――レギュラー発表まで、あと5時間。
食事は好きなメニューを選べたので、廻はミートソースのパスタを選んだ。
粉チーズをこれでもかと山のようにかけているが、皆は結果が気になりソワソワしているせいか、つっこむ者は誰もいない。(後に馬狼に粉チーズをこぼすなと怒られる)
刻々と時間が進み、発表の数分前には、選手全員が三次選考セントラルルームに集まっていた。
「うえーキンチョーするっぺ!」
「心臓、飛び出たら食べたるわ」
「あれ……士道は?」
「まだ仕置き室なんじゃね?」
「いやいよだね」
「ああ」
皆のどこか落ち着かない声で会話が飛び交うなか、廻はでかでかと時間が表示されているモニターを見上げる。
「カウントダウンみたい」
「わざとらしい演出に腹立つわ」
廻の独り言のような言葉に、薄ら笑いを浮かべた烏が続いて言った。
カウントダウンは0になり、いよいよ結果発表だ――というところで、ドアが開く。
「やぁやぁ、おつかれ。才能の原石共よ……こうやって直接会うのは2回目かな……?」
入ってくる背の高い影は……
「ごきげんよー」
「うわ……本物……」
「生エゴ……」
いつもはモニター越しだったので、生の絵心とは久しぶりの再会だ。
「まずは再定義する。サッカーは"点を奪るスポーツ"だ。『得点』こそが、ストライカーの存在価値の全てだ」
前置きのような話しだったが、皆は真剣に耳を傾ける。
「だから、俺はこの三次選考"適正試験"で、最も"得点"率の高かったエゴイストを中心にチームを創るコトにした――覚悟して聞け」
覚悟という言葉にいよいよだ。どこからか、誰かのごくりと息を飲む音が聞こえた。
「これより、U-20日本代表戦に挑む11人を発表する。まずは、1トップ……糸師凛」
凛の名前が呼ばれ、誰もが納得の人選だったが、続けて絵心はその理由も説明する。
「最高値の『1試合平均2.5ゴール』このチームはお前を中心とした超攻撃特化型布陣だ。5点奪われたら6点奪って勝つチーム。"青い監獄"というストライカーだらけの人選で勝つための方法はこれしかない」
現に"適正試験"の試合では、ほとんどディフェンスは機能せず、奪って奪り返しての試合になっていた。
「"破壊に次ぐ破壊"、そのチームテーマを先頭で体現するのはお前だ」
その絵心の言葉に「ぶっ壊しゃいいってコトね」と、自分なりに解釈する廻。(そして、後に潔と千切の会話で連呼する)
「そして、これから発表する残り10人は、破壊を増大させる銃弾となる存在……」
まずはGKと、絵心が呼んだのは我牙丸の名前だった。
「……そうか。あのGKのオバケは試合に出れないのか。お役目ありがとうというわけだな」
「ブルーロックマンな。で、お役目ごめんな」
まあ、言葉は間違っているが、意味としてはあまり間違ってもないか――斬鉄のポツリと言った言葉にちゃんと玲王は訂正した。さすがに正式な試合にホログラムを出すわけにはいかないだろう。
「おー……俺?」
「突発的なボール反応と全身のバネ。身体能力のGK適正数値でトップを叩き出した、お前がこのチームの守護神だ」
「そーゆー基準ね。うっしゃ」
最初は意外そうな顔をしていた我牙丸だったが、絵心からの説明に納得して晴れやかな顔で頷いた。
「次は2枚のCB……蟻生十兵衛と二子一揮。高さと手足の尺で他を圧倒する右CBと、ボール奪取と空間読解に長けた頭脳を持つ左CB」
全員ストライカーとはいえ、理由を聞けば、絵心が選んだポジションはそれぞれの能力に合って的確だとわかる。
「そして、その両サイドをアップダウンする速さと技巧を持つドリブラー2枚……RSBに千切豹馬」
「はい!」
「LSBに蜂楽廻」
「にゃるほどね♪」
真剣な表情で答えた千切とは別に、廻は笑顔で返事した。
「まぁ、どのポジションでもゴール狙うけど♪」
その廻の不敵な言葉に、千切、蟻生、二子の纏う空気が変わる。
ピッチに立つ以上、後方のポジションであろうと、きっとチャンスはある。そして、そのチャンスを掴めるかどうかで、ストライカーとしての真価が問われる――。
そして、残りは5人。自分の名前は呼ばれるのか、緊張が続く中、絵心は次々と名前を呼んでいった。
「次は、この4枚のDFラインから前線へのスイッチとなる1ボランチ――烏旅人。"青い監獄"No.1のボールキープ力とゴールを見透かす分析力を持つお前がこのチームの心臓だ」
「チッ。そんな気したわ、ボケ」
「さぁ、ここからは攻撃陣」
烏の言葉に気にも止めず、絵心はさっさと続ける。まだ呼ばれていない者の中には、ランキング上位の者たちもいるが、
「まずは敵の壁を外から斬り裂く両WG……乙夜影汰、雪宮剣優」
「ちゅーす」
「はい、喜んで」
当然のように彼らの名前は呼ばれた。No.4とNo.5の二人だ。とすると……
「敵の裏を抜けるスピードとシャドウの右翼と、1on1でブチ抜き捻じ伏せる圧倒の左翼。そして、その内に陣取り、攻撃の中心を担うラスト2枚――まずはそのボールタッチで常識を超えるゴールを重ねた華麗な逸材。凪誠士郎」
予想通りのNo.6。名前を呼ばれた凪は「うっし」と声をこぼした。
「そして、もう一度言う。このチームは糸師凛を中心とした、超攻撃特化型布陣だ――」
最後の一人の名前を呼ぶ前に、再度絵心は己が描くチームの姿を説明する。
「つまり、糸師凛のパフォーマンスを最大に発揮する必要がある。その相互関係で全選手中最も優秀な数値を叩き出し、糸師凛のシャドウとして「主張」と「共存」を繰り返し、自らのゴールも奪い取った「凌駕」する才能……」
ここまでの話を聞いて、廻が思い浮かぶ人物は一人しかいない。いや、そもそも名前を呼ばれないのはあり得ない。
「最後の1枚はお前だ――潔世一」
「……はい!」
ポジションは離れてしまったが、同じチームで、大きな舞台で、潔とサッカーできることは純粋にワクワクする。
「これがU-20日本代表に挑む11傑」
――"青い監獄"イレブンだ!!
◆◆◆
「質問、絵心さん。なんで士道くんがメンバーに入ってないんですか?ゴールも決めてたし、No.2ですよね?」
「……ああ、いい質問だ」
◆◆◆
……――制服の上にコートを羽織り、幼い頃に廻からもらった黄色いマフラーを巻く。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
いつもと変わらず母に見送られ、玄関から一歩外へ出たなまえは寒さに身震いした。
2月の寒さが一番厳しいとなまえは思う。
そして、高校二年生の2月ともなれば、もうすぐ学年末テストが実施され、本格的に進路を考えなくてはならない時期だ。ましてや、超進学校の白宝高校では受験勉強一色になる。
今年は廻へのバレンタインチョコを考えなくていいので、その分、勉強に回す。
いい大学に入って、また勉強して、その先は――?
廻に会うまでにはやりたいことを見つけようと思っていたのに、なまえはまだわからないままだった。
視界を窓の景色から車内に移す。
通勤電車に揺られて、朝から疲れた顔をしている大人たちは、子供の頃、何になりたかったんだろう――。
「なまえ、ニュース見た!?」
「サッカーニュース!」
なまえが教室に入った途端、開口一番に友人たちは言ってきた。
「え、ニュース?」
いつもなら電車の中でスマホを触って、その日のニュースを知るが、今日はぼーっと考え事をしてまだ見ていない。
「あのイケメンサッカー選手の糸師冴が」
「U-20日本代表に参加するんだって!」
「で、対戦相手はブルーロック!」
一気に話してきた彼女たちの言葉に、なまえは「ちょっと待って」と、話を整理する。
糸師冴選手は日本の至宝と呼ばれ、世界で活躍する選手だ。日本に帰国したのはつい先日のことで、ニュースで話題になったので知っている。
ちなみに弟もサッカーをしているらしく、"廻と同じように青の監獄"に強化指定選手として招集されたという。
「ニュース見てみてよ!」
「うん」
なまえはスマホを取り出し、検索する。見出しには『糸師冴、U-20日本代表に初招集!』とあり『対戦チームは……』スクロールする指が、止まった。
"ブルーロックプロジェクトの若き高校生たち!"
「……」
「玲王さまもきっと出るよね!」
「応援しなくちゃ!」
もしかしたら、廻も選手として選ばれているかもしれない――ううん、廻なら絶対スタメンに選ばれてる!
それに、玲王だけじゃなくて凪も一緒に三人でサッカーをする姿が見られるかも知れない!
朝のちょっと憂鬱な気分が、一気にどこかへ吹き飛んだ。
「学年末テストも控えて、今日はそのポイントを〜〜」
授業が始まっても、なまえはこっそり隠密スマホで情報収集をする。優秀かついつも真面目に授業を受けているので、教師からはノーマークだ。
(試合の日程は2月21日……まだ両チームのスタメンは公表されてないんだ)
試合、観に行きたい……!一般応募?どうすればいいんだろう。正式な情報も、ブルーロック側の情報もまだ少ない。代わりになまえは日本代表チームについて調べることにした。
DFのオリヴァ・愛空を中心に鉄壁のディフェンスを誇る安定感があるチームで、戦術的で組織的なサッカーをする、日本のサッカーを体現したようなチームだ。
(エースストライカーの閃堂秋人選手はかっこいいって女の子から人気あるよね。主将のオリヴァ・愛空選手は――え、二股疑惑……?)
色恋の噂話があちらこちらに飛び交っていた。
◆◆◆
白宝高校は進学校ということもあり、部活動の引退は早い。放課後、残りわずかなサッカー部の活動を悔いのないようやりきろうと、今日もなまえは元気よく部室に訪れた。
「あ、マネージャー!BOSSや凪たちが日本代表と戦うかも知れないんすよね!?」
スマホ片手に、部員たちの間でもその話題で持ちきりだったようだ。
「うん、楽しみだね!」
……ん?笑顔で答えたなまえは部室のテーブルの上に色紙があるのに気づいた。寄せ書き……?それにあて名は……
「わー!」
「!?」
直後、一人の部員が慌てて隠すように腕に抱える。
「誰だ、こんなとこに置きっぱなしにしたのは!バレるだろ!」
「す、すみません!」
「ど、どうしたの?」
焦る皆の様子に不思議に思ってなまえが尋ねると「じつは……」部員たちはぽつりと理由を話す。
「もうそろそろ名字さんもマネージャーを引退するし、俺たち、感謝の気持ちをと寄せ書きを用意してたんだ」
えっ、嬉しい……思いがけないサプライズだ。
「せっかくサッカーが楽しくなって目標もできたのに、BOSSも凪もいなくなって……マネージャーの名字さんがいなけりゃ俺たちここまで来れなかったと思う」
「俺たち、本当に感謝してるんだ!」
「そんな、私は大したことは……」
次々とお礼を言われてなまえは困惑する。それは、玲王の元で努力し、諦めなかった彼らの実力があってこそだ。
「……私も」
思い返せば、サッカー部での日々は心から楽しかったとなまえは言える。
最初は玲王にちょっと強引に勧誘されてマネージャーになったが、二人がいなくなっても――少しずつ実力が上がっている部員たちの姿を見るのも、皆で一団となって戦術を考えるのも、楽しかった。
「こちらこそありがとう。私も、みんなと部活して、もっとサッカーのことが好きになったと思う」
花が咲くような笑顔で言うなまえに、部室の空気がぽわぽわして、部員たちの心もぽわぽわしてくる。
「あ……最後までよろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ……」
「お願いっス!」
なんだか気恥ずかしい空気になり、お互いペコペコと丁重な挨拶をした。
◆◆◆
糸師冴率いるU-20日本代表vs.ブルーロック戦開幕と、スポーツニュースを賑わした数日後――
"なまえちゃん、時間がある時うちに寄ってほしいんだ"
優からそんなメッセージが届き、なまえは蜂楽家に訪れる。
廻がいなくても、優とは変わらずちょくちょく交流していた。
おいしいお菓子をもらったから食べにおいで、とか。海外作家の画集が届いたから観にくる?とか。
ニュースのことももちろん話したが、てっきり今日もそんな他愛のないおしゃべりのお誘いだと思っていた。
「なまえちゃん、いらっしゃい!」
「おじゃまします」
リビングに案内され「ちょっと待ってて」と、優はシュークリームと紅茶を用意してくれる。
「じつは、日本フットボール連合から便りが届いてね」
「あ、もしかして今度のU-20日本代表戦について?」
「そうそう、その案内で……はい」
優が白い封筒から取り出したのは――一枚のチケットだった。
「え、これって……!」
間違いなく、U-20日本代表戦のチケットだ。優は廻によく似た笑顔でにっと笑って言う。
「家族は無償で招待されるみたいで、これはなまえちゃんの分」
「嬉しい……っ!すごく、行きたかったの!あ、でも、いいのかな?」
私、家族じゃないけど……と呟くなまえは、嬉しいのに心配もあってかオロオロしている。そんななまえに優はくすりと笑ってから口を開いた。
「大丈夫大丈夫!チケットは2枚まで申し込めて、家族って限定されてないし、なまえちゃんは将来家族になる予定――じゃない?」
最後の言葉に、なまえは照れくさくなってしまう。廻と幼い頃に交わした約束。もちろん、気持ちは今も変わってない。
それに、と優は続ける。
「廻もスタメンで出るみたいだよ。まだポジションは発表されてないけど」
「……っ」
「なまえちゃんが応援に来てくれたら、廻、めちゃくちゃ喜ぶだろうな」
……――廻に、会いたい。
サッカーをしている姿が見たい。
いつだって、誰よりもサッカーを楽しんでいる廻を、近くで応援したい――!
「ありがとう、優さん……私、一緒に行きたい!」
「2月21日が楽しみだね!」
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あでぃしょなる⚽たいむ!
#アイドル並みの撮影会
「あ、私も引退日にみんなになにか用意しておくね」
「じゃ、じゃあ!」
「リクエストがあるでありますッ!」
「マネージャーと2ショット写真がいいです!」
「青春の1ページにしますので!」
「できれば制服で……!」
「う、うん……じゃあ……」
「あ、俺もお願いしちゃおっかなぁ」
「監督ぅ!アンタは任せっきりでずっとなにもしてこなかったじゃないですか!」
「図々しいっすよ!」
監督、しょんぼり。
(後日、アイドルの撮影会のように行われ、関係のない野郎まで並んで揉めたとかなんとか)