TwiLog

無題軸の飾が正しく賢い女の子だったらの“もしも”の話
続きを読む>>
2021/07/09 - りょかざ
「愛されるとは、どういうことなのでしょうか」
少女は口を開く。烏の濡れ羽色と例えられるのであろう彼女の黒い髪は艶やかであり、風に吹かれて靡く様を見ていると指通りもいいのだろうと想像できる。
赤く色づいた唇はふっくらとしており、リップが塗られているのか艶がある。彼女が言葉を発するたびに動かされるそれがやけに私の印象に残っていた。
「愛するとは、どういうことなのでしょうか」
白雪のように少女の肌は白い。対照的な黒髪はよく映えていたし、真っ赤な唇も同じくらい目立っている。
真っ白い彼女の肌に差された色は唇の赤と髪の黒だけではない。頬には薄い桃色がほんのりと乗せられている。そして、彼女の顔貌にある色彩はもう一つ、あるはずだった。
しかし、私はどういうわけか、それを思い出せずにいる。
「わたくしには『愛』がわかりません」
少女は私を真っ直ぐに見据えているはずだった。それなのに、私を映し出しているはずである、彼女の瞳を私は思い出せない。何色をしていたのか。どのような色を浮かべていたのか。瞳以外のすべてを思い出せているはずなのに、私の記憶にたたずむ彼女の眼孔は暗く、深い闇だけを携えていた。
「それなのにひとは、こうも軽々しく『愛』を口にするのです」
「わたくしには、それが理解できません」少女は言葉を続ける。訥々と、淡々と。抑揚のないその声は静寂の中に響き、空気を揺らしていた。
いままで波紋一つなかった水面を揺らすように響く声は、私の鼓膜を撫でていく。
「ほんとうはそこに、『愛』などありはしないのに。あゝ、なんと愚かなことでしょう」
少女の眼窩が、ひっそりとした輝きを灯す。そこで私は初めて、彼女の眸の色を思い出したのである。
彼女の、少女の眸子の色、は。
2021/07/09 - 無題
prev | top | next