D会議室は、明らかに他の教室と違う部屋だった。
ドアを開けて入っていく瑞木くんに続く。教室という割には広い。会議室という名であるのに、部屋の真ん中にはソファが二つあるだけで、奥にも部屋が続いているのかドアがある。
入口付近でキョロキョロと辺りを見回す私とは対照的に、瑞木くんはずかずかと部屋に入っていくと、奥のドアを開けた。
「……くん、もうすぐ授業始まっちゃうよぉ〜」
「いいじゃん、俺の名前出せば……って、あれ?」
バタンッ
ドアの奥から男女の声が聞こえて、私もその部屋を覗こうとした時、瑞木くんが勢いよくそのドアを閉めた。
「どうしたの? 誰かいたよね?」
「……何でもない。誰もいなかったよ」
「え? でも声が…」
「とにかく、この部屋で誰か来るのを待とう」
私の言葉を遮った彼は無表情のまま…心なしか少しムカついたような表情で、部屋の真ん中のソファに腰をかけた。
首を傾げ、私も向かいのソファに座ろうとした時、ガチャリとさっきのドアが開く。
「ちょっと、来てたなら言ってよ拓斗くん〜」
ニコニコと笑みを浮かべながら現れた人物が、そう言いながらこっちの部屋に入ってきた。
金髪のいかにもチャラそうな美青年だ。何故か上半身裸にワイシャツを羽織っただけの彼は、瑞木くんの向かいに座る私を見て驚いたような表情をした。
「え…! 女の子!? 拓斗が女の子連れてきた!?」
「え?」
「うわっ、すっごい衝撃! なになに、彼女?」
声を上げて私に近付いてくる彼に身を引くと、瑞木くんが彼の足を引っ掛ける。
「おっと危ねぇ」とソファに手をついた彼は、瑞木くんを睨む。
「何すんの」
「訳わかんない勘違いすんなよな。胸元よく見て。もう一人の金バッジ」
「…は? マジ?」
彼は瑞木くんの言葉に眉を寄せると、私の顔をまじまじと見てきた。
「え、今年はこんな可愛い子が選ばれたの? 君、名前は?」
「…紺野真奈です」
「紺野…? うーん、聞いた事ないなぁ」
首を傾げる彼に、慌てて口を挟む。
「あの、あなたは…?」
「ああ俺? 俺は3年の上谷裕之。よろしくね、真奈ちゃん」
上谷…そう名乗った彼に、少し目を見開く。私は顔を強ばらせながら、差し出された彼の手を握った。
「……よろしくお願いします」
「あはっ、怖がらせちゃった。ごめんね?」
「いえ…」
動揺した表情を浮かべつつ、頭では冷静に彼のデータを思い出していた。
上谷裕之…この辺に住む者なら恐らく誰もが一度は聞いた事があるだろう。極道一家である上谷組の組長の息子。
彼も金バッジの生徒なのね…。
少し怯えた表情をする私を、彼は目を細めて見た。そしてすっと立ち上がると、奥の部屋のドアを開ける。
「そういうのは別の場所でしてくれない?」
彼の後ろ姿に瑞木くんが声をかける。それに彼は振り向くとへらりと笑った。
「そうだね〜。今日は他にも人来そうだし」
「…ていうか、俺らどうすればいいの? もうすぐ授業始まるんだけど」
「さぁ? 翔とか涼介に聞いてよ。もうすぐ来るんじゃね?」
そう言うと、彼は奥の部屋に戻って行った。それに瑞木くんは「はぁ」とため息吐いて立ち上がる。
「戻ろう。紺野さん」
「え、なんで?」
「多分ここにいても今は誰も来ないよ。昼にまた来よう」
そう言ってさっさと教室を出ていく彼に、戸惑いながらも続く。教室に戻るともう授業が始まっていて、私達は静かに席に着いた。
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