正統派武道系男子

 期末試験が終わり、オールマイト先生に潰された脚もすっかり回復した頃。

「尾白くんは放課後、自主練してるんだよね」

 クラス一の武道系男子である、尾白くんに声をかけた。

「うん。俺だけじゃなくて、砂糖や切島とかもよくいるよ」
「私、受け身の練習したくて……尾白くん、ご教授願えない?」
「俺でよければもちろん!」

 尾白くんは爽やかに笑って、そう二つ返事を返してくれた。

「ありがとう!」
「でも、珍しいね。結月さんが自主練してまでって」
「期末試験で相澤先生に指摘されて……できないままで放っておくのもな〜って」

 一応ね、と笑う。

「出来るようになりたいってわけか。じゃあ、今日の放課後からでも。……あ、俺からも一つ、代わりって言ったらアレだけど……」

 私も尾白くんのそのお願いに、二つ返事をした。

 ――時は放課後。

 場所は道場のような運動場だ。
 何故か集まったA組のギャラリーたち。

「いや、ただの組手なんだけど……」
「どこから話に尾ひれが付いたんだろうね〜」

 尾白くんのお願いは「テレポートと体術を組み合わせて戦う結月さんと手合わせしてみたい」というものだった……のが。

「結月と尾白が決闘するって聞いて、飛んできたよ!」

 違うよぉ、三奈ちゃん!何故かそんな風に噂になって、皆は集まったらしい。

「まあ、普通に考えて尾白と結月が決闘っておかしいよな」
「爆豪と結月ならともかく……」

 いや、それもない。何故なら爆豪くんと決闘したところで、私に何のメリットもないからだ!

「結月さんと尾白くんの手合わせかぁ……!シンプルな武道派の尾白くんと、テレポートを合わせてトリッキーな動きをする結月さん……!これはどんな手合わせになるか見逃せないぞ!」

 でっくんがわくわくとした声で言った。ノートとペンを両手に。(さすが……)

「まあ、気を取り直して……」

 尾白くんと向き合う。

「そうだな……。じゃあ、本気で来てくれ、結月さん!」


 構える尾白くんに、私は「じゃあ遠慮なく」と、"個性"を使い――……


「――えい☆」
「いてて!結月さんっギブ……!!」


 ぐいっと尾白くんの腕を極める。


「腕ひしぎ十字固め……!!」
「寝技かよ!?」
「理世ちゃん、すごーい!!」
「"個性"が使えると結月は強いねー!」
「結月結月!オイラにもそれかけてくれ!」
「おまえにはかけられなくね?」体格差的に
「尾白くんの武器はその強靭な尻尾……!あえて上半身を狙って、関節技に極め込んだんだ……!」
「さすがや、理世ちゃん……!」

 ぱっとテレポートして、尾白くんを解放してあげる。

「まさか、最後はこうもあっさりやられるとは……」

 情けないな、と尾白くんは苦笑いを浮かべた。

「"個性"ありの手合わせだったら、私強いよ!」

 なんせ触れさえすれば、どんな体勢でも(複雑じゃなければ)テレポートした先で現す事が出来るからだ。(尾白くんを床に仰向けにテレポートさせて、私も技をかけやすいようテレポートすればいいだけ)

 あと、尾白くんは普通の武道家の動きだから読みやすかったと伝えたら「普通の……」と、ちょっとショックを受けた模様。ごめん。

「逆に結月さんの動きがテレポートと合わさって読めないんだよな」
「力がないのをそれでカバーしてるからね。私との長期戦なら甘く見た方が良いけど」
「甘く見た方が良いって」

 なんだそれ、と尾白くんは小さく吹き出した。

「じゃあ尾白くん。次は受け身を教えて!」
「了解!まあ、教えるっても反復動作が基本だけど……。まず大切なのは頭、首、腰を守ることを第一に意識すること」

 それらは腕や脚などと違い、一生治らない怪我や、最悪、命に関わるかも知れないからだ。

「ねえねえ、尾白くん!受け身の稽古、私も一緒に参加していい!?」
「私も!お願いします!」

 透ちゃんにお茶子ちゃんに「アタシもアタシも!」と、三奈ちゃんも続く。

「ええと、俺は全然構わないよ」

 戸惑いながらも答える尾白くんに、三人は急いで体操服に着替えにいった。

「尾白くん、師範みたいだね〜」
「大袈裟だよ。まあ、俺の技術がみんなの役に立つなら嬉しいけどさ」

 尾白くんは照れくさそうに笑う。

 さっき、尾白くんに動きが読みやすいって言ったけど……。それは、尾白くんが私の攻撃を受けてみるのに、積極的に反撃しなかった事もあるだろう。

(尾白くんが本気だったら、どうなっただろうね?)

 着替えた三人が戻って来て、尾白先生による稽古が始まった。



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