「安吾さん。昨日、徹夜だったんでしょ。着くまで寝てたらどうかな?私、起こすよ」
「いえ、一日寝ないぐらい大丈夫ですよ。それに、まとめておきたいデータもありますので」
(安吾さん、強すぎる……!!)
徹夜明けとは思えない、海に似合う清々しい笑顔で安吾さんは言った。
臨時休校明け。安吾さんも敵襲撃事件の会議に出席するからと、一緒にフェリーに乗り込んだ。
顔馴染みのスタッフの人たちに「ニュース見たよ、大丈夫だった?」と、心配そうに声をかけられたり、どこもかしこもそのニュースで持ちきりだった。
学校にはまたマスコミが押し掛けてないか心配だったけど、今回は規制がかかったとか。
最初のきっかけは、マスコミ騒動から始まったものだったし。
教室に着くと、話の中心はもちろんその時のこと。首に巻かれた包帯は目立つらしく、皆に心配される。(特に飯田くん。なんか手の動きといい、大袈裟だ)
誰々がどこどこにいただの、敵とどう戦っただの、私も話の輪に加わった。
「結局、青山くんはどこにいたの?」
「知りたいかい?」
「知りたい」
「秘密さ☆」
「…………。(後で安吾さんに聞いて確かめてやる)」
青山くんや尾白くんの二人以外は、二〜三人でそれぞれゾーンに飛ばされていたらしい。
耳郎ちゃんは上鳴くんに「頼りにならない、最後アホになって」と、はっきり言っていた。(アホ?)
上鳴くんは落ち込んだ。まあ、すぐに立ち直るだろう。
それにしても、カリキュラムは入手しておいて、生徒たちの"個性"は把握してなかったとは少し引っ掛かるところ。
不可解な点は、他にも色々あるけど……。
「最後、理世ちゃん、爆豪くんにお姫さまだっこされてたよね〜!少女コミックみたいだったよー!」
「ねー!!いつの間にそんな仲に!?」
透ちゃんが恋バナとか好きそうなテンションで切り出すと、三奈ちゃんも面白そうに乗っかって来た。
お茶子ちゃんに至っては、大きな目をさらに大きくして見つめてくるもんだからちょっと怖い。(いつの間にも何も……)
「オイ好き勝手言ってんじゃねーよ。誰がンな性悪オ」
「えっ、あれやっぱり爆豪くんだったの?(誰が性悪女だ!)『目眩起こしているお前も可愛いゼ』って言われたから、てっきり幻覚かなぁって」
「ブフッ!」
あ、お茶子ちゃんが壮大に吹き出した。
「アァア!?言ってねえわッ!!!気色ワリぃ捏造すんじゃねぇよクソ!!そこの丸顔に黒目!なに笑ってんだコラ!!?」
「ご……ごめん……つい想像してもーた」
「想像すんじゃねーわ!!」
「爆豪の口から可愛いって想像しただけで笑えるっしょ!!」
「アホ面ブッコロス!!!」
「かっ、かっちゃん落ちついて……」
「爆豪くん!!机の上に立つのはやめたまえ!!」
「……騒がしい」
「……うるせえ」
「カオスだねぇ」
「いや、原因の大半はあんたの発言だから、理世」
呆れた目を向ける耳郎ちゃんに、にっこり笑う。
このクラスは賑やかなのが似合うよね。
「結月……おまえ……先日殺されかけたばっかってのに、どういうメンタルしてんだよおぉぉ!?」
えー?そんな怯えた目で見なくても、峰田くん。
「皆ーー!!朝のHRが始まる、席につけーー!!」
「ついてるよ。ついてねーのおめーだけだ」
壊れたロボットみたいな手の動きと共に叫ぶ飯田くんと、ナイスつっこみ瀬呂くん。
あんなに騒がしかった教室も、SHRが始まると、ぴたりと静かになる。これも相澤先生の教育の賜物だ。
(相澤先生、意識戻ったのかな……?今日は臨時の先生にでも……)
「お早う」
ミイラ男!!!
「「相澤先生復帰早えええ――!――!――!!」」
プロすぎる!!
包帯で顔をぐるぐる巻きにした相澤先生が、時間ぴったりに、普通に朝の挨拶して、普通に入ってきた。
顔だけじゃない、両腕にも包帯ぐるぐるで両ギブスしてますけど。(どうやって生活してるの)
「先生、無事だったのですね!!」
「無事言うんかなぁアレ……」
お茶子ちゃんの言う通りだよぉ。先生、めっちゃよろよろして教壇まで歩いて来たよぉ飯田くん。(なんで、出勤して来たの)
「俺の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってねぇ」
「!?」
「戦い?」
「まさか……」
「また敵が――!!?」
先生の安否も大事だけど……!
「雄英体育祭が迫ってる!」
「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」
あ、体育祭か。そういえばもうそんな時期だ。
「待って待って!敵に侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」
「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示す……って考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ」
強気だな、雄英。五倍というと、プロヒーローでも雇うのかな。
「何より雄英の体育祭は……最大のチャンス。敵ごときで中止していい催しじゃねえ」
「いや、そこは中止しよう?」
「峰田くん……雄英体育祭見たことないの!?」
「あるに決まってんだろ。そういうことじゃなくてよ――……」
まあ、峰田くんの言いたい事もわかる。でも、そこで中止したら敵の思うツボみたいでそれはそれで嫌だな。
(雄英体育祭はなんだかんだ毎年見てるけど、やっぱり敦くんと龍くんが出た年が熱かったなー)
抽選に当選して、一回だけ会場で観戦した事があるけど、高校の体育祭とはいえ、すごい熱気と迫力だった事を覚えてる。
「ウチの体育祭は日本のビッグイベントの一つ!!かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した。今は知っての通り、規模も人工も縮小し、形骸化した……」
そう説明する相澤先生を見て、そういえば先生も雄英出身だという事を思い出した。
という事は、過去の体育祭の影像に映っているんじゃ……。
(若い頃の先生ってどんなんだったか気になる。誰かしらはYouTubeにアップしてるはずだから、あとは先生の年齢がわかれば……)
「そして、日本に於いて今「かつてのオリンピック」に代わるのが、雄英体育祭だ!!」
視聴率、毎年40%越えらしい。そのCMスポンサー額もすごいらしくて、雄英の整った設備を見ているとそれも頷ける。
「当然、全国のトップヒーローも観ますのよ、スカウト目的でね!」
「自分を売り出す最大のチャンスってわけだね〜」
目立ってなんぼ。アピール必須だ。
「知ってるってば……」
「資格取得後は、プロ事務所にサイドキック入りがセオリーだもんな」
「そっから独立しそびれて万年サイドキックってのも多いんだよね。上鳴あんたそーなりそう。アホだし」
「くっ!!」
(上鳴くんはアホキャラが定着したな)
「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれれば、その場で将来が拓けるわけだ。年に一回…計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!」
私が入りたいヒーロー事務所はすでに決まっている。ただ、よく知る仲とはいえ、あの人は贔屓しないだろうな。
この体育祭、それなりに成果は残さないと。
***
「あんなことはあったけど……」
四限目のセメントス先生の現代文が終わり、昼休み。(セメントス先生の授業は穏やかだから眠くなる……)
「なんだかんだテンション上がるなオイ!!」
「活躍して目立ちゃ、プロへのどでけぇ一歩を踏み出せる!」
「雄英に入ったかいがあるってもんだぜ!」
「数少ない機会……モノにしない手はない」
「良いよなぁ障子は〜そのガタイだけで目立つもんなー」
「自分の優良性を知ってもらえねば意味がない」
「あんたも目立つと思うよ……アホキャラで」
「……くっくぅ〜!」
今度は体育祭の話題で、あちらこちら盛り上がっていた。(やっぱり上鳴くんはアホキャラ定着だ)
「理世ちゃん、尾白くん。私……なんだか緊張して来ちゃった。体育祭、目立たなくちゃ!」
えいえおー!と、今日も透ちゃんは元気いっぱいだ。姿は見えないけど、明るい透ちゃんの言動は元気が貰える。
「うん。でも、葉隠さんは相当頑張らないとプロに存在気づいてもらえないかもね……」
「むしろ、気づいたプロは見る目あるんじゃない?」
「理世ちゃん、良いこと言う!」
「困っちゃったなぁ……」
ん?背後から感じるこの無駄にキラキラ眩しいオーラは……
「僕なんて立ってるだけで目立つから……スカウトの目が止まりっぱなしになるね!」
「………っ」
「なるよね!」
「……っ、っ、っ」
「青山くん。あまり口田くんを困らせないであげて」
口田くん、困惑しながらコクコク頷いてるよ。
「はっ。青山くん、スカウトってことはプロヒーローだけじゃなくて芸能界からも来る可能性も!」
「!ますます困っちゃうね☆」
「え、口田くん、私?確かに私は向いてる容姿だけど、残念ながら芸能界には興味はなく……」
「結月さんも口田を困らせてるぞ」
口田くんと話す機会はあんまりないからつい。
「皆、すごいノリノリだ……」
「君は違うのか?ヒーローになる為、在籍しているのだから燃えるのは当然だろう。なっ結月くん!」
「え、なにー?」
今度は梅雨ちゃんに今日のお弁当の中身を聞いていると……(梅雨ちゃんは毎朝自分でお弁当作っててえらい。しかも手が込んでる。最近は梅雨ちゃんのお弁当のメニューを参考に夕飯を考えてる)
毎度のごとくおかしな腕の動きをしている飯田くんに話を振られた。
「飯田ちゃん独特な燃え方ね、変」
梅雨ちゃんに同感。最近、飯田くんの動きがますます奇っ怪になっている気がする。どうした。
「私もただの体育祭は嫌いだけど、雄英の体育祭は楽しみかな」
「結月は"個性"が使えるからでしょー!?運動ダメダメだもんね!」
「………………」
「緑谷くんもそうじゃないのかい?」
「僕もそりゃそうだよ!?でも、何か……」
何か?でっくんは周りのテンションと反対に、浮かない表情で答える。
「理世ちゃん、デクくん、飯田くん」
この声は…………誰だ!?
「頑張ろうね、体育祭」
「どうしたの、お茶っ子ちゃん」
「顔がアレだよ麗日さん!?」
声が野太いだけでなく、お茶子ちゃんの顔もアレだ。
「どうした?全然うららかじゃないよ麗日」
三奈ちゃんのそのすぐ後に峰田くんが何か言いかけたけど、梅雨ちゃんの舌でビンタされていた。まあどうせ、ろくでもない事だろう。
「皆!!私!!頑張る!」
「おお――けど、どうしたキャラがフワフワしてんぞ!!」
「ほら、結月くんも一緒に!拳を高く!!」
「あ、私も?」
いきなり意気込んだお茶子ちゃんの理由――
それは、お茶子ちゃんがヒーローを志望した動機に繋がった。
「お金……!?」
「お金欲しいからヒーローに!?」
「究極的に言えば」
「お金大事」
私が雄英に通えるのも、両親が残してくれた遺産や遺族年金のおかげでもあるし。
食堂へ向かう途中、お茶子ちゃんは気まずそうながらも話してくれる。
「なんかごめんね不純で……!!飯田くんとか立派な動機なのに、私恥ずかしい」
赤くなった丸い頬っぺたを、お茶子ちゃんは両手で挟んで隠した。
「何故!?生活の為に目標を掲げる事の何が立派じゃないんだ?」
「動機なんて人それぞれだからねぇ(また飯田くん妙な動きを)」
「うん……でも、意外だね……」
でっくんの言葉に、お茶子ちゃんは再び口を開く。
「ウチ、建設会社やってるんだけど……全っ然仕事なくってスカンピンなの。こういうのあんま人に言わん方が良いんだけど……」
「建設……」
「麗日さんの"個性"なら許可取ればコストかかんないね」
「確かに。どんな資材も浮かせられるし」
「でしょ!?それ昔、父に言ったんだよ!でも…」
娘が夢を叶えてくれる方が嬉しい――か。
きっと、ご両親は夢を叶えてヒーローとして活躍するお茶子ちゃんの姿を、すごく楽しみにしているんだろうな。
(小さいながら親の手伝いをしたいと、決意した所とか)
「私は絶対、ヒーローになってお金稼いで、父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」
(ご両親に応えたいという思いが、お茶子ちゃんの原動力なんだね)
「麗日くん……!ブラーボー!!」
「十分立派な動機だよ、お茶子ちゃん」
「えへへ……ありがとう」
「あ……あの、じゃあ結月さんは?」
でっくんのその言葉に、お茶子ちゃんと飯田くんが同時に私を見る。
興味津々な視線。あんまり面白い理由じゃないんだけどなぁ。
「私は……、尊敬する人にヒーローを目指すと良いって助言を受けて。それがきっかけかな。単純な理由でしょ?」
当の乱歩さんには振り回されたけど。
あの頃、その言葉に救われたのは事実だから。
「理世ちゃんの尊敬する人やもん。その人きっと、すんごい人なんだろうね!しかもめっちゃ見る目ある!」
「ふむ。きっと結月くんの素質を見抜いていたんだろうな」
いやいやいや、二人とも良い方に解釈し過ぎじゃない?二人から良い人オーラが出過ぎて直視出来ないよぉ。
「僕も結月さんはすごくヒーローに向いていると思う。"個性"だけじゃなくて結月さん自身がっていうか……」
「……大袈裟だよ。それならでっくんの方じゃない?」
真面目な顔して言うでっくん。他意のない純粋な言葉だと分かるから、なんだかその褒め言葉はむず痒い。
「あっ!私、相澤先生に用があるんだった。みんなは先に食堂行ってて」
別に照れ隠しとか、逃げる口実とかじゃなくて、本当に用はあるわけで。
皆と別れて職員室へ向かう。
「おぉ、結月少女!!その後、体調は大丈夫そうだな!」
「オールマイト先生!はい、おかげさまで」
廊下で出会したオールマイト先生の手には、可愛いらしいピンクのうさぎのお弁当が。
「お弁当、誰かからの差し入れですか?良いなぁ」
ずばり、先生に憧れる女子からの!
「これは……緑谷少年をお昼に誘おうと思ってね」
恥じらう姿が乙女!!(オールマイト先生がでっくんをね……?)
「そうそう、先ほど会議で安吾くんに会ったよ。特務課の方にも報告をしなきゃ行けないみたいで、すぐに帰っちゃたけど」
「安吾さん、他にも案件たくさん抱えてるのに、現場に駆けつけちゃったからこの件の担当になってるみたいで……」
「それほど君が大事なんだろう。護衛をうっかり忘れるほどにさ」
オールマイト先生はそうお茶目にウィンクして笑った。
どうやら安吾さんのうっかりは、先生側にも広まっているようだ。
「結月少女!またの機会にゆっくり話をしよう!!じゃ――!!」
先生はそう言って、風のように駆け抜けて行く。いつも急いでいるよね〜オールマイト先生って。(廊下を走ってる姿を見たら飯田くんが注意しそう)
「――失礼します。相澤先生、いらっしゃいますか」
「なんだ、A組の生徒か?イレイザーならいるぜ!今、呼んでやるから待ってな」
てっきりプレゼント・マイク先生は、相澤先生の元へ呼びに行ってくれるのかと思いきや、
「イレイザァァーー!!」
その場からめっちゃ叫んで呼びつけた。エエエ。
「マイク、うるさい……」不機嫌なオーラを出して奥から顔を見せた相澤先生。……これから話すのに機嫌を悪くするのは止めて欲しい。
「お前のクラスの生徒が来てる」
包帯越しに目が合った。なんでだ。私が気まずいのは。
「……相澤先生。あの、少しお話がありまして」
「……こっち来い」
少しだけ間を置いて、相澤先生に続いて隣の生徒指導室に入る。
意外に腰を据えて話をしてくれるらしい。
そんなに大した用事でもないけど……。
「で、どうしたんだ?」
「この間、相澤先生の捕縛武器、勝手に借りて壊してしまってごめんなさい」
単刀直入に謝った。回りくどいの、嫌いそうだし。
「別に構わん。見ての通り予備もあるしな」
確かに相澤先生の首もとには、今日もしっかりと操縛布が巻かれていた。(武器は取り換えがきくけど……)
巻かれた包帯の隙間から微かに目が合う。
『相澤先生、眼に何かしらの後遺症が残る可能性があると聞いたわ』
それは今朝、梅雨ちゃんから聞いた話。
相澤先生にとって眼は、自身の"個性"に関わる大事な器官だ。
きっと鳥の羽根のようなもの。鳥は、羽根がなければ飛べない。
「おまえが気にすることじゃないよ」
相澤先生が私の考えてる事を察したのか、先にそう口を開く。
「そうですよね……」
気にするという事は、一見、良識があるように見えて、自分に何か出来たんじゃないかっていう思い上がりだ。
「それよりもおまえの身の方が大事だ。無茶しやがって……もっと冷静に判断出来るやつだと思っていたが」
「いえ……冷静だったと思います。だって、今冷静に考えても、あの時と同じ選択肢以外思いつきませんから」
あの時の私には、あれ以外選択肢がなかった。
昨日、太宰さんは褒めてくれたけど、それこそもっと"個性"を使いこなせていたなら、もっと違う最適解を選べたはずだ。
「……なんだ、落ち込んでるのか」
「落ち……込んではないです。自分を振り返ることは出来ますけど、落ち込むというのはただの感情の反応であって……」
「(……。落ち込んでんじゃねえか)」
もし、私が"個性"を使えなくなったり、支障が出たりと考えると……辛い。
自分を失うのと一緒だ。
「……別に"個性"が使えなくなったわけじゃないから安心しろ」
包帯から覗く相澤先生の目が、少し和らいだ気がした。見えてるみたいだから、大丈夫って事なのかな……。
「それより……、ついでだから今伝えておく」
「?」
「今年の体育祭、一年選手代表の挨拶は爆豪と結月になった」
「!」
あれ、選手代表の挨拶って……
「ヒーロー科の推薦と一般入試共に一位の人がするんですよね?私、実技はともかく筆記の方は普通でしたけど」
「確かに筆記込みでの一般入試のトータル一位は爆豪だ」
爆豪くん。意外にも頭は良いんだよねぇ……見た目も中身も不良なくせして。
「推薦入試の一位で合格したやつが雄英入学を辞退してな」
そういえば、轟くんがトップは別にいるみたいなこと言ってたっけ……。
せっかく推薦入試でトップの成績で合格したのに、雄英を蹴るなんて何か深いワケがありそうだ。
「繰り上げだと轟なんだが、実技ではお前も同率一位通過だったし、男女二人という方がメディア向けに良いだろうという校長のご判断で、おまえに白羽の矢が立った」
「大人の事情!!」
選手代表って光栄な事なのに、全然嬉しくない。校長の意向なら辞退もしにくいし。(こんなことならもうちょっと頑張ってP稼いどけば良かった)
「当日までに二人で挨拶文を考えておくように。ついでに爆豪にも伝えておいてね」
「丸投げですね、先生」そう私が言ったら「むしろ、自分の口から伝えた方が都合が良いんじゃねえか」と、返された。
……確かに。他の人ならともかく、あの爆豪くんだ。大人の事情で私が選手代表に選ばれたと知られたら、どうなることやら。
上手く誤魔化して伝えよう。
目的だった謝罪は果たしたし、お昼を食べる時間がなくなる前に、相澤先生にお礼を言って失礼する事にした。
「結月」
「はい」
「一応、この間の礼は言っておく。あの時は助かったよ」
――ありがとうな。
「――………」
そのたった一言で。
「……なんて顔をしてんだ」
やっぱり、私は間違ってなかったと思えてしまった……なんて。
「え、どんな顔をしてますか」
思わず触ってみたけど、自分の表情なんてわからない。包帯巻きの先生の表情も。
それが、少し残念。
「相澤先生って、歳はおいくつですか?」
「……知ってどうする。俺の年齢なんてどうでも良いだろう」
「なら、教えてくれても……あ、じゃあ勝手に調べます。お時間いただきありがとうございました。マイク先生〜!」
「おい、こら……!」
「お、イレイザーとはもう話が済んだのか?」
「はい!それでマイク先生。相澤先生って、歳いくつですか?」
「俺と同期で、30YEAHHーー!!だぜ!」
「ほほう」
「お前ら……」