光のない暗闇の中、俺は目の前の男の頭を掴み、顔面を思い切り蹴りあげた。
苛立ちに任せてそいつの体を何度も殴りつける。
ガスッ、ドゴッと鈍い音がして、男の口からダラダラと血が流れた。

「ちっ」

使えなくなったそいつを放り投げ、ゆるりと顔を上げる。
向いた視線の先にいる男が、ひぃっと叫び声を上げて後ずさった。

「逃げんな。こっち来いよ」

ニヤリと笑い手招きすると、男は「すみません…っ」と情けない声を出し、頭を地面に擦り付けた。

「すみませんすみません…っ、許してください…っ!!」
「うるせぇんだよ。早くこっちに来いって」

男の腕を掴み、立ち上がらせる。
男の尻ポケットに入っているスマホを取り、ポンポンとそれを叩いた。

「思いやりゲーーーム」
「…っ、」
「連絡先開いて。俺が言ったやつに電話してここに呼び出せ」

スマホの画面を掲げながら、ケラケラと笑う。そしてビクリと震える男の耳元に顔を寄せた。

「お前がそいつちゃんと呼び出せたら、お前のことは見逃してやるから」

男の目の色が変わり、震える手でパスワードのロックを解除した。
馬鹿だなぁ、こいつ。思いやりゲームって言ってるだろ。
心の中で嘲笑いながら、連絡先に登録されている名前を一人ずつ読み上げていく。

「だーれーにーしーよーうーかーなー。あ、このサキってやつにしようかな?」
「……ぁ」
「ああ。わかりやすいな、お前」

俺は男の顔色が変わったのを見て、その人物の通話ボタンを押した。
スピーカーにして、男の口元に近付ける。
男の指を掴み、見せつけるように持ち上げた。

「10秒で呼び出せよ。一秒過ぎる毎に1本な?」

指に力を込めると、男は怯えたようにコクコクと近付いて、スマホに視線を向けた。






「……派手にやってんな、翔」

ゲームに飽きて退屈していた頃、ブルーアッシュの髪をした男がその廃ビルに入ってきて、呆れたように俺を見た。
機嫌の良い俺は、そいつにニッコリとした笑みを向ける。

「何だよ、リョウ。なんか用か?」
「……用があるから来たんだろ」

リョウは俺の周りに倒れている数人の男女を見渡し、一番血が出ている男に近付いた。
男の体を持ち上げ、頬をぱんぱんと叩く。

「おい、大丈夫か」
「……マジで何しに来たんだよ?」
「お前の家の奴からSOSもらったから来たんだよ。程々にしとけよ」
「ふ〜〜ん。誰?」
「言わねぇよ」

リョウがどこかに電話をかけると、しばらくしてワゴン車が来た。中から黒服の男達か出てきて、倒れてるやつらを運び出す。
それを冷めた目で見る俺に、リョウは苦笑した。

「まだ納得いってねぇって面だな」
「当たり前だろ。ちっ…、イライラする」
「そういえば…新しい金バッジ、女だったぞ」
「…は?」

眉を寄せてリョウを見る。

金バッジが、女?

「稔と拓斗じゃねぇのかよ」
「俺もそう思ってたけどな。稔は違うらしい。女と拓斗」
「……クソじゃねぇか」

顔を顰める。ということは、あの溜まり場に女が来るっつうことか。
余所者が来るのにうんざりとして、リョウを睨んだ。
リョウの目に警戒の色が宿り、俺を睨み返す。

「なんだよ」
「イラつくから殴らせろ」
「絶対嫌だ」

俺に背を向けて帰ろうとするリョウの腕を掴む。そのまま振り向いた顔を勢いに任せて殴ると、リョウは下を向いてちっと舌打ちをして血を吐いた。

「久々に遊ぼうぜ」
「……」
「おい」

リョウが苛立ちげに俺を睨む。それに笑みを返しながら、リョウの頭を掴んだ。
知ってる。こいつが俺のすることに何もできないことを。
そのまま抵抗のしないリョウを殴り続け、動かなくなったそいつをひょいと放り出した。

「……女か」

……足りない。イライラが収まんない。

久々に女で遊ぶのも悪くねぇな。





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