雄英白書U:AB合同女子会

「妄想でキュンキュンしようよ!」
「妄想?」
「いや、それはさすがにちょっと」
「妄想っていうか、想像?例えばA組とB組の中で彼氏にするなら誰!?みたいなの」

 透ちゃんの提案に「それいいかも」と食いつくのはもちろん三奈ちゃんだ。

「でも、どなたか一人を選ぶというのは……」
「女子会っていっても要するに井戸端会議みたいなもんだろ?あれやこれや雑談すんのもコミュニケーションの一環だって」
 戸惑う百ちんに、慣れた様子であぐらをかいている一佳がニッと笑う。
「そうですわね……なにごとも経験ですね」

 じゃあさっそく…と透ちゃんが口を開く。

「彼氏にするなら誰がいい!?」

 彼氏かー……とみんなそう呟いて、考えるように黙り込む。(ちょっと身近過ぎて……)

 う〜んと私も同じように考えていると、唐突にレイちゃんに会話を振られる。

「理世だったら、A組だけじゃなくてうちとも普通科とも仲良いから選び放題じゃない?」
「選び放題って……」

 言い方に語弊があるよ、レイちゃん。
 それに、普通科は心操くんしか知り合いという知り合いいないし。

「…でも、全然分かんないよ〜だって今までそんな風に見てないもん」

 異性として意識しちゃう事はあっても。
 私の言葉にみんなも「確かに…」と唸った。

「いざ彼氏って考えてみると、誰もピンとこないんだよねぇ」
 ムーッと唇を尖らせて三奈ちゃんも同じような事を言う。
「そうだね。理世の言う通り、あたしもそういう気持ちで今まで見たことがなかったし」
「同級生であり、ヒーローを目指す仲間でもあり、ライバルでもありますもんね……」
「そうそう、それ」と百ちんの言葉に私は大きく頷く。
「つーか、彼氏にしたい男がいないっていうのが一番大きいんじゃ?」
「それを言ったらおしまいよ、耳郎ちゃん」
 さすが耳郎ちゃん。手厳しい。
「……あ」
「なに?ヤオモモ。彼氏にしたい人いたー!?」

 何かを思い出したように声をあげた百ちんに、三奈ちゃんが期待満々の目を向ける。

「私じゃなくて耳郎さんですわ」
「は?ウチ?」

 驚く耳郎ちゃんに、百ちんは少し照れたように口を開く。

「耳郎さんは、よく上鳴さんと仲良くお話しているなと思い出しまして……。上鳴さんはいかがですの?」
「ちょ、ヤメテ!そりゃ、アイツはしゃべりやすいけどさ、チャラいじゃん。絶対浮気する」

 話の先を自分に向けられ、恥ずかしそうに顔をしかめる耳郎ちゃん。

「むしろ、上鳴が好きなのは理世だって」
「上鳴くんは女の子なら誰でもよさそう」
「そうかしら?上鳴ちゃんって、付き合ったら意外と一筋になりそう」
「えっ、梅雨ちゃん、上鳴くんが好きなタイプなん!?」
「いいえ、全然」
(梅雨ちゃん、はっきり否定した…!)
「でも上鳴ちゃんは基本女の子には優しいでしょ?」
「う〜ん、ただの女好きっていうだけじゃない?」

 まあ、女好きでも……

「「…………峰田/くん/ちゃんよりはマシだけど」」

 能面のような表情で全員が口を揃えた。
「ん」一歩遅れて頷いた唯ちゃん。
 みんなで顔を見合わせてぷっと吹き出す。

「峰田に比べりゃ、誰だってマシだよ〜!」
 三奈ちゃんが涙を拭いながら隣の一佳に言う。
「B組に峰田みたいなのっているの?」
「いないいない。ウチの男どもはわりと硬派だよ。あ、物間みたいなのもいるけど」

 ひらひらと手を振りながら思い出したように一佳は答える。
 そういえば、物間くんはA組に関わると情緒不安定になるから、普段の姿をあんまり見たことないかも。

「物間はなー……」
「ん」
「物間だなー……」
「ん」

 レイちゃんの言葉に唯ちゃんが相づちのように頷く。(…なるほど。物間くんは物間くんと)

「顔はけっこうイケメンなのに、心がちょっとアレなのが残念だね!」
 あっけらかんと言う透ちゃん。
 せっかくのモテそうな色素薄い系男子なのにねぇ。
「イケメンといえば、轟は?」

 三奈ちゃんの問いに「そういえば」とそれぞれ口にする。忘れていた。
 うちには公式イケメンがいたのを!

「あぁ、あのエンデヴァーの」

 一佳の何気ないその一言で、みんなの選択肢から焦凍くんが外されたのが分かった。……ああ。

「……ないな」
「うん、息子の彼女に厳しそう……」

 むしろ勝手に婚約者とか連れてきそうなイメージがある。たぶん、私は轟家の事情を知っちゃったせいもあるだろうけど。
 そういえば、エンデヴァーは安吾さんの事を「丸眼鏡の"若造"」って呼んでたからなぁ……。
 焦凍くん自身は問題ないけど、確かにうまくやっていける気はしない。

「あぁいう気性の激しい方こそ、心が傷ついてるかもしれません。そんな傷を癒してさしあげたい……」
「茨、まさかのエンデヴァー!?」

 塩崎さんのまさかの発言に「同級生の父親!?」「ナンバー2のヒーローとの不倫!?」と不健全な言葉が飛び交う。

 塩崎さんは変わらぬ冷静な表情でふるふると首を振った。

「すべての生き物は、みな愛される資格を持つのです。癒してさしあげたいだけで、決して恋ではありませんし、タイプでもありませんのであしからず……」
「ビックリさせんな」
「ん」
「塩崎さんって真面目なんやね!」

 レイちゃんと唯ちゃんに続いて、お茶子ちゃんもほっとしたように言う。

「真面目といえば飯田ちゃんね」
「あー、A組の委員長」
「飯田さんは絶対浮気はしませんわね。きっとお付き合いしても変わらず真面目そうですわ……」
「あはは、ありえる」

 百ちんの言葉に簡単に想像できて私は笑う。そして、ごほんと喉を鳴らしてから再び口を開く。

「百くん!僕と結婚を前提にした清き交際をしてほしい――ぜひ、うちの両親に会ってくれまいか!?」

 天哉くんの言い方を真似て。
 片手を胸に手を当てると、もう片方の手はうつ伏せになってる三奈ちゃんの上からビシッと掌を百ちんに差し出した。

「「ぶはぁっ」」とみんなが吹き出した。

「気が早いよー!」
「理世ちゃんっ飯田くんのモノマネうま過ぎやー」
「飯田ってそんなキャラなんだ」
「ウケる飯田」
「んっ」
「ちょっと理世、笑わせないでよ」
「お腹いたいー!」

 ケラケラ笑うみんなに、めっちゃウケたと私も一緒になって笑う。
 百ちんは何故か頬をぽっと赤らめて。
「あ……はい……」と私の手を取った。
 ……ん?

「!なにヤオモモ、飯田が好きなの!?」
「ちっ違いますわ!今のは理世さんのプロポーズが迫真に迫っていたので、つい…!」

 慌てて顔を赤くして否定する百ちん。(実は私って演技力ある…?)

 によによする三奈ちゃんたちに、お茶子ちゃんみたいにあまりからかわれたら可哀想なので、話をそらすように助け船を出す。

「でも、交際してからがあんまり想像できないかも」
「あー……飯田って手を繋ぐまで何年もかかりそう」
「それこそ、結婚してからしか繋げないんじゃ……?」
「ハハッ、さすがにそこまでじゃないだろ?」

 一佳は冗談だと思ったらしいけど、A組女子みんなで真面目な顔で首を振った。

「飯田ちゃんならありえるわ」
 うん。
「マジで……?」
「純粋ハイパー真面目だから」

 どこまでも真面目を行くのが天哉くんだ。

「それじゃ緑谷は?」
 でっくんかぁ〜
「あの子って、いまいちよくわかんないんだけどさ」
「緑谷?」
「体育祭でも、埋めてある地雷使ったり大胆な戦法とったかと思えば、決勝ではノーガードの殴り合いみたいなことしたり、でも廊下とか食堂とかでふだん見かけるとイメージが違うんだよな」
 そう言って首を傾げる一佳。
「でっくんは"ふだんは"からっきしだからね〜」

 よく天哉くんや焦凍くんに言われている。
 確かに端から見たらでっくんはそんな印象を受けるだろうな。(まあ、体育祭は"個性"の関係でだけど)

「そうねぇ、緑谷ちゃんは……すごく努力家だと思うわ。日々感じるすべてをヒーローになるために活かそうとしているわ」

 合ってる?とまるで確認を取るように梅雨ちゃんはこちらを見て、隣のお茶子ちゃんと共に頷いた。

「……デクくん見てると、私ももっとがんばろうって思えるよ!」
「そうなんだ。周りにそういう気持ちを思い起こさせるって、いいね」

 麗らかな笑顔で言うお茶子ちゃんに一佳はニッと笑って答えた。

 まっすぐに頑張る姿や、でっくんの人柄が良いのは確かだ。切島くんとどっちが性格が良いかと聞かれたから甲乙をつけがたいぐらいに。

「あ、そんですんごくオールマイトオタク」
 三奈ちゃんが言ったそれは、でっくんを語る上で欠かせない要素。
「彼女とのデートと、オールマイトの握手会だったらオールマイト取りそう!」
「容易に想像できますわね」
 透ちゃんと百ちんが続く。
「え?学校で会えるのに?」

 首を傾げるレイちゃんに、私もそれにはいつも不思議に思っている。
 ほぼ毎日オールマイト先生と会ってても、それとこれとは別らしい……。

「それが緑谷という男」
「ていうか、彼女とのデートにオールマイトの握手会に行きそうだよね」
「それは……そうかもしれん」
「まあ、どっちか選ばれてオールマイトに取られるよりは平和的じゃない?」
「彼氏としてはナイ」
「ん」

 こうしてでっくんも選択肢からあえなく消えた。(デートにオールマイトの握手会か……シュールだ)

「じゃあ爆豪は?」
「「ないな」」

 即答で耳郎ちゃんと綺麗にハモった。

「理世は爆豪と仲良いじゃん」
「仲良くないよぉ!爆豪くんと仲良くできるのは切島くんぐらいだから」
「「(十分仲良いと思うけど…)」」

 耳郎ちゃんの言葉にすかさず否定。
 どこをどう見て私と爆豪くんの仲が良いと思うのか謎だ。

「それに、私にだって選ぶ権利がある」
「あ、うん。そだね」
「でも、よく理世ちゃんの方からも爆豪に話しかけてるよーな…」
「だって爆豪くん、すぐキレるから面白いんだもん」
「「(そこか……)」」

 火をつけてってお願いするだけで、ブッ殺そうとするからね!

「成績優秀、将来有望……だけど、あの性格じゃあなー」

 そう、爆豪くんは性格のマイナス部分が大きすぎる。
 彼と付き合える女子はいるのだろうか。(爆豪くん自身もストイックだから恋愛には興味なさそうだけど…)

「爆豪くんとも仲良くできる、うちのクラスの良心こと切島くんは!?」
「良いヤツで終わる」
「言い出しっぺの結月は?」
「私は切島くんは人として尊敬してるから」
「じゃあ、似たようなタイプでうちの鉄哲」
「暑苦しいのはちょっと…」
「ん」
「あっ瀬呂とかは!?」
「デリカシーがない人は論外ですわ!」
「宍田くん!良家のお坊っちゃんなんでしょう?」
「あー…理世はヒーロー基礎学の授業の時の宍田を知らないもんな」
「ん」
「!?(宍田くんに別の一面が…!?)」
「尾白くん!」
「え、誰?」
「ん…たぶん尻尾の…」
「尾白ちゃんは知名度を上げるところからかしら」
「体育祭で庄田さんと共に棄権をされた実直で真面目方ですね」

 こんな風に次々と男子の名前が出ては、私たちの厳しい審査にあえなく脱落していく。
 気づけばすべての男子が全滅。

「なんてこった……。このままじゃ、キュンキュンできずに補習に行かなきゃいけないよ……ううっ、キュンキュンしたいよー!」

 がっくりと項垂れる三奈ちゃん。
 その姿に「砂漠で倒れた旅人のように枯れかけた風情をなんとかしたい」と、わりと真剣に透ちゃんは考えているらしい。
 う〜んと悩んでからパッと明るい声を出す。

「それじゃ、逆で考えてみるっていうのは?私たちが男子で、男子がもし女の子だったら彼女にするなら誰!みたいな」
「目線を変えるのね」

 斬新……?とりあえず、想像してみる事から始まる。
 ………………
 …うん。見事に想像できない。

「なんか違う……」
「爆豪くんって女の子になったらマイルドになる?」
「ならないんじゃない?」
「飯田くんなら眼鏡女子やね」
「ああいう委員長キャラの女子いそう」
「そもそもキュンキュンする?彼女選ぶ目線って……」
 うん、そこだっ。
「それもそうか!」

 てへっと透ちゃんはあっけらかんと笑った。

「でも、一佳が男ならモテそう」
 少し離れた一佳を見ながらレイちゃんがそう口を開いた。
「へ?私?」

 目を丸くする一佳に、レイちゃんの隣の唯ちゃんも「ん」と頷く。

「B組で一番カッコいいのは一佳だよ」
「確かに。拳藤さんの一言でクラスがピシッとまとまりますしね。誰にも公平で、厳しくそれでいて温かい……なかなかできることじゃありません」

 同意する塩崎さんの言葉に「そういえば……」と百ちんが続ける。

「職場体験のとき、さりげなくフォローしてくださいましたわ。拳藤さんがご一緒でなかったら、もっと落ちこんでいたかも」
「あん時はお互い様だよ。つーかやめて、テレんじゃん」
 みんなに注目され、わずかに恥ずかしそうに顔をしかめる一佳。
「中身がイケメンだよね〜一佳は」
「頼りがいがあるのはわかる気がするわ。さっき、峰田ちゃんをふっ飛ばした時とか」
 
 頷く梅雨ちゃんとお茶子ちゃんに「わかる!」と三奈ちゃんも声をあげる。

「チカンなんかにも、バシーッと言ってくれそう!彼氏だったら、『俺の彼女になしてんだよ?』とか言っちゃってー!」

 ノリノリな三奈ちゃん。容易に想像できそうなその光景に、黄色い声が飛び交った。
 今のままの一佳でも、きっと颯爽と助けてくれるだろうな。

「って、女子同士でキュンキュンしても!」
「いや、勝手にキュンキュンされても」
「私は…理世さんもかっこいいと思いますわ!」
「あ、分かる!男の子になったら絶対美少年やし!」

 百ちんの言葉にお茶子ちゃんが続く。
 自分が男になるのは想像できないけど…一つ、言える事は。

「フフフ…私が男になったらみんな惚れちゃうよ?」
「理世の性格で男になったらちょっとうざそうな…」
「体力ないしねー軟弱な男はヤダ」
「え〜」

 耳郎ちゃんも三奈ちゃんもそんなはっきり言わなくてもぉ。

「やっぱりさ、恋愛目線で見るからしっくりこないんだよ。相棒サイドキック目線とかなら、意外とキュンキュンしそうなとこも見えてくるかもよ?」
相棒サイドキックねえー」
「もしくは、一日入れ替わるなら、とか?」

 今度は一佳の提案に再びみんなでう〜ん……と考え込む。

「それなら私は爆豪くんかなぁ」
「ええっ、そうなの?」

 お茶子ちゃんが出した意外な名前に、耳郎ちゃんが驚く。お茶子ちゃんは少し照れくさそうに笑ってから。

「うん。体育祭で直接戦って完敗したやん?そんとき、素直に強いなーって思ったんだ。あの強さを一回味わってみたい!」
「確かに爆豪さんは強いですわ。戦闘センスもありますし」
「だから爆豪くんになって、一回思いっきり戦ってみたい!」

 ピシッと拳を突き出すお茶子ちゃんに、三奈ちゃんが「なるほどねー」と頷く。

「中身がお茶子ちゃんな爆豪くんとなら仲良くなれそう」
「そしたら、入れ替わって麗日の中には爆豪が入ったりして!」
「ちょっと理世ちゃんっなんで今距離おくん!?」
「ごめん、中身爆豪くんのお茶子ちゃんを想像して……」

 つつつとお茶子ちゃんから離した体を元に戻す。(麗らかじゃないお茶子ちゃんは嫌だぁ)

「も〜…そういう理世ちゃんは?」
「私はそうだなぁ………天哉くん!思いっきり速く走りたい」

 私の"個性"ではできない事だから。

「そういうので言ったらアタシは瀬呂かなー。テープを出すっていうの、やってみたい!シュルルーッてさ。いつも酸ばっかりだし。ヤオモモは?」
「私は……強いて挙げるなら口田さんですわね。動物を操れるというのは、とても興味深いです」
「ん」

 唯ちゃんも同様らしい。確かに口田くんの"個性"は魅力的だ。虫も操れて強いし。

「ウチは上鳴かな。放電して、あのウェイ状態を体験してみたい。一回で十分だけど」
 あのウェイ状態がどんな感じか想像できないなぁ…。
「中身、耳郎ちゃんの上鳴くんならクールでかっこいいんじゃない?」「ええ?」

 私が言うと、それにはみんな文句なしに同意した。(上鳴くん、モテたいなら中身を耳郎ちゃんに代わってもらうべきね)

「私は……常闇ちゃんかしら。ダークシャドウちゃんと連携で戦う気分を味わってみたいの。それに、自分の中に別の生き物がいるってどんな感じなのか気になるわ」
「一心同体の相棒って良いよね〜」
 ダーくん、可愛いし!
「私は砂藤くんかなー!甘いものいっぱい食べても、それがエネルギーになるでしょ。食べすぎても太らないから罪悪感ないし!」
「いや、透明なんだから太ってるのとかバレないじゃん」
「バレるよ!服の膨らみの感じで」

 透ちゃんの言葉にみんなで笑う。
 ずっと全裸で過ごしてるわけにはいかないもんねぇ。

「恋愛抜きだとスラスラ選べるんだけどね」

 一佳が呆れたようにため息を吐いてから笑って言った。
 キュンキュンというより、これでは自分が体験したい"個性"の話だ。

「だめだぁ〜、アタシたち恋バナの一つもできないよ!」

 パタッと倒れこむ三奈ちゃんに、みんなで顔を見合わせて苦笑いする。

「今は補習がんばれ」
「きっと神様のお告げですわ」
「やめてぇ〜」

 耳郎ちゃんと塩崎さんに言われて、布団の上でジタバタする三奈ちゃんはだだっ子みたいで、私はくすくす笑った。

「私たちにはまだ恋は早いのかもねぇ」

 お父さんから高校卒業するまで彼氏を作らないでってお願いされてるし。

「え〜結月までぇ」
「そうね…でも……」と、口を開いく梅雨ちゃんと目が合った。

「理世ちゃん、"目は口ほどに物を言う"と言うわね」
「……?」

 首を傾げる。梅雨ちゃんは答えずケロっと笑って。

「恋に落ちる、って言うでしょ?だから、気がつくと落ちてしまっているものなのよ。きっとそのときになれば、誰かに気持ちを話したくてたまらなくなるんじゃないかしら。恋バナはそのときにたくさんしましょ」
「なんか梅雨ちゃん、大人だ…」

 恋に落ちる。

 私が恋に落ちる人はどんな人なんだろう――まだ見ぬ未来を想像する。

 きっとその人は、すっごくかっこよくて、すっごく素敵な人だと決まっている。

 だって、私が好きになる人だもの。

 ふと、先程の梅雨ちゃんの言葉を思い出す。

(気がつくと恋に落ちてしまってるということは、もしかしたら……気づいてないだけで――)

「……でも、やっぱり今キュンキュンしたいよぉ〜!ちょびっとだけでもいいから!」

 諦めきれない三奈ちゃんが声をあげる。いつかの恋より目の前のキュンキュンらしい。

「てっとりばやくキュンキュンするっていうと……理想のタイプの話とか?」
「三奈ちゃんはどういう人がタイプなの?」
「んーとね……まず強そう!でもね、たまに子供っぽい一面もある人がいいなー。やんちゃな感じで、それでいて、ずっとそばにいてくれるの〜!」

 ふんふんと三奈ちゃんの好みのタイプを聞いてると「……ん?」と何かに引っ掛かる。

「「(強そうでいて、子供っぽい一面、それでいてずっと一緒……)」」

 その特徴って……

「それってダークシャドウちゃんみたいね」
「「……それだ!」」

 梅雨ちゃんの指摘にA組のみんなと納得の声をあげた。

「ダークシャドウって、さっき言っていた常闇の"個性"だよな?」

 きょとんとする一佳に「そうだよ!そうだけど!」と三奈ちゃんが口を尖らせて反論するように言う。「人じゃないじゃん!」

「あらでも、ダークシャドウちゃんは強いわよ。今日、お昼ごはんに呼んでくるときに常闇ちゃんが訓練してる洞窟覗いたんだけど、暗闇だとダークシャドウちゃん、とっても勇ましいの。常闇ちゃんもすっごく苦労してたわ」
「喧嘩中だったみたいで、中から常闇くんの悲鳴が聞こえたときはびっくりしたな」
「でも明るいときはかわいいよね!アイヨ!とか返事するんだよ」
「そうそう、期末の演習試験で常闇ちゃんと組んだんだけど、ダークシャドウちゃんたら、常闇ちゃんがエクトプラズム先生の"個性"を『なんたる万能"個性"』って言ったら、『俺もダヨ』って拗ねてたわ」
「かわい」「ん!」

 レイちゃんと唯ちゃんの普段は乏しい表情がわずかにほんわかゆるむ。

「子供っぽい一面!」
「いいじゃん、ダークシャドウ」

 一佳が言うのに続いて「うん、いい」というようにみんなで言うと。

「……アリかな?」と、三奈ちゃんも流されるようにまんざらでもなく思えてきたらしい。

「で、"個性"だから常に一緒」
「いや!常に一緒なのは常闇じゃん!」
 耳郎ちゃんの言葉に三奈ちゃんは叫んだ。
「じゃあ、ダークシャドウって"個性"を持ってる常闇くんがタイプってことで!」
 からかうように透ちゃんの楽しげな声。
「ってことで!じゃないよ!」

 その場にどっと笑い声が起きた。

「もうこうなったら意地でもキュンキュンしてやる!次は……現役ヒーローの中で、もし結婚するなら誰!?」
「ええ〜?」
「ギャングオルカ!」
「理世ちゃん、ギャングオルカ好きだったん!?」


 話は尽きず、布団の上の女子会はまだまだ終わらない。



←back
top←