雄英式エイプリルフール

「なまえ、今日は何の日でしょうか」
「4月1日、エイプリルフールですね、安吾さん」
「ええ、今年こそ私は太宰くんに騙されませんよ」

 ――朝食を食べながら意気込む安吾さんだけど、なんだかんだ安吾さんは毎年太宰さんにしてやられている。(毎年手の込んだ嘘であの安吾さんを騙す太宰さんもすごいよね…)

「今年は逆に私から仕掛けて、太宰くんをギャフンと云わせてやります」

 ――ギャフンとね…!

(安吾さん、逆襲のエイプリルフール……!!)

 安吾さんのドヤ顔に、上手くいく事を願いながら私はいつものように学校に登校する。

 エイプリルフールだからと言って、日本に根付いてるわけでもないので、クラスでは特に話題に出ることもなく。(むしろ話題は昨日のドキュメンタリーで出た我らがランチラッシュの話)


 いつもとちょっと違うと言えば――


「今日のヒーロー基礎学は、A組とB組合同で行う」

 相澤先生がそう宣言した隣にはブラドキング先生の姿。
 集合した時にB組の姿があったから、もしやと思ったけど…何気に合同授業は初めてだ。

「内容はこうだ。A組B組シャッフルで4
〜5名でチームとなってのチーム戦だ。敗北証明は、いつも通り、この捕縛テープを巻き付けたとする」

 ブラドキング先生が説明するなか「なんだ、AB対抗戦じゃないのか…」とそう小さく残念そうに呟く物間くんの声が聞こえた。(物間くんとチームになったらやりにくそうだな〜)

「それぞれ各地点から5分後にスタートし、最後まで勝ち残ったチームが優勝だ」
「面白そうじゃねえか」

 そうやる気満々に呟いたのは爆豪くん。(すでに全員ぶっ飛ばす気でいるんだろうな〜)

 天哉くんが細かい質問をして、彼が納得したところで問題となるチーム分けだ。

 シャッフルということで事前にランダムで決められた組合せ。

「全10チームの、乱闘必須のバトルロイヤルだ――」

 相澤先生がピッとボタンを押すと、宙にチーム分けが映し出される。

 Aチーム:みょうじ・飯田・吹出・小森

「天哉くんっ一緒だ!」
「みょうじくん、共に頑張ろう!」
「二人もよろしく!吹出くんと希乃子ちゃん」
「よろしく!頑張ろうぜ!」
「なまえちゃんと一緒で嬉しいノコ」
「俺はA組委員長の〜〜…」

 Bチーム:緑谷・回原・泡瀬・小大

「(僕以外みんなB組…!)」
「緑谷だよな!俺、回原。よろしくな!」
「俺は泡瀬だ。よろしく頼むぜ!あ、こっちは小大」
「ん」
「あ、緑谷です。よろしく…!(良かった、友好的そうな人たちだ…!)」

 Cチーム:爆豪・鎌切・麗日・蛙吹

「「……!」」
「梅雨ちゃん…あの二人、すでに険悪ムードや」めっちゃ睨みあっとる…!
「似た者同士なのね。お茶子ちゃん、なんとかチームワークを築きましょう」

 Dチーム:轟・障子・鱗・凡戸

「「……………」」
「(…無口そうな二人だな…)」
「わぁ、A組の人、よろしくね〜」
「ああ…轟だ」
「…障子だ。よろしく…」
「鱗だ。こちらこそよろしく(無口なだけでコミュニケーションは取れそうか…?)」

 Eチーム:八百万・葉隠・取蔭・黒色

「いつもライバルっぽくなっちゃってたけど、同じチーム頑張りましょ!」
「ええ、こちらこそよろしくお願いしますわ」
「………………」
「あ、こっちの黒色は無口だけど悪いヤツじゃないからさ。こっちもよろしく」
「私は透明で黒色くんは真っ黒なんだね!ちょっと似た者同士、よろしくねー!」
「……!(友好的に話しかけてきた…俺のことが好きなのか……?)」
「(あーまた勘違いしてそうね…、黒色のやつ)」

 Fチーム:切島・峰田・砂藤・鉄哲・円場

「うおお!鉄哲!一緒のチームだ!!」
「おっしゃー!勝ちに行くぞ、切島!!」
「二人そろうとさらに熱いな…!」
「俺、ついていけんかな…」
「なんで5人チームなのに女子が一人もいねえんだよォォーー!!」

 Gチーム:芦戸・上鳴・青山・物間

「何故、B組が僕一人……!!」
「どんまいっ」
「仲良くやろうぜ!」
「今日も僕はきらめくよ☆」

 Hチーム:尾白・庄田・拳藤・塩崎

「君とはあの騎馬戦以来だな。よろしく、庄田!」
「今回はお互い実力で勝ちにいきましょう、尾白くん!」
「あたしたちも負けてらんないな!」
「はい。ヒーロー志望の名に恥じぬ、正々堂々と戦いましょう」

 Iチーム:常闇・耳郎・柳・角取

「昨日の友は今日の敵になり…その逆もまたしかりというわけか」
「よろしく」
「昨日の…?今日?どういう意味デスか?」日本語ムズかしいデース
「あ、気にしないで。よろしくってこと」
「よろしくナ!」

 Jチーム:瀬呂・口田・骨抜・宍田

「ま、A組B組関係なく頑張ろーぜ!」
「…っ…っ」コクコク
「やるからには勝ちにいきたいしな!」
「チームメイト相手でも、私…心を鬼にして頑張りますぞォ」


(うーん、面白いことになりそう)
 それぞれ、10チームの面々を見渡す。

「じゃあ各自に指定されたポイントで待機。5分後に合図なしでスタート――」

 チームは東西南北でバラけるらしい。
 移動しながら、改めて四人の"個性"の確認を行う。

 そして、5分後にスタート――という時に。

「「!?」」

 模擬市街地全体に響くけたたましく警報。

「なんだ!?」

 コマ割りマスクの下で顔を激しくびっくりマークにする吹出くん。

「びっくりしたノコ!」
「警報!?また侵入者でも……」

『外部からのハッキング。直ちにサイバー対策せよ!』

「「ハッキング…!?」」

 あの時とは別の理由をアナウンスが告げる。

「ハッキングって……もしかしてサイバー攻撃か!?」

 吹出くんの顔は今度は?マークになって、摩訶不思議…じゃなくて!

「サイバー攻撃なら、セキュリティ解除とか…?」

 またヴィランが攻め込んで――

「俺は先生方の指示を仰いで来る!君たちはその場で……」
「あっあれ見るノコ!?」
「「!?」」

 前方からは――入試試験の時の仮想ヴィランが大量に押し寄せて来る!?

「まさか…」
「ヴィランはヴィランでも…」
「仮想ヴィランの暴走か!?」
「可愛いくないノコね!」

『標的複数発見!ブッ殺ス!!』
『全員、皆殺シ!!』

 相変わらず爆豪くんみたいな物騒な口癖インプットされてるし!!

「来るぞ!」
「ボクにまかせて!」

 吹出くんがそう頼もしくそう言ったあと、すぅと息を吸い込んで。

「ズドーーン!!」

 吹出くんの"個性"は、発した擬音オノマトペを具現化する"個性"。

 口から飛び出した巨大な文字は、仮想ヴィランたちを押し潰す!

「援護する!」

 残った仮想ヴィランは天哉くんの蹴りで破壊!……って。

「まだまだいっぱいいる…!?」
「むぅ、切りがないのね!」
「どんだけの数がいるんだ!?」
「皆!後ろからも来るぞ!」
「「!?」」

 えええ!挟み撃ちにされた!!

『――A組、B組、全チームよく聞け!どうやら機械の制御装置をハッキングされて仮想ヴィランが暴走した模様!!』

「ブラドキング先生だ!」
「では、やはりこれはヴィランの仕業なのか!?」

 前方の仮想ヴィランは吹出くんが。
 後方は天哉くんが回し蹴りで吹き飛ばす。

「この混乱に生じてとかじゃないといいけど…!」

 私は二人の攻撃がもれた仮想ヴィランを"個性"で飛ばしながら、無線の声に耳を澄ます。

『俺やイレイザーは直ちに周囲の状況を確認せねばならん。相手は入試や体育祭で相手したロボだ。お前たち……戦えないとは言わせないぞ』

 ブラドキング先生の声に。

『ロボの損害は気にするな。校長のポケットマネーがある!』(ポケットマネー…!)『相手は機械。思う存分、"個性"を駆使して』

 ――他に被害が及ぶ前にここで食い止めろ!!!

「「はい!!!」」

 私たちは同時に大きく返事をした。

(きっと、他のみんなも……!!)



 ――Bチーム

「デトロイト…スマッシュ!」
「へぇ…!やるじゃん緑谷!」
「っ、回原くんも!」
「つーか、これヴィランの仕業だよな!?」
「でも、今はこの大量の仮想ヴィランを倒さねえと…!」
「回原くん!僕と君の攻撃を軸に連携して戦おう!」
「オーケー!緑谷!」
「了解!」「ん」

 ――Cチーム

「てめェは引っ込んでろや、カマ野郎!!」
「テメェが取りこぼした仮想ヴィランを刻んでやったんだろうが!」「アァ!?」
「二人とも喧嘩してる場合じゃないよ!後ろからも来とる!」
「お茶子ちゃん、前と後ろに分かれて、お互い二人をサポートしましょう。鎌切ちゃんは私と一緒に後ろをお願いできるかしら?」
「いいぜ!」
「うんっ分かった!」
「勝手に決めんじゃ…ねーわ!!」

 ――Dチーム

「…どうやら、ここ以外にも仮想ヴィランが暴れてるようだ…戦闘音が聞こえる…」
「この程度のロボ。他のやつらも平気だろう」
「でも〜固めても次々と来るよ〜」
「ああ、俺らチームは広範囲攻撃ができる者が二人いるからいいが、"個性"のタイプによっては消耗戦になるぞ」
「なら、こいつらさっさと片付けて他のやつらの加勢に行くぞ――」
「(…!まだ氷結の威力が増すのか。底が見えんな)」
「!気を付けろ、ミサイルが来るぞ!」
「入試試験で見たやつだぁ」
「俺がやる――!」

 ――Eチーム

「うはぁ!すごい量の仮想ヴィランが襲って来たよ〜!」
「皆さん!ここは一団となって乗り切りましょう!」
「ええ!それにブラドキング先生にああ言われちゃね。応えないわけにはいかないってもんよ!」
「…………ケヒヒ…所詮は機械」
「おー!気合い入れて私脱ぐわ!」
「「!?」」

 ――Fチーム

「「オラオラオラオラーー!!!」」
「すげぇ…!どんどんロボ破壊してってる……!!」
「でも絵面むさ苦しくね」
「根性あるのは切島だけかと思ったけどよ!砂藤!お前もやるじゃねえか!」
「おうよ、鉄哲!お前ら二人には負けねえぜ!」
「よっしゃー!砂藤、鉄哲!さっさとこいつら倒しちまおうぜ!!」
「「おお!!」」
「女子もいねえし、今日の見せ場はあいつらに譲ってやるか」
「っ――峰田、危ねえ!」

 ――Gチーム

「くそ…っなんで緊急時にA組と力を合わせなきゃならないんだ…!」
「ねえ、君。コピーの"個性"なんでしょ。僕のきらめいてる"個性"、特別にコピーしてもいいよ☆」
「はあああ!?」
「そこは対ロボに最強の俺の"個性"っしょ〜遠慮せずにコピーしてくれよな!」
「アタシの"個性"だって使い勝手いいよ!滑らせて動き止められるし、溶かせるし!」
「君たち好き勝手…!……いや、確かにそうだな…。フッ、良い機会だから僕の"個性"の真骨頂を見せてやるよ!」

 ――Hチーム

「――とりあえず、俺たちがするべきことは」
「目の前のこの大量の仮想ヴィランを倒すこと」
「皆さん、力を合わせて戦い抜きましょう…!」
「っ!後ろからも来るようだ…!」
「前と後ろ、二手に分かれるしかないな!」
「じゃ、互いの背中を守るってことで。後ろはあたしと茨にまかせてよ」
「はい、おまかせを。お二人は安心して前だけ見据えて戦ってください」
「頼もしいな、拳藤さんも塩崎さんも」
「それにお二人ともとても強い。尾白くん、僕たちは前の敵に集中しましょう!」

 ――Iチーム

「っ、前方からも後方からも大量に来るよ!同時に叩かないと囲まれるね、こりゃあ」
「ならば、やるべきことは一つ…。ダークシャドウ」
「アイヨ!」
「すごい数…」
「雄英ってトテモお金持ち。びっくりシマース!!」
「雄英、七不思議……」
「ほら来るよ!みんな、集中して!」

 ――Jチーム

「おいおい、やっべーなこの数!」
「か、仮想ヴィランと言えど……」
「挟み撃ちにされましたぞ…!」
「でも、やるっきゃないぜ。ま、こっちは俺にまかせてくれ」
「おお…!仮想ヴィランが沈んでいく!底なし沼みてぇ!」
「う、うん…っすごい…!」
「私も張り切っていきますぞー!!」



「――はっ」
 入試の時と同じように仮想ヴィランを順調に倒していく。
 現れたのはあの時の1Pと2Pだけど、数が多過ぎる……!

「天哉くん!オレンジジュース持ってきてる?」
「ボトル一本分は持ってきてるぞ!」

 頭上から踵落としを決めた天哉くんの隣にテレポートして聞いた。

 オレンジジュースは天哉くんの"個性"のエンジンの燃料だ。

「いざとなったら、"個性"を使わずとも戦うさ!」

 天哉くんはそう頼もしく言いながら、再び仮想ヴィランを蹴りで貫く。

 前方は吹出くんが食い止めてくれてるけど、彼の"個性"にだって限界がある。

「ドーン!!」

 ――声を出す喉だ。仮想ヴィランといえ、下手すると消耗戦に持ち込み……

「っ3Pもいる!ミサイルが来るぞ!」
「おーけー!」

 慌てる吹出くんの声に返事をしてから。
 ミサイルを視界に映せば、しゅんと消えて別の仮想ヴィランの中へ。

 転移されたと同時に周りのロボたちも巻き込んで爆発。

「さっすがみょうじさん!」
「なまえちゃん!もっとやっちゃえノコ!」

 吹出くんと希乃子ちゃんの声に笑顔を浮かべて答える。むしろ、ミサイル撃ってきてもらった方がこの方法で効率良いかも!

「わたしのキノコたちは機械だと足止めしかできないノコ…」
「それも立派な戦法だよ〜!」

 仮想ヴィランの足の連結部分に希乃子ちゃんの"個性"のきのこが生えて、動きを阻害している。
 そこに天哉くんの攻撃が入って倒すという、良い連携だと思うけどな。

(きのこ……)

 ………………………。

 何か活用法はないかなと考えようとすると、きのこ自殺をしようとする太宰さんしか思い浮かばない!

『いいかい、なまえ。きのこ自殺は何も食べるだけでなく、胞子が危険なきのこもあるのだよ。それを使って〜〜』
『太宰さん。その情報はいらないです』

 ………………いや。

『中でもホコリタケっていう面白いきのこがあってね……』

「………………」
「なまえちゃん、どぉかした?」
「希乃子ちゃん。ホコリタケって、生やせられる?」
「ホコリタケちゃん?もちろんノコ!」


 ――まさかの太宰さんのいらない知識がここで役に立つなんて!(さすが私の師匠!)


「名付けて……"きのこニョキニョキドッカーン作戦"!!(そのまんま)」
「キノコまみれにしちゃいノコ!」
「何の話をしているのだみょうじくんと小森くんは!?」
「分かんないけどグッときたぜ!!」

 ――作戦はこうだよ、天哉くん。

「……なるほど。小森くんと吹出くんの二人がいるからこそ出来る策だな」
「そして、最後は天哉くんの出番」
「ああ、まかせろ!」

 力強く頷き、天哉くんは走りながらオレンジジュースを飲んで燃料補給。

 まずは仮想ヴィランたちを集めるために二人で引き付ける。

「じゃっ、作戦スタート!」
「おお!」

 私はテレポートで、今度は希乃子ちゃんの元へ。

「なまえちゃんはこれスプレーしようね」
「スプレー?」
「抗菌スプレーノコ。これすればわたしのキノコ胞子に巻き込まれないの」
「なるほど〜ありがとう」

 希乃子ちゃんから受け取って、体に吹き掛けてから。
 一緒に仮想ヴィランの頭上にテレポート!

「生えろや生えろ!ホコリタケちゃん!!」

 ご機嫌な希乃子ちゃんは胞子を辺り一面に振り撒く!

「吹出くん、お願い!」

 無線で声をかけれは「りょうかい!みょうじさん!」と吹出くんの声が返ってきて。

「ジメジメ〜〜」

 ビルの上に待機していた吹出くんが"個性"を使う。
 一気に上がった湿度に体感不快指数は100%!

 ポンポンポンときのこが次々と増えていき、仮想ヴィランがきのこに埋め尽くされていく。(…あ、集合体がダメな人が見たら失神しそう)

 白く丸い形で、マッシュルームみたいなホコリタケ。

「カラカラ――!!」

 吹出くんが今度はそう叫べ、一気に湿度は下がって空気は乾燥。

 ――場の"環境"の準備は整った。

「天哉くん!!」
「レシプロ……」

 仮想ヴィランから追いかけられるように走っていた天哉くんがUターンをして、大群に向き合う。

「バースト――!!!」

 エンジンを吹かした脚は一気に加速し、仮想ヴィランに突っ込み、蹴散らしていく。

 目にも止まらぬ速さで、天哉くんが走り抜けた後に起きること。

 衝撃に巻き込まれて破裂したホコリタケから飛び出す胞子。
 ロボットのショートした電流。
 この乾燥した空気とくれば――

 次々とその場に起こる爆発。

 そう、粉塵爆発!!

 仮想ヴィランの大群を、

「一網打尽!!」

 思わずよっしゃあとガッツポーズする!

「なまえちゃん、やったノコね!!」
「"きのこニョキニョキドッカーン作戦"大成功だねぇ!」
『ドカンドカンと決まってギュンギュンきたぜ!!』
『この辺りの仮想ヴィランは一蹴したみたいだ!それにしてもみょうじくん、よくこの作戦を思い付いたな。お見事!』

 無線からも二人の嬉しそうな声が届く。

「「いえい!」」

 ビルの上で希乃子ちゃんとハイタッチした。

 さて。

(他のみんなも"終わってる"頃かな――)

 微かに届いていた戦闘音も、今は静かになっているからだ。



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