目を逸らされながら言われた言葉は、どこか憎まれ口のように聞こえたけれど。 この世界で初めて感じる居心地の良さを残してくれた。 (日野さんの分のお花もらってきました) (……な…っ、それくらい自分で取って来れるわよ) (あ、和菓子も供えてあるんですね) (人の話聞きなさいよっ!!) (錦糸が塗してあるんですね) (……アンタねぇ、ってそれ準備したのウチなんだから、最高品質に決まってるでしょ)