昼になり、もう一度D会議室に行くと、そこには上谷先輩ともう一人、ブルーアッシュの髪色をした青年がいた。
その人は私達を見ると、「ほんとだ」と目を丸くする。

「本当に稔じゃないんだ。てか、お前らクソ真面目に授業受けてきたの?」

ケラケラと笑うその人に、瑞木くんがうんざりとした目を向けた。

「あんたらと一緒にすんなよ。……紺野さん、この人が2年の金バッジの青島涼介あおじまりょうすけ
「よろしく」

朗らかに笑う彼にぺこりと頭を下げる。

「紺野真奈です。よろしくお願いします」
「ヒロさんから今年は金バッジに女子が選ばれたって聞いて驚いたよ」

にこやかにそう言われて、ははは…と笑う。どうやら金バッジに女子が選ばれることは珍しいらしい。

というか…

「瑞木くんは金バッジの先輩達と知り合いなんだね」

今度は瑞木くんの隣に座り小声で聞くと、彼はまあねと頷いた。

「リョウさんとヒロさんは中学が一緒だったから」
「そうなんだ…」
「お前にさんづけされるのキモ」
「うるさいな」

瑞木くんが青島先輩を睨む。

各学年に2人ずつ…2年は青島先輩、3年は上谷先輩ということは、それぞれ上の学年にもう一人ずついるということか。

「他の人も今から来るんですか?」
「うーん。翔は見なかったな。アキさんは?」

青島先輩が上谷先輩へ目を向ける。地面に寝転がる彼は、「さあ?」と首を傾げた。

「来ないでしょ、アイツは」
「……俺ら何すればいいの?」
「え、知らね。あ、金バッジの生徒はこの教室は自由に使っていいらしいよ〜。奥に給湯室とかベッドとかあるし」

「ねー、真奈ちゃん」と言って、上谷先輩が私の隣に来る。うわっと思って場所を詰めると、瑞木くんが嫌そうな顔をした。

「狭い。そっち座れよ」
「え〜、俺真奈ちゃんの隣がいい」

瑞木くんは眉をぴくりと動かすと、ため息を吐いて立ち上がった。
「何もやることないなら戻るわ」と言って、さっさと教室を出ていってしまう。

「相変わらずだなアイツは」

青島先輩が呆れたように彼の出ていったドアを見て、戸惑う私に安心させるような笑みを向けた。

「紺野ちゃん? 俺らは基本この教室でだべってることが多いんだよね。君もよかったらこればいいけど…」

まるで、君は来ないよね、と言ったように言葉を途切らせた彼に、不審に思って首を傾げる。

彼はちらっと、私の隣にいる上谷先輩を見た。

ああ…彼のことを怖がったこと聞いたのかな。

なるべく印象よくうつるように、人懐っこい笑みを浮かべる。

「じゃあ、放課後とか来ることにします。いろいろ、勉強のこととか教えてくださいっ」

対象の生徒と直接関われる、こんなチャンス逃すわけない。
青島先輩と上谷先輩はその反応が意外だったようで少し目を見開いた。

「あ、そう…。ていっても、俺ら勉強できねぇけどな…」
「そうそう。全然授業出てないから〜」

ヘラヘラと笑う上谷先輩は、「それにしても」と私のことを細目で見た。

「怖がられたと思ったんだけど、意外と俺の勘違いだった?」
「あっいえ…。でも、人を評判とかで判断するのは良くないかなって…」
「ふーん…」

適当な理由を言うと、彼は含んだように返事をする。だがすぐに笑顔に戻って、さて、と立ち上がった。

「俺は約束があるからそろそろ行くわ〜」
「あ…じゃあ私も授業があるので」

二人に丁寧にお辞儀をし、D会議室を後にした。
瑞木くんは先に戻っていると思ったのだが、教室に彼の姿はなかった。




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