二次選考3stステージは、3人1組のチーム同士による、ミニゲーム形式のシチュエイション戦だと――画面の中で絵心が説明する。
『各チームのGKは"BLUE LOCK MAN"を採用し……』
「ぶるーろっくまん?」
「1stステージのホログラムのゴールキーパーでしょ」
「あ、あの青いオバケか!」
首を傾げていたら、隣の凪が教えてくれた。廻はあの青いオバケにそんなかっちょいい名前がついていたのかと初めて知った。
『5点先取したチームの勝利とする。そして、勝利したチームは――相手チームから1人を指名し、その選手を奪って新しく4人のチームを作ってもらう』
そこまで絵心の説明を聞いて、廻は思ったまま口を開く。
「へー、アレみたいだ……アレ……」
「『はないちもんめ』」
そうそうそれ!なかなか名前が出てこない廻に、再び凪が答えた。
4人チームになったらそこで終わりではなく、最終的に5人チームになったら二次選考クリアだという。
一見単純そうなルールに聞こえたが、ここは、青の監獄だ。
負けたチームは、残されたメンバーでステージを逆戻りしなければならず、2人組となり、2対2の勝負に破れてしまった時は……
『最後まで選ばれず、最後の1人となった選手は……』
敗退脱落となる――。
『これがライバルを奪い合う、二次選考の全貌。"奪敵決戦""だ』
ライバルリー・バトル……廻は声には出さず呟いた。
『なお、どのチームと戦うかは自由だ。両チームが合意した場合のみ、マッチメイクとする』
「なるほど……ってことは、3人組になった奴らがこれからまだここに来るってこと?」
「そだねー」
ゆるく答えた凪は、続けて言う。
「勝ったら1人奪えるなら、仲間にしたい奴がいるチームと戦うのもアリじゃない?」
あ、國神と千切。廻の頭に二人の顔が思い浮かんだ。
『その通り、誰と共に戦うかがクリアの鍵だ。その指標として、新BLランキングを発表する』
直後、ピピと電子音が鳴り、廻は腕についている番号を確認する。
『もちろん今回は偽順位でもなんでもなく、1stをクリアした順のランキングとする。無論、対戦成績により、順次ランキングは変動する』
新BLランキング、廻はRANK16だった。潔は自分の一つ前のRANK15で、凪はRANK7だという。
『ここに立つお前らは既に戦場上で"0"を"1"に変えられる者だ。これはその"1"をブツけ合い、混ざり合い、高め合う生存戦……エゴとエゴの化学反応を制する者が、次の切符を掴むストライカーだ』
最後に絵心は『勝つために手段は問わない――……』そう言い残し、画面は真っ暗になった。
「こりゃまたえっぐいルール」
「えーっと要するに……勝って5人集めたらクリアってこと?」
「だね。とりあえず急いで相手を選ぶ必要はなさそうだけど、どーする潔?」
廻はずっと考えているらしい潔に声をかけた。潔からの返事の代わりに、向こうにいる三人の会話が聞こえてくる――。
「どーしよ……どーしよ……あーやりたくないなぁ……」
そう気弱に呟いているのは、三人の中で一番体格の良い奴だった。憂鬱そうな顔で、長いため息を吐いている。
「もし、負けたら……俺なんか絶対選んでもらえないし……その次も負けたら……あー俺なんかまだ選ばれないに決まってる……。そしたら1人になって……あー……もう嫌だ……ネガが止まらねぇ……やりたくなぁい……」
「めちゃくちゃネガってんね、あいつ」
「うん。なんかめんどくさそうな奴」
廻の感想に凪も同意した。
「やるなら、4・5・6位の選手だろ。それが一番、オシャだ」
次に口を開いたのは、腰までありそうな黒髪ロングヘアーの奴。
「つーか、そこにいる芋くさい奴らに勝ったって俺が全然美しくねぇ」
芋くさい奴らって俺らのこと?その言葉に、廻も凪も少しムッとする。
「黙れ。相手なんか誰だっていい」
鋭い声に、ぴしゃりとその場が静かになった。あの激上手テクニックを見せた糸師凛だ。
「さっさと勝って、俺は次へ行く。お前らだって数合わせだっつーの」
「あ?お前、顔面オシャなのは認めるが、俺を差し置いて何様のつもりだ?」
「ちょちょちょのもめないでよー」
三人は仲間割れ?を始めたが(変なヤツら……)それより、廻が気になったのは……
「『オシャ』……?」
「『オシャレ』ってことでしょ」
廻の些細な疑問にも、凪はちゃんと答えてくれた。
「俺にとっちゃ踏み台なんだよ。お前らも、この"青い監獄"も」
凛はこの場にいる全員に向けて話す。
「『勝ち上がれば、U-20日本代表に入れる』そのシステムを利用するためだけに俺はここにいる。全ては日本代表になって、兄貴を越えるため――糸師冴を潰すことが、俺のサッカーの全てだ」
「糸師冴……?」
「天才MFっていわれてる選手だよ。はは♪どんだけエゴいんだよ、アイツ……」
凪の呟きに今度は廻が答えた。糸師という名字にどこかで聞いたことあると思ったが、凛はその弟くんらしい。ただ、友好的な兄弟関係ではなさそうだ。
「なんかあのチーム、変な奴しかいなくない?」
「にゃは、同感♪」
「蜂楽……凪……ごめん……」
「え」
「潔?」
今まで黙っていた潔が口を開いた。二人の問いかけには答えず、凛に向かって潔は言う。
「誰でもいいんだよな?」
「あ?」
「戦ろーぜ」
その言葉を聞いて、廻はにっと口角を上げる。
「そーこなくちゃ♪」
「そのつもりだったけど」
「え!!」
「俺に言ってんのか?」
三者三様の反応に、
「ああ、誰でもいい」
最後に凛が答えて、決戦合意成立した。指紋認証をして、全員NEXT STAGEへと入る。
少人数での対戦なので、フィールドは通常よりも小さい。ビブスを着たり、試合開始の準備をするなか――
「……あ。ねえ、蜂楽」
凪は思い出したことを廻に聞く。
「蜂楽の眼から見て、俺の中の"かいぶつ"ってどんな奴?」
…………
準備運動のように腕を伸ばす廻だったが、ぴたりと止まって、眼をぱちくりさせた。
「"かいぶつ"……?」
そう呟いた潔は(そういやぁ蜂楽と1on1したときも"かいぶつ"がどうのこうのと言われたな……)と、思い出す。
「凪っち、"かいぶつ"のこと知ってんの?」
「なまえが俺の中に"かいぶつ"がいそうって言ってたから。あれって蜂楽のことでしょ?」
「……!」
「なまえ……?(ダレ……)」
続けて、凪の口からなまえの名前が出てきて、さらに廻は驚いて口をあんぐり開けた。
「自分じゃわかんないから"かいぶつ"がいるなら会ってみたいんだけど…………なんで蜂楽そんなに驚いてんの?」
「なんで凪っち、なまえのこと知ってんの!?」
「え、なんでって……」
二人の微妙に噛み合っていない会話を聞いて、潔はさらに首を傾げた。
(二人の共通の知り合い……?)
凪の話から、なまえとは凪と玲王が所属している高校サッカー部のマネージャーだという。そして、なんとその子は蜂楽の彼女だとか。
……そういや蜂楽には彼女がいるとかなんとか、今村が騒いでたっけな……
心なしか羨ましそうな眼で、潔は廻を見る。
そんな廻は凪の話を聞いて、そうだったのか!と、納得していた。
なまえがすごいと言っていた選手というのも、凪と玲王のことなら同感だ。自分より褒めるのは嫌だけど……。
そして、なまえには凪の中に"かいぶつ"がいるように見えたらしく、そんな話を凪にしたらしい。
(さっすが、俺のお嫁さん)
いや、なまえはまだ廻のお嫁さんじゃない。
「確かに、凪は"かいぶつ"みたいって思った」
「俺自身がってこと?」
「うん。今はなんか底知れないものを感じるって、俺の中の"かいぶつ"が言ってる」
「へー……面白い。紹介してよ、蜂楽の"かいぶつ"くん」
「二人、普通に話してんけど、結局"かいぶつ"ってなんなの……?」
――3対3の5点先取で、二次選考3rdステージ、奪敵決戦が始まる。
「ウチのは白いブルーロックマンだね。チームホワイトだし」
「溢れ出すサイバー感!よろしくです、師匠!」
白いブルーロックマンにゴールを預け、潔からのキックオフで「いっくよん♪」廻は元気よくボールをトラップした。
「BLランキングなんて、1stステージをクリアした順ってだけでしょ?」
目の前に立ち塞がった、時光を見据えて廻は言う。時光がRANK3で、蟻生はRANK2、凛がRANK1という3TOPチームだ。
「ビビんないよ、俺は!」
「わ、わ、シザース!?速!」
高速シザースで翻弄している隙に、廻は軽いタッチでボールを蹴り上げ、難なく時光の横をすり抜けた。
「あぁ!?ごめん、抜かれたぁ!」
「俺もブルーロックマンの部屋でレベルアップしたもんね!」
「ナイス、蜂楽!」
廻の元へ駆け寄るのは潔だ。それを確認して、廻は声を上げる。
「次は凛ちゃん!いくぞ、潔!」
「おぉ!」
「と、魅せかけて」
高く蹴ったボールは……
「凪!」
「うん」
凪へのパスだ。ゴール前に待機していた凪は、後ろから迫って来る蟻生の存在に、シュートではなくパスする。
「この距離……このタイミング……お前の射程だ」
――潔。
その瞬間。廻の眼に、流れるような潔の直撃蹴球が映った。
「しゃあ!!」
チームWHITEの先制点。一直線にボールはゴールに突き刺さった。
「潔!シュート精度上がったんじゃない?」
「うん。無駄もないね」
いえーい!廻は称賛するように潔の肩に飛び付つく。出だしは好調。三人は優勢の流れを感じたが……
「もういい」
「!?」
「大体わかった……お前らの座標……ぬるすぎて死にそうだぜ」
流れを断ち切るように、熱のない声だった。
「お前らはこのボールひとつで戦う行為を、まだただのスポーツとでも思ってんだろ」
……?
「消えてくんねぇかな、マジで……」
凛の発した言葉によって、一瞬で辺りは不穏な空気になった。廻を含め、全員が黙って凛の言葉に耳を傾ける。
「ここは戦場だぞ。お前らは今、銃を持った兵士の前で背中を向けてんだ」
「?」
そして、きっと本当に凛の話を理解した者はいない。
「だから、ぬるいってんだよ」
その言葉の直後、凛はボールを蹴った。
パスではなくシュート……!
そう気づいたのは、ボールが廻の頭上を飛んでいってからだ。
「は!?」
「え」
ブルーロックマンの手も届かず、ボールはゴールに吸い込まれる。
センターラインからキックオフというワンモーションで、凛は1点を獲り返した。
「え、アリなのアレ?」
「全然アリ」
1点加点されたのを見て、凪は廻に聞いた。
「でも、決まんないよ、普通……」
答える廻の顔は笑顔だったが、度肝を抜かれていた。逆に笑うしかない。
「す……スーパーゴール!!」
「おい、今のはオシャすぎる。俺に黙って1人でやるな」
「……だから。どーでもいいつってんだろ。敵だろうが仲間だろうが、俺にとっちゃお前らもぬるい群集……。さっさと終わらせるぞ。こんなんマジ時間のムダだから」
敵味方関係ない態度だ。凛が言葉を発する度に、空気が張り詰める。
「待てコラ。俺だって、人生懸けてここにいんだよ。夢のためにサッカーやってんのはお前も同じだろ」
「……」
静かになったその場に、言い返したのは潔だった。少しの間を置いて、凛は答える。
「夢?そんな平和ボケしたぬるい願望じゃねぇよ……」
夢じゃなかったなら、なんのためにサッカーをやっているんだろう……と、廻は思う。
凛からのプレーはサッカーが好きで、楽しんでいるようには見えない。
「サッカーで負けるという行為は、存在意義を奪われる行為……。"死ぬ"と同義……殺し合いなんだよ、俺にとってサッカーは」
そう答える凛は、このフィールド上であまりにも異質だった。
「……え。こ……殺……?」
「……ブッ飛んでやがる」
「アイツ……めんどくさそー」
「ぷはっ、変な奴♪」
本気でサッカーしているのはわかっていたが、まさか死ぬ覚悟でやっているとは思わなかった。
「殺してやるからさっさと来い。お前らのぬるい球蹴りごっこはここで終わりだ」
そう言って、凛はボールをこっちに投げた。
「……なんだよ。おんなじサッカーなのに」
「今のはムカツク」
凪の言葉に廻も同意だ。死ぬ覚悟ではないけど、こっちだって本気でやっている。
「いくぞ!!」
――チームWHITEから試合再開だ。
「凛ちゃん……アンタには触らせないよ」
潔を囮にして、再び廻は凪にパスを出す。
「柔らかい。いいパス、蜂楽――」
!!?
凪がトラップする前に、その頭上より高く跳んで、蟻生がヘディングした。
「高!?」
「やべ、バレてた……」
髪も長いが、手足も長い。まさか宙で奪われるとは思わなかった。廻はその光景を見て、走る。
「時光、こぼれ球。俺によこせ、ゴール前」
「え!?わ!わ!」
時光がボールを蹴る前に、廻はそこへ滑り込んだ。
「!?あ、邪魔ぁ!」
「そっちいった!」
「ナイスカット蜂楽!」
廻が弾いたボールを潔が追いかける。その後ろを、蟻生……さらに凪も。
先に潔がボールを拾い、キープ――
(!?蹴った……!?)
ありえない体勢から、蟻生は潔がキープしていたボールを蹴った。普通ならファウルになりそうなところを、足尺の長さがそれを成し遂げた。
「今、このフィールド上で、一番俺がオシャ確定」
オシャやべぇ……。
「ごめん!あんなところからシュート撃つと思わなかった……」
「ドントマインド。足長オシャさんもヤバいねー」
ワナワナする潔を廻は励ますと、敵チームに視線を向ける。「倒しがいあんじゃん♪」
再び、チームWHITEから試合が再開する――。
「ちょーだい、潔!」
「どーやって攻める!?」
「凪へのパスが防がれてるなら……」
廻の頭にある方法は一つだ。
「自分で切り裂く!」
ボールを脚に引き付けて、走る!廻の本来の武器であるドリブルだ。
「え!?わ、わわ」
「止めてみな、八の字眉毛!」
「あぁ……やめてよ……止めなきゃ……決める?」
「まぁね。つーか、足止まってるよ!」
突っ立ている人間を抜くなんて、お茶の子さいさいだ。
「あぁ、どぉしよ……負けたら……ダメ人間に逆戻りだぁ……」
「?」
最初から変な奴だったが、時光は指の爪をカリカリ噛みながら、ブツブツと何やら呟いている。
「自信が欲しい!!」
(スピードアップした!?)
そう叫んだと思いきや、いきなり突進するように廻に向かってきた。
(いや、まあ全然抜けるけど)
軽やかなステップのようなドリブルで、廻はひょいっと時光の裏をとる。
「あぁ!嫌だ!!」
「!?」
え……完全に抜いたのに……追いついた!?
一瞬にして距離を縮められた。背後にぴったりついてきている。
だったら、置き去りにしてやる!!
廻は切り返すようにドリブルし、今度こそ時光を振りきった。……振りきったと思ったのに。
(!奪られた……!?)
「ダメだぁ……ゴールが欲しい……」
廻から執念のようにボールを奪った時光は、一心不乱にゴールに向かって駆ける。
「どいてぇ!!」
潔が立ち塞がり、その肩を掴みファウル覚悟で止めようとするも「潔!」逆に潔は吹っ飛ばされた。
「あ、いけそ」
時光は楽々シュートし、ゴールを決める。
気がつけば、3−1。あっという間に点差を広げられていた。
「蜂楽」
自身のドリブルを止められて呆然とする廻を、凪が呼び寄せる。
「……なるほどね。それが凪のやりたい俺たち3人のサッカーか」
シューズの紐を結び直しながら、廻は答えた。
「うん、面白いと思うんだけど」
「いいね♪このままじゃマジでヤバいし、潔は?」
「俺も賛成。TOP3に対抗するにはそれがベストかも」
「てか凪、お前……そんな案とか積極的に出す奴だったんだな」
「ん。いや、初めて」
「え?」
潔の問いに答えながら、凪はボールを置く。
「負けるのは、悔しいのはもう嫌だから。勝たなきゃ、面白くない」
死んだような眼には、いつしか闘志を見せていた。廻はそんな凪に、にっと笑いかける。
「それ真理♪」
「あぁ、行くぞ!」
1対1じゃなくて、3対3に持ち込む――。
凪の案の通り、廻は状況を見て二人へパスし、ゴール前まで導いていく。
「OK、相棒。そこ承知!」
走る潔のその先が、蹴撃点だとすぐにわかった。
パスを出そうとした瞬間、廻の足が止まる。
「ぬるいホットラインだな」
「!?」
「お前程度に視える景色が、俺に視えないとでも思ったか?」
気づいていた凛によって、潔の蹴撃点は潰された。
「うっそ……」
「あ……足!止まった!もらった!」
「だったら……」
時光にボールを奪われる前に、廻は低い体勢から少しだけボールを浮かせて蹴る。
「凪……!!!」
高速グラウンダーパスだ。
「あ」
「そうだ……」
わざと多く回転をかけたボールが凪の元へ。
「感じろ!」
俺からの好送球!!!
(面白いパス……OK。止め……)
んなって、ことだよね。
――蜂楽の意図に気づいた凪は、ボールは止めずに、踵で滑らす。蟻生の不意を突いて、振りきった。
「そんな直感」
「正解」
凪のシュートがゴールを決める。
「ポゥ♪」
駆け寄る廻は凪の肩に飛び付いた。それは絵心が言っていたエゴとエゴ……廻と凪による化学反応だ。
「ナイス凪!!蜂楽!!」
「うん……。予定外だったけど……あんなパスあるんだね……」
「え?」
ぼんやり口にした凪に、潔は不思議そうに聞き返す。パスを出した張本人の廻も、不思議そうに次の凪の言葉を待った。
「俺が今まで受けてきた……玲王のパスは……その時のノリで、俺が自由にやれって感じだったけど……」
そこで凪は、自身の額をトントンと指で叩く。
「蜂楽のパスは、なんてゆーか、脳ミソに発想をブチ込んでくる感じだ」
……これまで、廻のパスを理解してくれる者はいなかった。でも、今は違う。廻の頬が自然に上がる。
「クセになるっしょ♪」
「うん、あと何点取る?」
「んじゃもう1点!」
「OK、わかった」
「戦場で談笑かよ……」
二人の会話に続いて、呆れが混じる冷ややかな凛の声が響いた。
「学習能力ねぇのか、お前ら」
「!」
「あ」
その言葉を最後に、凛はシュートモーションに入る。
!?
ボールが廻たちの間を、反応できない速度で通り抜ける。
「こっちは一瞬に生命懸けてんだよ」
「しまった……」
「やた!また1点!」
センターラインから蹴ったボールは再びゴールへと吸い込まれようとしている。
止められない――そう思ったボールは、ゴールに入る寸前で弾かれた。
「潔!!」
潔がヘディングでボールを弾いた。
「ナイスクリア!!」
「潔!!」
そのまま仰向けに倒れる潔に、廻と凪は慌てて駆け寄る。
「お前に視えてる景色ぐらい……」
「!」
「俺にも視えてるぜ……凛……ぬるいんだよ」
上半身を起こしながら、潔は凛へ挑発的に言った。廻はそんな潔の手を引っ張って、立ち上がる手助けをする。
――潔が弾いたボールがゴールラインから出たため、REDチームのコーナーキックだ。
「全てのチャンスは俺のためにある」
「めんどくさ」
蟻生には、凪がつき……
「ちょ……どいてよ、そこ」
「絶対ヤダ!」
時光には廻がついた。潔が取るポジションはその中間だ。凛が蟻生と時光、どちらにパスしても対応できるスペースであり、最適解だと思われるポジショニングだ。
WHITEチームにとって、ピンチからチャンスに繋げられる一球を、凛は蹴った。
(あ、高い……時光じゃなくて蟻生へのパス……)
――じゃない!
蟻生の頭上も飛び越えて、ボールはゴール隅へと向かう。
縦直下回転直接球!!!
(すっげえ……)
限られた選択肢の中から、一番難易度が高い選択を凛はした。
コーナーキックから直接ゴールを狙う。
そして、そのボールは最初から決まっていたかのようにゴールに入った。
桁外れのキック精度だ。
「今の……ムリっしょ……。はは……」
「どーやって止めんのアレ」
「(くそ……俺の判断ミスか……!?)」
廻と凪が唖然と呟くなか、潔は思考する。だが、改めて考えてもそれが最善としか思いつかない。
自分が遠い方のポストにいても、がら空きのスペースにパスという選択肢もあるからだ。
「あと1点取られたら負けだね……ヤバい……」
「先にこっちがあと3点取れば勝ちでしょ」
「おう。反撃だ」
廻の弱音のような言葉に、凪が続いて、潔が強気で答えた。
……――だが。その三人は、凛との圧倒的なレベルの差を見せつけられる。
「蜂楽!凪!止めてくれ!!!」
凪のディフェンスを、驚異のテクニックで凛は突破した。……来る!
「ここから先は通さないよ、凛ちゃん!」
「……ぬりぃんだよ」
――え。
いつもは得意のドリブルで、相手を翻弄し、魅せる廻だったが、初めて逆の立場になったかも知れない。
自分とはまた違う、洗練された凛のドリブルだった。
(あんな"かいぶつ"、初めて見た……)
ワンテンポ遅れて、振り返る廻の眼に、凛の蹴り描く放物線が映った――。
結果は5−2の敗北。完敗といえる敗北だった。
計り知れない実力さを目の当たりにして、その差を実感するのが精一杯だったから……
「来いよ――蜂楽廻」
廻は、そのルールが頭からすっぽり抜けていた。
…………俺?
試合には勝つつもりでいたし、まさか、自分が引き抜かれるとは考えもしなかった。
「キ……キミのパスはズバ抜けてる!個人プレーしかないウチのチームに来てくれればもっと最強になる!あ、また調子乗っちゃった!嫌いにならないでね……」
「俺のオシャなゴールをアシストする、お前は俺の黒子になれ蜂楽廻」
「……いつまでくっちゃべってんだ、お前ら。さっさと次行くぞ」
時光と蟻生の二人にパス技術を評価されても、廻は唖然としたままだった。
凛はそんな廻に視線を寄越す。
「ボーっとすんな、オカッパ。お前の命運は俺が握る」
凛はそれだけ言うと、室内を後にする。それに蟻生、時光も続いた。
「あ……」
潔は廻の背中に声をかけようとして、声を詰まらせる。
「あーあ……」
先に口を開いたのは、廻だった。
「俺は最後まで、潔と一緒にいきたかったんだけどなぁ……」
「蜂楽……」
凪とだって、もっと一緒にサッカーをしたかった。この三人で、もっとサッカーをしたかった。
……――でも。俺の中の"かいぶつ"が言ってる。
「行くよ、俺……ルールだし……。でも、"待つ"なんてしないよ、潔……」
"凛の中にいる"かいぶつ"を知りたい"
「俺が欲しけりゃ奪いに来い。――俺は、俺の中の"かいぶつ"に従う」
顔だけ潔に向け、揺るぎない声で。
前を歩く二人と同じように、廻はその場を立ち去った――……
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あでぃしょなる⚽たいむ!
#無自覚の変人たち
(……ああは言ったけど、これからあの変人三人組と、俺うまくやれるかなぁ)
「あ、蜂楽くん。先に汗流してきたら?あそこがお風呂みたいだよ。あっ余計なこと言ってごめんっ!先輩風吹かせようとかそんなんじゃないからね!嫌いにならないで!!」
(ネガさん、ネガティブ過ぎるし……)
「蜂楽廻、後で俺をオシャに輝かせる連携の練習するぞ」
(オシャさんは俺とオシャ過ぎるしー)
「…………」
(凛ちゃんはピリピリして話しかけるなオーラ出してるしぃ)
〜お風呂場〜
「大浴場、誰もいなくて貸しきりだ!ひゃっほー♪」
〜廻、お風呂で泳ぎ中〜
「ふはぁ〜いいお湯いいお湯♪」
「なななな、なんで裸のまま歩いてんの!?」
「おい裸族。その自由なスタイルは認めるが、前ぐらい隠せ。公然ワイセツオシャでとっちめるぞ」
「えーごめん。でも、気持ちいいよ、裸族♪一緒にやる?」
オッシャアアァ……!
アハハハハハ!
「ふ……変人しかいねえのか、この部屋は」
廻、違和感なく変人たちの仲間入り!