廻と我牙丸吟と千切豹馬

「それから俺たちの……地獄の身体機能フィジカルトレーニングが始まった……ぼぇ……エ」
「イガグリ、今村、大丈夫?」

 ――一次選考セレクション突破をした、チームZ。
 二次選考セレクションに意気込む彼らへ絵心から言い渡されたのは、身体機能フィジカル強化トレーニングだった。

 その過酷さは、皆の顔は死に、食堂で吐く者が続出するほど。

「ちくしょう……これじゃあ俺の男前が台無しだよ……」
「むしろなんでお前は平気な顔してんだよ……蜂楽……」
「んー……食べながら寝てるからかな?」
「なんだよソレ……」
「器用過ぎんだろ……」

 今村とイガグリはげっそりとした顔を廻に向けた。二人が言った通り、廻はいつもと変わらずけろりとしている。
 顔には出てないだけで、廻だってしんどさは皆と変わらない。

 2時間耐久ランから始まり、超体幹トレーニング、ウエイトトレーニング、スプリント走など、一日中身体機能フィジカル強化トレーニングに明け暮れていた。

 期間は絵心が「いい」と言うまで。
 終わりがわからないというのは、なかなか辛いもの。

「ちかれた……。トレーニングばっかで飽きるー……ボール蹴りたーい……」

 廻が何より辛かったのは、期間中「一切ボールを使用してはならない」というルールだった。
 サッカーやりにここに来たのに、できないってなんで!?

「違反したら即退場になるぞ。今は我慢だ、蜂楽」

 隣で超体幹トレーニングをしている我牙丸が言った。柔軟なポーズをキープしている姿に、廻は小学生のときのお楽しみ会で遊んだゲームを思い出す。

「我牙丸ってツイスターゲーム得意そうだよね」
「ツイスターゲームってなんだ?ねじるのか?」

 大雑把な説明をする廻をよそに「女の子とやるゲーム……」と、言い残して今村は倒れた。

「身体を使ってやるゲームなら楽しそうだな」
「でも、やっぱサッカーしたくない?」
「そりゃあ、俺たちはサッカーしにきてるわけだし」
「じゃあさ、エアサッカーしようよ!ボールを使わないなら違反にならないし!」

 名案だと廻は言ったが……

「ボール使わないでサッカーしてなにが楽しいんだ?」
「……だよね」

 当然のように言った我牙丸の言葉に、廻はぐうの音が出ないほど納得した。

「お前らゆるい会話してんじゃねえよ!こっちまで力抜けんだろうが!!」
「雷市、いつにも増してイライラしてんな……」
「怒鳴る元気があるのが羨ましい……」

 潔の呟きに遠い目をして呟く伊右衛門。廻は早くボールを蹴りたいと、しょんぼりしながらトレーニングを続けた。


 ◆◆◆


 何日か過ぎて、いつまで続くのかという状況で――

「は……?蜂楽……?」

 ついに廻の限界がきた。

「……いや、猫かよ」

 睡魔の。脱衣所の床で丸まって寝ている。シャワーを浴びようとやって来た千切は、その姿にあの黒猫は元気かなと思い出した。

「よくこんな所で寝れるな……」

 すやすやと寝ている。久遠に着替えは持たされていたので、なんとか服を着てから寝落ちしたらしい。

「おーい、蜂楽。起きろ」

 さすがの千切もほっとくことはできず、廻を揺すり起こした。

「んぁ……千切ん……?」
「寝るなら布団でな」

 ふあぁとあくびをしながら、廻は起き上がる。よく周りからマイペースって言われるけど、俺より蜂楽の方がマイペースじゃね?と、千切は思う。

「最近、ちゃんと疲れが取れない気がする……足とか重いし」
「いや、疲れってもんじゃねえだろ。毎日地獄だぞ……。蜂楽も運動後はストレッチだけでなくマッサージもしてみろよ。ちょっとは違うぜ」
「じゃあ千切流のマッサージ教えて♪」
「これからシャワーだからまた今度な」
「じゃあ俺、寝る」
「いや、ちゃんと布団で寝ろって」


 次の約束をしたところで、地獄のトレーニングに二人はそんなことはすっかり忘れて――10日目。


「……楽。蜂楽、起きろ」
「んー……」

 早朝、廻はいつも通り潔に起こされる。

「トレーニングスーツを着て集合だって」

 その言葉に、廻のぼーとする頭が少し覚醒する。集合ってことは……

「二次選考セレクション……?」
「みたいだ」
「やっとボールに触られるんだ……」

 布団から起きる廻は、先に起きて気が立っている皆の姿に気づいた。
 あの伊右衛門でさえ、空気が穏やかじゃない。

「行くぞお前らぁ!!!」
「ランキング上位がなんぼのもんじゃい!!!」
「勝ぁつ!!全員ブッ潰す!!!」

 廻以外、皆、同じように眼の下にくっきりクマを作って。廻はそんな皆の後ろをついていき、集合場所の地下中央エリアへと向かう。
 五角形のその部屋には、すでに他の棟の選手たちが集まっていた。

(んん?)

 先に来ていた選手たちを見渡しながら、廻は思ったことを口に出す。

「なんか、あいつらヘトヘトじゃない?」
「むしろ元気な蜂楽がおかしい……って、ん?」

 苦笑いして答えた千切は、あることに気づいた。
 腕にあるチームを示すアルファベット。X、W、Y……。上位のアルファベットのやつらがいない。

「壱から肆号棟のやつらまだきてないのか……?いや、俺たちZとV以外は、チームランキング1位を除いて脱落したはず……」
「確かに、見たことないやつらばっかだね」

 千切の疑問に廻も気づく。二人だけでなく、他の者たちも――。

『やぁやぁ、才能の原石共よ。身体機能フィジカルトレーニング、おつかれ』

 大きなモニターから絵心が現れ、さっそく事の説明を始めた。
 今ここにいるのは5棟25名ずつ、計125名のまぎれもなく一次選考セレクション通過者たちだ。

『まぁ察しのいい人間はもう気づいてると思うが、この中には壱・弐・参・肆号棟から来た人間はいない。つーか、そんなものは存在しない――』

 存在しない?廻の頭の上にハテナがたくさん浮かんだ。

『"青い監獄ブルーロック"には伍号棟しか存在しなかった。お前らはチームV〜Zの最底辺と思い込み、一次選考セレクションをバカみたいに戦ってたんだよ』

 つまりは……どういうこと?

 いまいち理解できない廻だったが、その場で話を聞いていた者たちも同じらしい。

「は?は?」
「全部……伍号棟って言われてたってこと……!?」
「マジかよ……フザけんな!」

 そんな動揺した声が、周囲から沸き起こる。

「ダマしてたのか……!?それであんなトレーニングさせて……殺す気かよ!?」
『あぁそうだ。全てはお前らのクソぬるい自信をブチ殺し、世界一になるための飢餓ハングリー精神を育てるために俺が仕組んだカラクリだ』

 別チームの選手の言葉に、淡々と答える絵心。その答えはさらなる選手たちの反感を買うが、もちろん絵心が取り合うことはない。

『いいか?例えばノエル・ノア……』
(あ、ノエル・ノア)

 その名前に廻は反応する。ノエル・ノアの過去と絡めた、いかに飢餓ハングリー精神が重要だという話だった。

『世界一になるための"ゴールへの飢餓ハングリー"それを手に入れるのが、"青い監獄ブルーロック"だ』


 ――このときの廻は、まだ「世界一」のイメージが描けていない。
 だって、"ブルーロックここ"にきた一番の目的は「誰かとサッカー」をする為だから。


『さぁ、二次選考セレクションといこうか』

 一次選考セレクションで、ストライカーとしての"0"を"1"にする意味を知り、今度はさらに己の"1"を"100"に変える戦い。

『二次選考セレクションは5つのステージから成り、クリアした者のみ次のステージへと進むことのできるレベルアップ制度ステージ

 今までとちょっと違う……。学校の授業はよく聞き流す廻も、このときは真剣に絵心の説明を聞いていた。

『そして、5thフィフスステージに到達し、二次選考セレクションを突破した者は――……』

 俺が選抜した世界トッププレイヤーとの、強化合宿に参加してもらう。

「おぉ……」

 イガグリからそんな声がもれた。この場にいる全員、驚きを隠せない。
 廻は世界と聞いて「世界の舞台で、メッシやロナウド、ノエル・ノアとワクワクするようなサッカーをする」という自身の夢がグッと近くなった気がする。

『説明は以上だ。ウォームアップは自由にしろ』

 絵心がそう言うと、ボールが詰まったカゴが自動で現れた。

『心の準備ができた者から1人でその"ゲート"を進め』
「みんなで……じゃないんだ」

 廻は呟く。その疑問に答えるように絵心は続けた。

1stファーストステージは"個"の戦い。一度入ったらもう戻れない。2ndセカンドステージに進まなければ、隣のライバルたちとの再会はないと思え』

 "隣のライバル"という言葉に、廻は自然と潔を見た。潔も驚いているようだ。

『当然だが、一次より二次選考セレクションの難易度はハネ上がる。ここまでどれだけ活躍してようが、この先でダメならダメだ。チームメイトに恵まれてたまたま生き残ってる奴は覚悟しろ』

 チームメイトに恵まれて……というなら廻もそうだろう。このチームじゃなければ、きっと勝ち上がれなかった。

『二次選考セレクションはグズから脱落する。本物の"エゴイスト"しか残らない』

 最後に絵心は「健闘を祈る」という言葉を残して、モニターは切れた。

(本物の"エゴイスト"ってことを証明しろってことか……)

 実際になにをするかの説明はなかったけど。

「おいおい、説明あれだけかよ……」
「何やんのかわかんねーじゃん」
「……先行けよ、お前……」
「は!?嫌だよ!わかんねーのに行けっかよ!」

 考えることは皆同様のようで、その場に混乱する声が飛び交い、誰もが様子を窺っていた。

「あ、アイツ行くぞ」

 イガグリが指差した方へ、眼を向けると……背の高い少年がボールを手に取る。

(ウォームアップ?でも、なんでボール二つ?)

 蹴る――自然に眼を引きつけられた。ボールは柔らかくも美しい軌道を描く。廻はぽかんと口を開けて、そのボールを眼で追う。
 直後、彼はもう一つのボールを蹴った。
 さっきの高軌道のボールとは違い、今度は低軌道の曲軌道スピンカーブ

 ……!?二つのボールは天井高くでぶつかり合う。

「え」
「な!?」
「上手ぇ……」
「マジかよ……」

 皆が驚きの声をもらすなか、廻も「すげー……」と眼を輝かせる。まだまだこんなすごいヤツがいたんだ……。

「開けろ。準備運動は終わりだ」

 二次選考セレクションに続くゲートは開き、一番乗りに彼は入っていった。
 ゲートの上にあるモニターに、チャレンジャーとして「糸師凛」という名前。

「新世代世界11傑ワールドベストイレブンのあの糸師……!?」
「いや……それは糸師冴だろ?」

 イガグリの言葉に、今村が訂正する。

「だったら……何者だよ……」

 糸師、凛。

「あんなヤベぇのが……まだウヨウヨいんのかよ……二次選考セレクション……」

 圧倒的なテクニックを見せつけられた。愕然とするイガグリの言葉に、チームZに沈黙が訪れる。

「何言ってんだよ、イガグリ」
「!」

 沈黙を破ったのは潔だった。その肩を握って言う。

「思い出せよ、チームV戦のこと……。ヤベぇのは俺らだって同じだろ」
「たしかに……俺の、あの顔面ブロックはヤバかった……!!」
「いや、俺のシュートの方がヤバかったぞ」

 今度は潔の肩に腕を回した國神が言った。

「いやいや、俺のドリブルの方がヤバかった!」

 二人にならってイガグリの方から顔を出して言ったのは廻。

「フザけんな。俺の俊足あしがなきゃ負けてだろ」

 続けて千切。

「あ!?俺が中盤で守ってやったからだっつーの!!」
「俺の守備もヤバかったし!!」
「お……俺も……レッドカードで止めた!」

 雷市、今村、久遠。

「おい!それは違うだろ!」
「俺めっちゃ活躍した。いろいろ」

 久遠の言葉に笑ってつっこむ成早と、我牙丸。

「俺のスーパーセーフ忘れんなぁ!!」

 そして、伊右衛門が叫んだ。

「俺のゴールがヤバかった!世界一になるのは俺だ!!」

 円陣を組むなか、一周したように潔が言う。

「"青い監獄ブルーロック"の先で逢おうぜ!!」

 チームZの気合いの入った声がその場に大きく響いた。

「……で、誰が最初に行く?」
「ジャンケンでもする?」

 ――ジャンケンによって、一番になった潔を、廻は手を上げて見送る。
 その後も公平にジャンケンで決めて、廻は千切の次の二番になった。
 
「いぇーい♪行ってくるー!」

 残りのメンバーに見送りながら、廻は元気よくゲートへと向かう。
 ……ん?その途中、見たことある水色の髪の少年に気づいた。

「あー!」
「ん、君は……」

 最初の"青い監獄ブルーロック"行きのバスで、廻を起こしてくれたあの少年だった。

「よかった、会えて!」
「お互いここまで生き残ったんやな」

 駆け寄る廻は、意外にも彼は自分よりずっと背が高かったのだと気づいた。

「バスの中で起こしてくれたお礼、言ってなかったから」
「そんなことええのに。律儀な性格なんやな、君」
「あの時はおおきに♪」
「あはは、どういたしまして」

 二次選考セレクション前の、わりと緊迫した雰囲気の中でにこやかに話す二人。

「なんや、氷織。知り合いおったんか」

 そんな二人に話しかけたのは、同じ関西弁のクールな雰囲気をした少年だ。

「あぁ、烏。バスの中で知り合ったん」
「ほー」
「二人は同じ関西から来たんだ?」
「関西っちゅーても俺は大阪で、こいつは京都や」

 あ、関西弁じゃなくて京都弁だったのね。

「烏とはバンビ大阪ユースチームで一緒やったん。……あ、自己紹介まだやったね。俺は氷織羊。よろしゅう」
「俺は烏旅人や」
「俺は蜂楽――」

 廻が名乗ろうとしたとき「おーい、蜂楽ー!先行っちまうぞ」次の番である國神が声をかけた。やべっとそっちに視線を向ける。

「俺は蜂楽廻!ちなみに千葉から!じゃあねっ、氷織ん、烏!」

 慌ただしく廻はゲートへ駆けていった。

「……氷織んって初めて呼ばれたわ」
「なんや元気なやっちゃな」


 ◆◆◆


 氷織とも再会を果たし、清々しい気持ちの廻を迎えたのは――

「ゴールキーパーのオバケだ!」

 GKのオバケではなく、最先端のテクノロジーで発明されたA・I人工知能『BLUE LOCK MAN』だ。
 世界トップクラブのGKのデータを集結させ、ボールにマイクロセンサーチップを埋め込んだことにより、ホログラムとの接触による物理的反発を実現した、超ハイテク技術である。

 余談だが、帝襟アンリはこの開発に多額の予算を使いきり、頭を抱えている。

 そんなことは知らない廻は、これが何か考える暇もなく、ゴールを奪うシュート課題ミッションをこなしていた。

(――承知!90分間で100ゴール決めればいいってわかりやすくていいや♪)

 この1stファーストステージのクリア方法は、一人一人の能力の使い方によって違ってくるが、廻は得意のドリブルを交えたシュートだった。

「ありゃ!?そんなんアリ?」

 ゴールを決める度に、レベルが上がっていく仕様らしい。BLMの動きが俊敏になるだけでなく、障害物ダミーも増える。

「おっ……と!」

 そして、飛んでくるボールもむちゃくちゃな軌道。

「……いいねいいね♪簡単だったら面白くない!」

 レベルが高くなれば高くなるほど、廻は燃えてくる。このステージは廻と相性抜群だった。

(ドリブルでぎゅんって抜けて、勢いを殺さず……シュート!)

 普段テクニカルにゴールを決める廻にとっては珍しい、高威力のシュート。
 BLMは腕を伸ばすが届かず、決まった。

「よっしゃあ!」

 笑顔と共にガッツポーズ。順調にゴールを決めていった。

 ……――そして。

 蜂楽廻、残り時間20分ほど余って、100GOAL達成!

「次のステージに行きますか♪」


 ◆◆◆


 二次選考セレクション1stファーストステージをクリアした廻は……

「あ〜潔だ!」
「蜂楽!」

 すぐに潔と再会できた。

「いぇーい、すぐ逢えた!」
「おつかれ!クリアおめでと」

 二人の重なった手のひらからパンッと軽快な音が鳴った。潔も少し前にクリアしたらしい。

『3人1組でチームを作って先へ進め』

 そう書かれた文字を、廻も見上げていた。

「ほぇーなるほど。2ndセカンドステージってチーム組むだけなのかな?」
「そうらしいっす」
「……」

 少し考える素振りを見せた廻は、口を開く。

「あと1人、誰にする?」
「へ?」
「俺と潔と、あと1人」
「え」

 ――コイツ、俺のこと……勝手に同じチームにしてるやん……。
 と、勝手に決められて少し納得いかない潔。

「誰がいいかなぁ」

 廻にとっては潔と組むのは、ごく自然で当たり前のことだ。

(ま、いいけど……)

 潔も廻と組むのが嫌なわけではない。試合のときは頼りになるし。

「あと1人かぁ……誰だろ?仲間に欲しい奴でパッと思いつくのは……國神か、千切かな」
「んーいいね。でも、3人だからどっちか1人としか組めないよ。どっちがいい?」

 廻は左右の人差し指を立てて潔に聞く。潔はキョロキョロと辺りを見渡してから口を開く。

「じゃあ、2人共まだここには来てないみたいだから……先にクリアしてここに来た方と組むってのはどう?」

 潔のその提案に、もちろん廻は異論なし。

「いいんじゃない?それが新しいチームってことで」
「おし!」
「ねぇ、潔世一」
「!」

 方針が決まったところで、声をかけてきたのは……

「俺らと組まない?」
「……え?」

 ――凪だった。

「俺らのチームに来なよ」

 俺らのチームってことは、凪と玲王もあと一人を探しており、潔が勧誘されているらしい。

「おいおい、凪。組みたい奴を待つって言ってたのって、コイツのことだったのかよ」

 蜂楽廻かと思ったら、潔の方かよ――その言葉は心の中で、玲王は凪に言った。凪は普段と変わらず淡々と答える。

「うん。だってあの試合で一番凄かったのはコイツだ。俺はコイツとサッカーがしてみたい」

 凪の返答に(潔ってば、ライバル何人目?)廻は二子のときのように思う。

「……だってさ。どーすんの?あっち行く?」
「……」

 潔と組みたいけど、潔が向こうのチームに入りたいと言うなら、廻は尊重するつもりだ。

「行くワケないだろ。俺は蜂楽と組む」

 ……でも。ほんの少し。潔は自分を選んでくれると期待していた。潔の言葉に、廻は嬉しそうに笑みだけ浮かべる。

「すまん、凪。1人でそっちには行けない」
「……だとよ」
「……そっか……わかった……」

 潔に断られ、引き下がると思っていた凪――だったが。

「じゃあ俺が、潔のチームに入る」
「!!?……え?」
「は?」

 まさかの凪の言葉に、潔と廻の口から驚愕の声がもれた。

「それならいいでしょ?」
「な……」

 凪は本気らしい。ショックを受ける玲王の顔が、廻の眼に映った。

「何言ってんだよ、凪……お前……俺と組むのは絶対ベストだろ……?」

 その背中に、玲王はさらに問いかける。

「どーゆーつもりだよ!?俺はどうなる!?」
「……」

 廻も潔も二人のやりとりを見守ることしかできない。凪は顔だけ玲王に向けて話す。

「玲王。お前は俺にサッカーを教えてくれた。俺とお前で世界一になる、それは絶対だ。でも俺たちは負けた」

 チームZに。

「俺たちは最強じゃなかった」

 ……いや。あの時……最後のプレーで、潔の進化は凪を上回ってゴールを決めた。だからか、と廻は納得する。

「初めて感じた、この"悔しさ"って感情ヤツの正体を知るために、俺はコイツとサッカーがしたい」

 俺、頑張ってみたいんだ――そう話す凪は静かな凄みがあった。
 玲王はなにかを言おうと口を開き、閉じる。

「……なんだよ、それ……好きにしろよ」

 顔を俯いて声を絞り出すように言った言葉は、それだけだった。

「…………どーする潔」
「……」

 廻の問いに、潔はしばし考えたあと……

「来いよ、凪」
「だよね♪」

 ――こうして。廻は潔と凪と共に、3rdサードステージへと向かう。

「じゃあね、玲王。先で待ってる」

 凪は最後にそう声をかけたが、玲王から返事はなかった。


「よろしく凪っち」
「うん、よろしく」

 親しげに凪の名前を呼んで、廻は凪と拳をトン、と合わせた。昨日の敵は今日の友!

玲王アイツちょっと悲しそうだったね。アンタ意外と薄情なタイプ?」

 親しさとは関係なく、気になったことは直球で聞けるのが廻だ。

「え。……まぁ、さみしくないって言ったら嘘だけど……こっちの方がワクワクしたんだ。そのエゴに従うのが正しいんじゃないの?」

 直球の廻の問いに、少し不意を突かれながら凪は答えた。

「"青い監獄ブルーロック"って、そーゆートコでしょ」

 凪と組めてワクワクするのは廻も一緒だ。そして、この三人なら負ける気がしないと確信する。

「凪。よろしくな」
「うん。よろしく」

 きっと潔も。トン、と二人も拳を合わせた。

「つーか、ウチら最強っしょ♪」
「いくぞ」

 廊下を進んだ先。3rdサードステージへの入り口が見えた。六角型の椅子が置かれた部屋に、先にいたのは――……

 驚異的なテクニックを見せた、あの糸師凛がいるチームだった。





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あでぃしょなる⚽たいむ!
#if〜もしも、玲王がゴールボーナスでスマホを手に入れていたら〜


「あれ、こんな時間に玲王から電話?……もしも」
『なまえ……!聞いてくれよ!凪のヤツ……俺を裏切ったんだ……!』
「う……裏切った……!?」

 あんな仲の良かった二人に、一体なにが起こったの……!?

 ――1時間後。

『でも、本当はさ……変わっていくあいつが嬉しかったんだ』
「玲王。その気持ち、ちゃんと凪に伝えた方がいいと思う」

 ――さらに1時間経過。

『あんな瞳を輝かせるあいつを、どうやったら送り出せんだよぉ……っ』
「えっ、玲王、泣いてる……?」

 ――さらに1時間。

『俺、悪くないよな……?最後まで一緒にいてって言っておいて、潔を選ぶっておかしいよな!?なまえもそう思うだろ!?』
「え、えぇと……それより、玲王……」
『あのボケめんどくさ赤ちゃんめ……!すっげームカついてきた』
「ごめん……。私も眠いし、そろそろ……」
『……は?なまえまで俺を見捨てんの?』
「見捨てないよ!?そうじゃなくて……」
『はっ、そうかよ。なまえも潔の味方ってわけね……。なんてったって、潔は蜂楽廻の相方だもんな!』
「違うってば〜!(潔くんのこと初めて知ったし!)もう深夜だし、そろそろ寝……」
『どうせ最後はなまえも俺のことを裏切るんだーー!!』

(〜〜っ!とりあえず今日のところは寝かせて玲王……!!)


 玲王、長電話で愚痴るめんどくさい女子化。


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