緑谷かよ!

 期末試験を終えて、夏休みまで残すところ指折りの日に。

「……結月。話したいことがあるから、放課後付き合ってくれねえか」

 と、轟焦凍が結月理世に声をかけているのを――こっそり目撃していた者たちがいた。


「「(こ、これは………!!!)」」


 そして、時は放課後。

 轟が理世を連れ出しているのを、こっそりついて行く影が七名……。彼らは少し離れた場所から、ヒソヒソと隠れ見していた。

「まさか、轟がねえ!」

 芦戸三奈。

「ドキドキだねー!理世ちゃん、轟くんと仲良しだけどOKするのかな!?」

 葉隠透。

「轟さん……私に内緒で理世さんに告白するなんて……!抜け駆けですわ!」

 八百万百。

「ついにうちのクラスで初のカップルが誕生するか……!?」

 瀬呂範太。

「いやいや、告白とまだ決まったわけじゃ……」

 切島鋭児郎。

「甘えぞ切島!!夏休み前に呼び出すなんてなぁ!十中八九告白なんだよォォ」

 上鳴電気。

「轟のやつ……!結月に告白して付き合って、夏休みには海に祭りに花火大会にイチャイチャ楽しむつもりだぞ!!」

 峰田実。

「「マジ許さん!!!」」

 声を合わせる上鳴と峰田の二人に、

「あんたたち顔、超怖いよ……」


 芦戸は二人にドン引きしながら言った。


「話ってのは……」

 話を切り出した轟に、七人はごくりと唾を呑み込み、次の言葉を待つ。

「……なんか轟も緊張してない?」
「そりゃあ告白だもん!さすがの轟くんも緊張するんじゃない?」

 芦戸と葉隠が、口ごもる轟を見て言う。

「轟さん……!ファイトですわ……!」
「八百万はさっきと意見違えけど、二人が付き合うのは賛成なの?」
「お二人が愛し合っているのなら、応援しますとも!ただ、轟さんは私に一言断るべきでしたわ……!」
「結月に告白するには八百万の許可がいるのか……?」

 瀬呂の質問に、真面目に八百万は答えて、それに切島は不思議そうに呟いた。

「轟〜フラれろ〜フラれてまえ〜」
「イケメン有罪イケメン有罪イケメン……」
「……ねえ。あんたたち、怖いんだけど。やめなよ」

 何やら呪詛を唱え始めた上鳴と峰田に、芦戸はさらにドン引きした。


「――いや……どう切り出していいのか悩んだ」

「突然の告白だもんね!轟も悩むんだねー!」
「轟くん、かなり本気じゃん!」
「頑張って、轟さん……!」

 女子三人は応援するように見守る。

「よくオブラートに包めって言われるからな。どう包むか……」

「オブラートってなんだ瀬呂!オブラートに包む告白があるのか!?男なら直球勝負だろ!」
「いや、俺に言われてもな……。轟は一体何を包む気なんだろうな」
「轟〜フラれろ〜フラれてまえ〜タイプじゃないってフラれろ〜」
「イケメン有罪イケメン有罪イケメン有罪イケメン有罪イケメン……」

 そして、二人の呪詛はさらに加速した。

「えっと……オブラートに包まなくても大丈夫だよ。むしろ、オブラートに包まない方がやっぱり焦凍くんらしいかな」
「そうか……?なら、単刀直入に言うぞ――」

「ついに来たぁぁ!!」
「単刀直入!!」
「さすが轟さんですわ……!覚悟をお決めになったのですね!」
「おいおい、これマジで告白なのか?マジなのか!?」
「落ち着け切島。いやでも、あの轟の真剣な顔……さすがにあの結月でも落ちるんじゃ……」
「轟〜フラれろ〜フラれてまえ〜実は上鳴くんが好きなのってフラれろ〜」
「イケメン有罪イケメン有罪イケメン有罪イケメン有罪イケメン有罪イケメ……」
「あんたたちいい加減にしなよ」


「話ってのは……」


 ゴクリ……。全員が次の轟の言葉を固唾を呑んで待つ。


「緑谷のことなんだが」


 ……………………。


「「(緑谷かよ――!――!――!!!)」」

 紛らわしいッ!!!
 全員、その場でずっこけそうになった。

「はーい、解さ〜ん。皆さん、暗くならないうちにお家に帰りましょう〜」

 上鳴は憑き物が落ちて、仏の顔のような笑みを浮かべる。

「やれやれ……危うく轟を万死の刑にするところだったぜ」

 同じような顔で峰田も続いた。

「あーあ、つまんなーい」
「せっかくうちのクラスからお似合いのカップルが生まれるかと思ったのにねー!」
「でも、どこか安心したような、残念なような……なんだか複雑な心境ですわ」
「ふーっ、俺が緊張したぜ!」
「轟、紛らわしいっつーか……案外結月も勘違いしてたりしてな!」


 瀬呂の言葉の通り、彼女は内心勘違いしかけていた。


 ――その帰り道。

(さっきは本当にドキドキしてびっくりしたな〜……)

 理世はその横顔をちらりと見るが、相変わらず涼しい顔をしている。

(……さっき話す時、無駄に緊張したな。結月の表情が……なんつーか……)

 その涼しげな本人も、内心はドキドキしていたかも知れない。


(――ははーん。理世ちゃん、エンデヴァーの息子くんと良い感じじゃないっすか〜!先輩には内緒にしとくんで安心してくださいね!)

 ――グッジョブ☆

 並んで帰る二人に。こっそり見守っていた護衛は勘違いしていた。



←back
top←