第4試合――烏と乙夜の息の合ったプレーを崩したのは、廻のドリブルによってだ。
そして……
「へいへーい!ぱっつん前髪くん、パス!」
先制点を決めたのは士道だ。
一人、二人と抜き去った先――軽い声でパスを要求してきたのが士道だった。二人に挟まれ、普通なら撃てる位置じゃない。逆サイドからは凛も上がってきている。一瞬だけ考え、廻は決断する。
お手並み拝見――!
そんな意味を込めた、挑発的なパスを士道に通した。
「いいパスするじゃん。惚れちゃうねぇ」
……なんか寒気がするような台詞が聞こえてきたけど。が、次の瞬間、二人のディフェンスをねじ伏せるように強引なシュートに廻の眼は見開いた。
(あの体勢から?やばっ……)
不安定な体勢から撃たれたとは思えない威力のボールは、ブルーロックマンの手を掠め、ネットに突き刺さる。
……やるじゃん。
廻はすごい奴は皆、心に"かいぶつ"を飼っていると思っている。だが、士道はそれとは別の、士道自身がまるで"悪魔"のようだった。
「爆発爆発爆発ぅ!」
「うるせぇ、鳴くな」
「先にゴール決めたからって男の嫉妬は醜いぜー?凛ちゃーん」
(また言い合ってる……)
士道と凛の仲は最悪らしく、二人の間ではバチバチどころか険悪なムードがずっと漂っている。
この個人プレーマシマシの強烈な二人がいるチームで、自身をアピールするのは至難の技だ。
でも、廻はその方法を当たり前のように知っている。
それは、自分でゴールを決めること!
Bチームからのキックオフでは、Aチームは一度もボールに触れられず乙夜にゴールを決められたが、チャンスは巡ってくる。
「オカッパ!」
「俺を見ろ!」
凛と士道、今度はどちらにパスを出すのか。
ピッチを走る全員が、廻が蹴るボールの行方を追う。
(どっちにしようかな〜♪)
心の中でそんな風に歌いながらも、廻の選択肢は一択だ。
このままドリブルで突破する!
「この先通るなら通行手形よこしな」
「ニンニン丸!」
「ダサいあだ名つけんな。萎え〜」
No.4であり、忍者の異名を持つ乙夜が気配なく廻の前に現れた。詰め寄られ、ボールを取られる――瞬間、瞬時に廻はトラップでフェイントし、自身はターンで乙夜を追い越す。
「あ、抜けた」
「マジか」
廻の閃きと直感が乙夜の読みを上回った。そのままボールをゴールへ連れていく。
「BON!」
2−1。廻のゴールで、Aチームは1点を奪り返した。
凛と士道という個性にも埋もれず、存在証明を果たした廻の活躍もあり――結果、Aチームは5−2という点差をつけて勝利した。
そして、最終戦。
6時間のインターバルを挟み、第5試合、Aチームvs.Cチームの試合だ。
「凪っち、よろしくね!」
「ん」
廻の上げた片手に、凪が手を合わせてパンッと軽快な音が鳴る。
廻の二試合目は雪宮と凪率いるCチームとしてだった。そして、廻にとっては先ほど味方だったAチームが今度は対戦相手となる。
「俺もよろしく。蜂楽くん」
その様子を微笑ましそうに見ながら、近づいてきたのは雪宮だ。
人の良さそうな笑顔で気さくな挨拶をする雪宮に、人に壁を作らない廻だ。
「俺はユッキーでいいよ」
「よろしく、ユッキー!」
二人はすぐに打ち解ける。
「じつは、俺もドリブルが得意なんだ。蜂楽くんとは違うスタイルだけどね」
「ナンバー5のユッキーでも、ドリブルなら俺も負けないよ♪」
残りのメンバーは斬鉄と、廻は初対面の猿堂寺暁だ。
「斬鉄も猿堂寺もよろ!」
「よろしくな!」
「ふ……俺の手を引っ張るなよ、蜂楽廻。……一度言ってみたかったんだけど、合ってる?」
「それを言うなら足っしょ。ま、俺は足引っ張らないけどね♪」
Aチームに比べてCチームは友好的な雰囲気の中、試合は始まる――。
1−0
開始、数分でのAチーム、凛による速攻先制点だった。
チームワークが最悪でも、それはAチームにとっては取るに足らない問題だ。まず、ボールがAチームに渡るとほぼ止めることはできないだろう。
「あああ!ボールを奪ってアピールしないと生き残れない〜〜!!」
Cチームがボールを持っていても、そのタフネスとネガティブな執念で時光が上手く立ち回りし、
「隙があるぜ」
「キミ、小回りが利くね……!」
その一瞬を脚で刈るような動作で、清羅が雪宮からボールを奪う。そのボールはワンテンポで黒名に渡り、
「清羅!速攻速攻!」
「あい」
黒名と清羅による二人の細かいタッチによるワンツーだ。
(あの二人、なんか似てんけどコンビネーションも抜群じゃん)
追いかける猿堂寺は止められず、最終的にボールの行き先は、凛か士道の元だ。
凛がシュートし、点差は2−0に。
「……チッ」
Cチーム的にはどっちがゴールをしても1点を奪われたことには変わりはないが、あの二人にとっては違うらしい。
「おいおい、凛ちゃーん。先に俺より2点奪ったからって気持ちよくイッてんじゃねーぞ」
「……はあ?勝手にキモい妄想して絡んでくんじゃねえよ。俺の邪魔だけはすんな、カス」
悪口も険悪ムードも、廻がチームにいた時よりも悪化している。それを見て斬鉄は「俺、あのチーム選ばなくてよかった……」こわっと呟いたと同時にほっとした。
「蜂楽のパス。やっぱ面白いね」
Cチームも奪られるばかりではなく、こちらも凪という天才ストライカーと、1on1皇帝戦法の雪宮によって、点を奪り返していった。
「俺に2度目はないよ、凛くん」
(ユッキー、見かけによらずゴリゴリのドリブルなんだ)
確かに自分とは正反対のスタイルだ。涼しい顔で強引に突破する姿はかっこいいと思う。(まあ、俺のドリブルが一番だけどね♪)
後半戦に入り、得点は4−3。
奪って奪り返しての中、Cチームに再びチャンスが訪れる。廻にボールが渡り、清羅が立ち塞がるが、得意な高速シザースで抜き去った。
「(右か左、ボーダーラインがわからんかった……)」
「お前の一芸は見飽きてんだよ、オカッパ」
「うげっ、凛ちゃん!」
次に立ち塞がったのは凛だ。同じチームになった際に凛とは1on1をしたが、一度も廻は勝てていない。
「俺もいるぞ」
特徴的な三つ編み。後ろから黒名が挟み撃ちするように現れ、廻のパスコースを的確に阻止する。
ドリブル突破か凪へのパスか――凛と黒名はその二択と考えたが、……廻の答えは違う。
「俺の狙いは――」
「おお?」
「!」
サイドステップからのノールックバックヒールパス!
後ろに戻した?いや、意図的なパスだ。誰に――と二人が思う間もなく、一直線に横を駆け抜けるのは、
「発、進!!」
斬鉄だ。千切も凌駕するトップスピードで、一直線にゴールへ走る。
「チッ」
凛も黒名も斬鉄を追いかける形だ。
「そのまま決めちゃえ!斬鉄!」
斬鉄の左足から放つシュートの威力を廻は知っている。ゴール前、さすがの凛も黒名も斬鉄の加速に追いつけない。てっきり斬鉄がこのままゴールを決めると思っていたが……
「クソ邪魔なリンリンをおいてけぼりにしたのは評価すんぜ、ゴーグルマン2号」
「っ1号は誰だ!?」
1号は先に戦った雪宮のことだ。斬鉄を待ち構えていた士道の脚が伸びる――「っく」だが、斬鉄の武器はその足の速さだけでなく反応速度もだ。
考えるより先に体が動き、素早くパスを出す。
てっきりパスは凪に出すのかと思ったが……
「およ?」
パスミスではなく、ちゃんと斬鉄自身が考えてのことだ。Cチームを選んだのはずっとチームを組んでた凪がいたからだったが、自分を信頼してくれてパスを出してくれたからこそ。
「お前に返すぞ!蜂楽!」
今度こそ決めろ――!
「りょーかい♪」
にっと笑った廻は、落ちてくるボールをワンバウンドし、シュートを放った。
それは、廻×斬鉄の化学反応。
4−4!
ついに点数が並んだ。Cチームから斬鉄と猿堂の歓声が響く。
「一度目は5−3で負けたからね。リベンジってとこかな」
「うん、負けっぱなしは楽しくないし」
「へぇ、凪くんもそんなこと言うなんて意外だね」
雪宮と凪がそんな会話をする一方、斬鉄は廻に話しかけていた。
「今のは計画通りのコンビニエーンスだったな」
「ぷはっ。それ、コンビネーションじゃん?」
コンビしか合ってないし、なんなら計画もしていない。二人の会話を聞いていた猿堂はうすうす思っていたことだったが、斬鉄がおバカキャラだということに気づいた。
「しつけぇ害虫が!」
「じゃあてめぇが引っ込めよ!」
――残り時間数分。ゴール手前、ボールを争っているのは敵同士ではなく、凛と士道だった。
「クソが」
『試合終了!!SCORE 5−4で、チームAの勝利!!』
士道の手が凛の顔面を掴み妨害するが、一瞬の差で凛がシュートして、勝敗が決まる。
「ありゃー。嫌な予感」
汗を拭いながら廻は呟いた。勝敗よりも、睨み合って何故か臨戦態勢を取る二人に皆の意識が向く。
「おいおい、やめろ!」
「試合、終わったんだよ!?」
ほぼ同時に凛と士道の手が出て、廻の嫌な予感は当たった。
「終わったから心置きなくブチ殺せるぜ……実力不足のゴミ虫野郎」
「ああ、完全に同意よ再起不能にしてやるよ!!」
その言葉と共に士道の膝蹴りがモロに凛の顔面に入った。鼻血が飛び散ったのが廻の眼に見えて、あれは痛いと思う。
「くっ……」
「ちゃっはぁ♪」
怯んだ凛に気をよくしたのか、士道は脚を上げて飛び上がる。
「頭かち割リンリン!!」
「だぁ!!それマジでダメなやつ!」
時光が制止の声を上げた瞬間――士道に異変が起こった。
「!?」
バチッ!と電流が流れたような音が鳴り、その場に士道は倒れる。……そして、動かない。
「士道が……死んだ」
「マジか」
「いや、さすがに生きてるでしょ!?」
廻の物騒な言葉に、あまり驚いていない顔で驚く清羅。時光が慌てて否定したが、一体なにが起こったのか。
『いい加減にしろ、お前ら』
唖然とするその場に、呆れた声が響いた。気づくと、モニターに絵心の姿が映し出されている。
『ボディスーツに仕込んだ対暴動用の電気ショックなんか使わせやがって』
「え……電気ショック?」
「ひぃいい!?」
全員、初めて知る事実にざわめきが走る。じつは物騒なもん着てたんだと、廻も自分のボディスーツを見る。電気ショックによって士道は気絶したらしい。
『これにて全試合終了……"適正試験"は完了した。これより6時間後、U-20日本代表に挑むレギュラーを発表する』
その絵心の言葉に、選手たちは本来の目的を思い出した。
廻は自分ができることはやりきったと思う。
心残りはなく、あとは結果発表を待つだけだ。
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あでぃしょなる⚽たいむ!
#青の監獄と書いてブルーロック
〜雪宮と凪の会話〜
「まさか、このボディスーツに電気ショックが仕込まれていたなんてね。色々ハイテクとは思ってたけど」
「俺たち囚人みたいじゃない?」
「"青の監獄"ってそこからきてたりして」
「囚人なら、罪名とかあんのかな」
「(凪くんなら怠惰だろうなぁ)」
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「蜂楽、どうやらブルーロックって"青の監獄"って意味らしい……。知ってた?」
「え、そーなの?知らなかった」
「ミートゥ!」
廻も知らなかったことに嬉しい斬鉄